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『MarkeZine』(雑誌)

第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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MarkeZine Day 2019 Spring(AD)

「ペルソナ4×4」ロジックで解き明かす多様化する女性のインサイト

 女性市場は拡大しているが、価値観・購買行動が多様化していることから具体的な顧客像を描くことが難しくなっている。3月8日に開催された「MarkeZine Day 2019 Spring」では、共同印刷の吉丸滋美氏が登壇し、慶応義塾大学名誉教授の熊坂賢次氏とともに研究開発した「ペルソナ4×4」ロジックを紹介。女性の行動の裏にある価値観をつかみ、インサイトを得る方法を紐解いていった。

拡大する女性市場、複雑化するインサイトをどう把握するか

 共同印刷は、1897年創業の総合印刷会社。2017年に120周年を迎えたのを機に、新しいコーポレートブランド「TOMOWEL」を導入し、これまで培ってきた総合力を武器に、事業領域のさらなる拡大と企業活性化を推進している。

 そうしたなかで、次世代の消費者市場を切り開く活動の一環として吉丸滋美氏が進めているのが、「WIC(ウーマンズ・インサイト・コミュニケーション)プロジェクト」だ。女性インサイトに関わる研究・開発プロジェクトとして立ち上げ、拡大する女性市場を捉えるための取り組みを行っている。

共同印刷株式会社 トータルソリューションオフィス マーケティング企画部 担当課長 吉丸滋美氏
共同印刷株式会社 トータルソリューションオフィス マーケティング企画部 担当課長 吉丸滋美氏

 吉丸氏は、いま女性市場が注目されている背景には、「多くの商品・サービスに対して購買決定権を持つ」「ライフステージが変わっても消費モチベーションを維持している」「働き方改革関連法の施行(2019年4月)」といった、現代の女性を取り巻く状況があると説く。

 「女性が様々な形で社会に貢献している実態があります。法案によって、さらに働き方や価値観が多様化していくでしょう。これによって女性のマーケットが拡大していくと考えられます」

 Hanako世代、F1層、ミレニアル世代といった、これまでよく用いられてきたセグメントでは女性消費者の顧客像を捉えきれなくなってきている。リアルな女性のペルソナを浮き彫りにするために、WICプロジェクトと慶応義塾大学名誉教授の熊坂賢次氏と共同研究で生み出されたのが「ペルソナ4×4(フォーバイフォー)」ロジックだ。

「ペルソナ4×4」ロジックとは?

 「ペルソナ4×4」ロジックは、縦横4つの軸で女性を分類するものだ。横の軸が「家族観」で、縦の軸が「自分にとっての女性らしさ」となっている。このロジックの基となったのは20~60代女性の2,577サンプルのアンケート調査データで、50の設問から“女性たちのホンネ”に迫る調査票で構成されている。

【縦軸:家族観】
・真面目家族:マイホームが家族の夢であり、日本の産業化を支えてきた核家族のような形態。母親が家を守って父親が働きに出るという昔ながらの典型的な家族観。
・楽しい家族:マイカーを持って土日は生活を楽しむ。車の中に家族があるという考え方。
・協働家族:夫婦共働きで、生活を支えていく。ビジネスバッグの中に家族があるという考え方。
・スマホ家族:家での団らんにはこだわりを持たず、スマホを使ったコミュニケーションで家族がつながっていればよいという考え方。

【横軸:自分にとっての女性らしさ】
・弱さへの寛容:弱いものに対して包み込むような優しさを持つ。
・幸福する快楽:男性の目から見たかわいらしさ・美しさをめざす。
・強さへの自信:仕事も男性に負けたくない、自立できていて強くある。
・越境する効率:男性・女性と性にとらわれない、柔軟な価値観を持っている。

 共同印刷では、この「ペルソナ4×4」ロジックを採用したペルソナプラットフォームを開発。簡単な操作で女性のインサイトを読み解くことができる。システム画面では、真ん中に「ペルソナ4×4」が配置され、左右にアンケートで尋ねた内容がインジケーター表示される。

ペルソナプラットフォームについて
ペルソナプラットフォームについて

年代別ペルソナ分布

 講演では、ペルソナプラットフォームを使ったデモンストレーションを行い、女性の価値観を年代別に探っていった。たとえば20代では、女性らしさの価値観が「幸福する快楽」と「越境する効率」の2層に、家族観は「楽しい」「協働」「スマホ」の3層に分かれた6つのペルソナを中心に構成されていたが、40代は「強さへの自信」に価値観が寄り、50代はペルソナが広範囲に分散しているのが特徴としてうかがえた。

 これに対し吉丸氏は、「20代は未婚・既婚が半々ほどの年代。もう少し詳細を見ると、未婚は『幸福する快感』寄りで、既婚になると『越境する効率』という柔軟な考え方に落ち着いていく傾向が見えます。また、分布の様子から、同じ20代でも色々な価値観を持っていることがわかります。40代は妻・母としての役割を持ちながら働く人が増え、強くなければいけないという想いを抱えている人が多いようです。仕事貢献度を見ると高い数値となっている一方で、生活満足度はかなり不満と考えている人も多いのも特徴です。50代は自分に向き合う時間ができ、使えるお金にも余裕が出てきたからか、色々な価値観に分かれてきます」と考察を述べた。

 ペルソナプラットフォームでは、他にも「あるブランドを好んで買う女性の顧客像」といったブランド別購入層のペルソナなどを簡単な操作ですぐに確認できるようになっている。具体的な活用方法としては、「エビデンスとして企画書やコンセプトシートに添付」「ブランド戦略におけるペルソナ仮説設定」「タイアップキャンペーンのターゲットとその出現率を確認し、効果を予測」などが考えられる。

