商品やサービスの新しい広め方「ビデオリリース」
NewsTVは、「ビデオリリース」という形態の動画制作・配信サービスを、2015年8月に開始した。これはニュースリリースを60~90秒ほどの動画にし、企業が伝えたい商品やサービスの特徴を紹介するもの。動画は、同社が持つアドネットワークやSNSを通じて配信される。同社が創業から3年半の間に手がけた動画は、累計1,500本を超えた。
杉浦氏は、同サービスの強みを「メディアに取り上げられるか否かに関係なく、ターゲットとするユーザーのスマートフォンに直接配信することができること」と説明する。
企業が新しい商品やサービスをPRするとき、これまではニュースリリースを出して記者発表を行い、記事や番組のトピックとして取り上げられることで生活者へと伝わる、という情報の流通経路が主流だった。しかし、記者発表に来てもらえなかったり、記事や番組に取り上げられなかったりした場合、情報が伝わらないという課題があった。
同社は、動画の制作自体は無料で行い、その配信をビジネスとしている。年齢や性別、趣味嗜好に応じて配信先をターゲティングすることで、マス向けの商材はもちろん、ニッチ商材やBtoB商材でも成果を上げているそうだ。
たとえば2016年に紳士服チェーンのコナカが立ち上げた、スマートフォンアプリを利用してオーダースーツを注文できるブランド「DIFFERENCE」は、同サービスを活用してプロモーションを行った。
1号店は東京・青山にオープンしたため、「都内に住む20~30代の男性ビジネスマン」にターゲティング配信したところ、開業後の来店予約が約8割埋まったという。その手応えから、大阪や名古屋へ出店の際も、同サービスが活用された。
こうした例を受けて、杉浦氏は「広告枠に広告を流す時代から、広告枠にニュースというコンテンツを流す時代が来る」と予想している。
成長を続ける動画広告の強み
また、杉浦氏は、動画であること自体にも強みがあると語る。
「動画は情報量が多く、1分でWebサイト3,600ページ分に相当するという調査データもあります。Webサイトでは、それだけの情報量があったとしても読まれません。また、動画はバナー広告と比較すると認知やブランディングの効果が高いと言われています」(杉浦氏)
老若男女問わずスマートフォンが浸透している昨今、人々がデジタルメディアに接触する時間は長くなっている。それにともない、ネット広告への予算は増加傾向にあるが、その中でも動画の占める割合が増えているという。
杉浦氏が示したサイバーエージェントの調査によると、2018年の動画広告市場は1,843億円。また、電通の調査では、2018年のネット広告市場は1.7兆円と発表されている。両者を突き合わせると、ネット広告全体の10%強は、動画広告が占めていることになる。
さらに、5Gのサービスがスタートすれば、より動画視聴がされるようになり、動画広告のニーズも増えていくことが予想される。先述の調査では、2020年のネット広告市場は2.2~2.3兆円規模、2024年の動画広告市場は4,957億円にまで増加するとされている。
「静止画広告」に違和感をもつ時代へ!?
