1日"数個"から販売総数1万個超に急成長
――お笑いコンビNON STYLEの石田さんのツイートから火がつき、『高知の財布』はネット上でかなり話題となりました。御社を取り巻く環境にはどういった影響がありましたか?
COACHや思ったら高知やった pic.twitter.com/TEX58liK9m
— NON STYLE 石田 明 (@gakuishida) 2018年8月11日
中島:ネットで話題になる前は、1日に数個売れる程度で、初回生産分は200個ほどでした。ところが、話題になった後では3日間で9,000個の販売を達成。現在でも販売ペースは落ちておらず、工場はフル稼働で生産しています。2018年11月時点での報告では、販売総数が1万個を突破しました。
取材オファーも多数いただき、地上波のテレビ番組をはじめ、「朝日新聞DIGITAL」や「47NEWS」などの新聞・通信、Webメディアでは「ねとらぼ」など、幅広く取り上げていただきました。
――数字以外では、その他どういった変化があったのでしょうか?
中島:ツイート前は、「高知」と書いた簡易リュックに財布を詰め込み、高知以外にも東京や大阪の至る所で販売していました。デパートやイベント会場、飲み会の席、ギャラリーなど、様々な場所で売っていましたが、平均で3日に1個ほどのペースでしか売れませんでした。発想自体はおもしろがってくれましたが、購買にまでは至りませんでした。
石田さんのツイート後は注文ラッシュとなり、当時抱えていた在庫が一気に売り切れました。店頭販売とオンラインショップを両立させていたため、発送作業や対応に追われ、クタクタになりましたね。1回目の生産後も注文数は増え続け、2回目となる生産のタイミングでは資金調達のために家族全員の生命保険を解約しました。売れ続けても、正直、胃がキリキリする思いでした。
――石田さんのツイート後はしばらく入荷待ちだったようですが、現在の状況はいかがでしょうか?
中島:現在では、ようやく在庫を豊富に用意することができ、道の駅やデパートにも商品を提供できるようになってきました。新色や新商品も展開しているのですが、こちらも順調に注文が入ってきています。その他、海外進出のお話もいただいており、先日香港に出張した際には、現地フリーペーパーの取材を受けさせていただきました。ただ、当面は地元の高知県で愛される「ご当地ブランド」を目指すつもりです。
そのため、実店舗での取り扱いについて全国から問い合わせがきていますが、現状は高知県内と高知に縁のある店舗のみで展開するようにしています。また、オンラインショップで購入してくれた方々向けに、少しでも高知県に興味を持ってもらえるよう観光配布物などを同封させていただいています。
その他、SNSを通じて知り合った高知県内のお店や飲食店には、スタッフが挨拶に回るようにしています。そこで得た知見・ご意見や高知の特産物をベースに、製品開発をしています。
「デザイン」倒れでなく品質も担保
――実際に『高知の財布』を購入された方々からはどういった声が上がっていますか?
中島:「商品を持っていると、会話のネタになる」という感想が多いです。実際に私もこの商品を使ってますが、声をかけられることがよくありますね。また、「品質にあまり期待していなかったが、実際に手にとってみると品質が高くて驚いた」という声も多くいただきます。
――今後は、どういった形でブランドを成長させていく予定でしょうか?
中島:高知県の人に愛され、しっかりと地元に根付いたブランドにしていきたいと考えています。「良いものを安く」「いつでも高知愛を持ち運べる」をコンセプトに、芸術家としての視点も持ちながら、ひとつずつできることをやっていきます。
――最後に、MarkeZine読者のヒントとなるようなアドバイスがあればお願いします。
中島:ネットで話題になるだけで終わらないよう、商品購入後のサポート体制などにも力を入れることが大切だと思います。我々は現在、SNS対応としてTwitterとInstagramにそれぞれ専属のスタッフを配置しています。
Twitterでは、商品名などのハッシュタグがついた投稿にはすべて目を通し、24時間以内にコメントを返すようにしています。また、Instagramの公式アカウント内では弊社の経営方針や商品への想いを全面に出した発信を行っています。このように、SNS上でいただいた要望やご意見は、即時にデザイナーや製品担当者に共有するようにしています。
――どうもありがとうございました。
マーケティング的には「石田さんという知名度のある人がたまたまツイートしただけの偶発的な結果」と捉える人もいるでしょう。ですが、遊び心のあるデザインが施された財布がお笑い芸人のツボに入り、それが世間に広く伝播したという事実は看過できないと思います。遊び心やユーモアのセンスが長けている商品やサービスは、それ自体が訴求力を持っているということではないでしょうか。
商品・サービスの持つ遊び心やユーモアに共感したインフルエンサーの情報発信は非常に力を持っているということがわかる事例でした。インフルエンサーマーケティングで上手くいかず悩んでいる方々は、見込み客層を分析した上で、「誰」が「どこに向けて」情報を発信するのか、今一度検討する価値はあるかもしれません。