本音を探る3つのメソッド

 ペルソナプラットフォームを開発する上で苦心したのは、基盤となっているアンケートの調査票だったという。一般的に調査票は統計処理を前提に作られる。また、実際問題として、途中の設問でふるい落とされず先に進むほど回答への謝礼が高くなる。そのため、答える側は、設問側の意図を読み取って「何とか最後までたどり着きたい」と考える。しかし、そうしたアンケートから適切なペルソナを描くのは難しい。

 そこでポイントとなるのは、 “アンケート慣れ”している日本女性たちに、いかに調査主催側の意図を知られない設問づくりをするかだ。そこで共同印刷では、熊坂氏の考える以下の3つのメソッドを用いて調査票を作成していった。

メソッド1:本音に迫ることのできる調査票=セクシーな調査

 調査票は思わず答えたくなるようなものでなくてはならない。たとえば、読むと家族の在り方や普段の会話までイメージできそうな設問を入れて価値観を聞いたり、究極の選択をさせたりするなどだ。それを熊坂氏は「セクシーな調査票」と呼んでいる。

「セクシーな調査票」の例/オッと思わせる文面で本音に迫る。
「セクシーな調査票」の例/オッと思わせる文面で本音に迫る。

メソッド2:共感度は高すぎても低すぎてもよくない

 共感度が80%以上になるとコモディティー化した価値観になってしまう。30%ほどの信頼性や共感度を得られるような価値観を拾っていくことが最適だ。「ペルソナ4×4」作成時の調査には、女性像をランダムに出し、それに共感できるかを尋ねていった。

メソッド3:設問は主観的で構わない

 熊坂氏によると設問は主観的でよく、偏見が入っても構わないそうだ。「ペルソナ4×4」作成時に行ったアンケートの最後には、「あなたの仕事や趣味や恋愛など、今の『あなたらしさ』をアピールするとしたら、どのようなことですか。自由に、気楽に、なるべく具体的にお書きください。(1,000文字まで可)」という自由回答項目を用意した。吉丸氏は1,000字というボリューム感に回答率の低下を懸念していたが、蓋を開けてみると半数以上の人がきちんと記入していた。「内容も具体的なものが多々ありました。そういう気持ちにさせる設問の設計が、女性の価値観を汲み取る上では非常に重要だとプロジェクトを通して学びました」と吉丸氏は語る。

ペルソナマーケティングへの誤解

 ペルソナマーケティングを成功させる秘訣は、意外にも改めて「ペルソナ」とは何かを確認することだと吉丸氏は言う。

 「当社のセールスチームからの報告によると、『ペルソナを知っているか』という問いに対し、ほとんどの方が知っていると回答されるそうです。そこに、私たちの考えるペルソナの定義との違いを常々感じていました。私たちは『ペルソナとは心理学用語だ』と答えるようにしています。元々は古典劇において役者が用いた“仮面”のことを指すのですが、心理学者のユングは人間の外的側面をそう呼びました。人の本音はおそらくこのペルソナの部分に出てくるだろうと。取引先の企業さまには、ペルソナマーケティングとは心理学の領域に踏み込んだマーケティングだという点に合意いただいてから取り組むようにしています」

 また、ペルソナやペルソナを用いたカスタマージャーニーマップを作っても、それを活用しきれていないケースも多く見られると吉丸氏は続ける。

 「プロトタイプを作って実際に市場に投げ、ダメだった箇所をプロトタイプに戻す。本当はそここそが重要なのですが、時間がかけられずに終わってしまう失敗例が山のようにあるのではないでしょうか。成功ポイントは、ペルソナづくりに時間をかけすぎず、試作とテストを繰り返していくことです

AIが不可能な領域に挑戦するために

 ペルソナプラットフォームの操作は非常にシンプルで、結果もすぐに確認できる。しかし、それを考察する力や解釈する能力も重要となってくる。そこで本格的な活用に向け、吉丸氏はコンソーシアムの立ち上げを考えているという。

WICプロジェクト・コンソーシアム(仮称)の組織図イメージ
WICプロジェクト・コンソーシアム(仮称)の組織図イメージ

 コンソーシアムは、女性市場を捉えるための次世代マーケティングに関わる共同研究の推進のほか、参加企業がマーケティング力を向上させながら新しいマーケティング手法を開発できる環境づくりを目的にしている。参加企業の募集開始は今年9月を予定しているそうだ。

 ペルソナプラットフォームに取り込むデータの目標数は、今年度1万サンプル。コンソーシアム参画企業の持つデータと連携、反映していくような構想もある。

 講演の最後にWICプロジェクトの今後について、吉丸氏は現在ある種のブームとなっているマーケティングにおけるAI活用についても言及。「今後、分析はAIが担っていくため均一化していくという声もあります。しかし、人とAIは対話していくべきではないでしょうか。ペルソナプラットフォームはAIが不可能な領域に挑戦するためのツール。そうなることをめざしていきます」と締め括った。

共同印刷株式会社主催セミナー「女性インサイトをとらえるマーケティングとは」

セミナーレポートはコチラ
“女性たちの本音”にどこまで迫れるか!?
 新しい「女性ペルソナプラットフォーム」の概要と活用法-共同印刷 吉丸滋美

「ペルソナ4×4」から見る多様な女性インサイト
 従来のマーケティングを超えたペルソナプラットフォームの仕組みとは?
 -慶應義塾大学名誉教授 熊坂賢次氏

 

“明日の販促”のヒント集、共同印刷「Hint Clip」はコチラ

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この記事の著者

畑中 杏樹(ハタナカ アズキ)

フリーランスライター。広告・マーケティング系出版社の雑誌編集を経てフリーランスに。デジタルマーケティング、広告宣伝、SP分野を中心にWebや雑誌で執筆中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2019/03/29 12:00 https://markezine.jp/article/detail/30604