本の内容、鵜呑みにしてません?
最初に行われたセッションは「議論しろ!話題のマーケ本は現場でも使えるのか!?~『ブランディングの科学』を読み解く~」。同セッションでは、書籍『ブランディングの科学』で語られている「従来のセオリーを覆す11のマーケティングの法則」の中から、「ダブルジョパディの法則」「ブランドに対する態度と思いが行動的ロイヤルティに反映される」について議論が進められた。登壇者は以下の3人。
写真左:サンスター株式会社 /デジマ下剋上主宰 兒嶋 仁視氏
同社のダイレクト部門のデジタル施策全体をリーダーとして統括している。
写真中央:花王株式会社 廣澤 祐氏
スキンケアブランド「キュレル」のマーケティングを担当。
写真右:ネスレ日本株式会社 江澤 創氏
プレミアムな「キットカット」である「キットカットショコラトリー」のマーケティング担当を務めている。
まずは「ダブルジョパディの法則」。この法則の意味は下記となっている。
マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティ※もやや低い。
※行動的ロイヤルティは購買額や購買回数など、認知的ロイヤルティは感情や知識など出典:『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』
バイロン・シャープ、朝日新聞出版
この法則に関して、江澤氏は非常に重要な考えだが、鵜呑みにしてはいけない部分もあると思ったという。
「実務の中でターゲティングを突き詰めて考えがちですが、そもそもシェアがなければロイヤルティも高まらないというのは知っておくべきです。ただ、この考えを鵜呑みにすると、マスのターゲットに向けて共通したメッセージを届ける、という一般的な施策に終始してしまいます。そのため、自社の立場に即してバランスを取ることが求められているように感じます」(江澤氏)
CRMやロイヤルティプログラムは意味がない?
モデレーターの兒嶋氏は、同書内でCRMやロイヤルティプログラムに莫大な投資をしても、得られる効果が薄いことを「ダブルジョパディの法則」を用いて説明していることに疑問を感じたようだ。というのも同氏はダイレクトマーケティングを担当し、新規獲得後の買い回りを含めた施策を行っているからだ。
では、CRMやロイヤルティプログラムを無視し、マスマーケティングを中心に大量の顧客を獲得するのが正解なのだろうか。これに対し廣澤氏は「商材の価格によって考え方は変わってくる」と語る。
「金額が高くても売れるものは開発コストはもちろん、CRMへの予算もかけることができます。つまり、兒嶋さんの担当するダイレクトマーケティングが間違っているわけではないと思います。ただ、一般的に我々のような大衆消費財では、マス広告を中心に規模の力でコスト・人力を効率化して物を売っていくというモデルが主流です」(廣澤氏)
しかし、同氏は今後はどうなるかわからないともしている。デジタル技術の進化、デバイスの普及が進み、One to Oneでコミュニケーションをするコストが圧倒的に安くなっているからだ。
「私見ですが、この本には『デジタル時代に入った時、知らないけどね(笑)』というメッセージが隠されていると思うんです。今後デジタル中心の世界になり、限界費用が安い状態で顧客単価を高められるようになると、稼ぎ方の構造そのものが変わるかもしれません」(廣澤氏)