国内のクリエイティブに見るダイバーシティの今
白石:グローバルのクリエイティブ事例を見てきましたが、国内ではどのような傾向が見られますか?
山田:国内のダイバーシティの取り組みや広告クリエイティブを見ていると、既存の「慣行」「慣習」によって抑圧されているような人に対する働きかけが見られます。企業・ブランド側から消費者に向けて「当たり前に行われているそれは必要ないんじゃない?」とインサイトにもとづき寄り添う提案をしていく広告クリエイティブが見られるようになっています。
こちらは「就活生=黒いスーツに黒髪」という慣例に対する就活生の本音を紹介したパンテーンの「1000人の就活生のホンネ」というキャンペーンです。
広告主:PANTENE Japan
公開日:2018年9月30日
ゴディバが発信して話題になった「日本は、義理チョコをやめよう(参考記事)」というメッセージも、ライフイベントやシーズナルイベントをうまく活用する文脈で考えることができます。
白石:国内企業の多くは、グローバル企業とはまた違ったフェーズにあるように感じますね。日本の場合は、初期のフェーズとしてまず現在の慣行に対して疑問を投げかけるようなメッセージが多い。これからダイバーシティに関する認識が高まっていくにつれて、これまで見てきたようなダイレクトなメッセージや企業としてのスタンスを示すフェーズに移っていくように思います。
「就活」「義理チョコ」などシーズナリティのイベントに対する固定観念を取り払うようなクリエイティブが高い評価を得ている点も興味深いです。海外の事例と比べるとドラスティックではありませんが、それでいて抽象的にもなっていない。
山田:こうした小さな行動を促していくスタイルが、日本の文化や風土に合っているのかなと思います。
ダイバーシティ推進は企業戦略の一部
山田:最後に、炎上後の対応で評価されたクラッカーのブランドHoney Maidの事例をご紹介したいと思います。2014年、Honey Maidが「物事がいくら変わろうと、我々を健康にするものは変わらない」というメッセージのもと、同性カップルや異人種のカップルを登場させた動画を公開しました。その結果、賛同の声が多数ありながらも、ネット上でこの動画に対する批判の声が一定数寄せられたんです。
ところが、Honey Maidはこれに対し、寄せられたネガティブなコメントをすべてプリントアウトして、その紙を使って「LOVE」というオブジェクトを作った。さらに、今度はポジティブな意見もプリントして「LOVE」を囲みました。
広告主:Honey Maid
公開日:2014年4月3日
動画コンテンツに対する否定的なコメントを無視するのではなく、それも取り込んだうえで「結局『LOVE』があれば家族なんだ」と切り返した。賛否両論が寄せられる中で、それらを静観するのではなく、自社の想いを伝える新たなクリエイティブへと昇華してみせたのは、組織としてダイバーシティに取り組む覚悟を感じました
白石:日本国内の企業だと謝罪文を出して事態を収拾するイメージがありますが、この事例は個人的にとても共感できます。最近は「ダイバーシティマーケティング」といった言葉も使われるようになっている中で、ネガティブな反応が出た際に企業として一貫した姿勢を示せるか否かで本質的な企業価値が試されるようにも思います。今後、企業戦略のひとつのテーマとしてみなされるようになるのではないでしょうか。
山田:まさに。先ほども言及しましたが、企業のダイバーシティに対するスタンスは、明らかに消費者の購買にも影響をもたらしています。ネガティブな反応に対してどういう対応をするのかも、当然消費者はウォッチしていますよね。
白石:ダイバーシティは社会貢献や「働き方改革」「女性活躍推進」などに代表されるように、人事に関する問題だと捉えられることが多いです。しかし、企業は自社の考えるダイバーシティをどのような形でメッセージとして打ち出し対応していくか、それがマーケティング活動においても大きなファクターであることがわかりました。どうもありがとうございました。