小規模で成功例を作り、デジタル化を促進
さらに、Jリーグがデジタル戦略を進める上で肝となったのは、クラブを先導するパイロットクラブを置くことだったという。パイロットクラブがデータを活用した各種サービスの成功例を作ることで他クラブにおいてもサービスの導入が広がり、運用のノウハウや顧客データの蓄積が加速していった。
その他にも笹田氏は、クラブのデータ利活用を推進する活動として、共通プラットフォームを利用しているクラブに対し、月次でデジタルマーケティングの集合研修を行っていることを明かした。
同研修では、「楽天市場」のノウハウが学べる「楽天大学」やNBAのコンサルティング専門組織「TMBO(Team Marketing&Business Operations at National Basketball Association)」を参考に、クラブ間のコミュニケーション促進やデジタル人材の育成に取り組んでいるという。これによって、クラブ間やリーグ・クラブ間の関係性もより密になり、施策を行う際の姿勢も前向きなものへと変わっていったそうだ。
加えて笹田氏は、IDベースだけではなくWebサービス(Cookieデータ)ベースでのトラッキング実現も目指し、2019年以降プライベートDMPやMA(マーケティングオートメーション)のツールも導入していくと述べた。
「DMPやMAツールを導入し、よりきめ細かなマーケティングを行うことで、顧客体験の向上につながります。こうした取り組みによって、サッカー界、ひいてはスポーツ界に貢献していければと思っています。JリーグIDの登録件数が100万を超えたので、2020年までには200万を目指していきます。今はIDの規模を拡大し、お客様のファン化に注力しています」(笹田氏)
各チームのDMPを統合したBリーグ
次にBリーグのデータ活用を進める葦原氏がリーグ設立当初からのデジタル戦略を語った。Bリーグは、2016年のリーグ設立から3年目となる組織だ。ここ2年間で入場者数は約1.5倍、市場規模は約3倍へと急成長を遂げている。
入場者を増やすため葦原氏は、まずターゲットセグメントを決定。ファンを増やすことと入場者を増やすことに相関性はないという仮説のもと、想定700万人の観戦意向者層がどのような属性を持っているのかイメージを具体的に描き、詳細なペルソナ設計を行った。
そして、Bリーグを立ち上げる1年前の2015年には「スマホファースト」を掲げた事業を推進。チケットは公式チケット販売サービス「B.LEAGUEチケット」で購入可能にし、試合の配信はネットを中心とするために権利買収も行った。また、関連グッズもワゴン販売からEC販売中心にシフト。スポンサーも看板露出からデジタル中心にし、あらゆるタッチポイントからビッグデータを貯めることで、パートナーとの取り組みをより活性化させることを目指したという。
葦原氏はまた、統合DMPの構築も実現。各チームが持っていた既存プラットフォームをBリーグで一つにまとめ、「チケット」「EC」「プラットフォーム」「ファンクラブ」をJリーグ同様にBリーグIDで統一することを目指している。現在はリーグ内のデータ連携のみを行っているが、今後は協会事業とその中にある競技者データベースとの連携も進め、「スポーツを観る人」「スポーツをする人」双方のデータ連携を構想に入れている。
「各クラブの公式Webサイトも見直し、同じUIで使いやすいようフルリニューアルでリーグ全体の統一を図りました。Jリーグさんは成功クラブを作って横展開をしていったと思いますが、Bリーグは一気に施策を進めていました。我々は変革期の中にありましたので、ドラスティックな提案ができた点はJリーグさんと異なると思います」(葦原氏)