NTTドコモとKDDI、ソフトバンクは、年内に5Gのプレサービスを開始し、2020年には楽天でも対応をスタートする予定になっている。通信速度は4Gの約100倍、通信容量は約1,000倍、同時接続端末数は約100倍、遅延時間は約10分の1と、これまでとは劇的にネット環境が変化することになる。
そうした中、動画は人々にとってどのような存在になっていくのだろうか。杉浦氏は「過去からの未来予想図」として、1997年1月のYahoo! JAPANトップページを示した。
「当時のYahoo! JAPANトップページは、テキスト情報だけでした。電話回線でネットに繋ぐ状況だったので、画像を掲載すると重くて表示に時間がかかってしまったためです。通信環境が整ってきた今では、多くの画像や動画が表示されるようになっています。今後はどのサイトでも、さらに動画が多く使われるようになるでしょう」(杉浦氏)
また、ソフトバンクが動画とSNS見放題のサービスを月額3,480円から提供するなど、携帯キャリア各社が、通信費を心配することなく動画視聴できる環境を整備しつつある。
「もちろんテキストや画像がなくなることはありませんが、動画は演出や表現が多様なので、データ量の心配がなくなれば、より使われるようになるでしょう」(杉浦氏)
特に10代の若い世代は、TikTokやInstagramなどで動画に接触する頻度が高く、テキストと画像でコミュニケーションしようとしてもスルーされてしまう可能性がある。杉浦氏は「今もしテレビCMで静止画が流れていたら、少し違和感があるように、2020年以降は、スマートフォンで静止画の広告が流れていたら、違和感をもつ時代になるかもしれません」と語った。
動画はフルファネルで活用される時代へ
動画配信量が増え、視聴される場面も多くなることが予想される中、企業は動画をどのように活用していけばよいのだろうか。杉浦氏は動画の今後について、次のように述べた。
「現在、動画は認知のために活用されることが多いですが、これからは興味関心層に効かせたり、比較検討層に効かせたり、購入の後押しとして効かせたり、購入後のユーザーのシェアといった段階に効かせたりと、フルファネルで使われるようになっていくと思います」(杉浦氏)
NewsTVの事例では、法人向けクラウド名刺管理サービスのSansanが、既に態度変容を目的として動画を活用している。
Sansanのサービス自体は、テレビCMやYouTube広告を通じて認知されている。NewsTVへのオーダーは「態度変容を起こし、利用までつなげたい」というものだった。そこで、交換した名刺を社内に共有することなく、眠ったままとなっている「冬眠人脈」が持つ価値を伝える動画を制作し、「全国の20~40代の男女、ビジネスや営業に興味関心のある層」へ向けて配信。
事後調査では、Sansanのサービスを認知している人がNewsTVの動画に接触すると、利用意向が高まることが明らかに。また、Sansanが訴求したかった点である「名刺管理・共有が重要だ」と考える人の割合も、動画視聴により大きく向上したという結果が出た。
採用への動画活用が加速
動画が活用される領域も、今後さらに広がっていくと考えられる。提供開始時はニュースリリースや記者発表における活用を想定していた同サービスも、いまやそれ以外の用途での利用が70%を占めるという。
「最近特に増えているのが採用での動画活用で、サイバーエージェントや三井住友カードが新卒者向けの会社説明会の代用となる動画を、サイトで公開しています。NewsTVでも、リコージャパンの中途採用施策を手がけました」(杉浦氏)
同社が動画制作を手掛けたリコージャパンは、営業職が強い会社というイメージを持たれており、エンジニアを募集していることが認知されていないという課題があった。
そこで、エンジニア職の求人を訴求する動画を「転職、営業、ITエンジニアに興味のある20~40代」へと配信。その結果、採用サイトへのアクセスが3倍に、応募数が2.2倍に増加したそうだ。
動画は、他にも、様々な領域で活用されるようになってきている。
「たとえば、飲食や不動産、教育、医療、結婚、旅行などの業種で利用が増えつつあります。また、ニュースや採用以外にも、BtoB領域を中心に、展示会やポップアップショップ、イベントなどは行わずに動画のみで訴求したい、ランディングページや記事広告を動画にしたい、チラシを動画化しエリアターゲティングと組み合わせたい、といった多様なオーダーをいただいています」(杉浦氏)
認知だけでなく利用意向も上昇
マーケティング領域においても、動画に携わる企業が増える中、杉浦氏は自社の強みとして「データオリエンティッド」「態度変容するクオリティ」「当日撮影したものを当日配信できる即時性」の3点を挙げた。
「データオリエンティッド」の観点では、同社は自社のDMPを保有しており、自社で手がけた約1,500件分の案件データを、クリエイティブや動画の尺などの制作面と広告フォーマットや利用媒体といった運用面の両方で活用している。
また、「態度変容するクオリティ」に関しては、コマ分析やカット分析、媒体分析、ターゲット別分析、クリエイティブ分析など多様な分析を実施している。たとえばコマ分析では、1秒ごとの離脱データを取得することで、「どのようなシーンが出てくると見られなくなるのか」を把握。次の制作に活かしているのだという。
杉浦氏は、実際に同社の動画を見た人の態度変容を調査したところ、認知はもちろん、ブランドやサービスの利用意向も高くなるというデータを披露した。
現在、新商品やサービスをリリースする際に、Webサイトは欠かせないものと考えられており、Webサイトを用意するか否かがその度に検討されることはない。杉浦氏は、今後は動画も、言うまでもなく必要なものと見なされ、制作することが当たり前になっていくと考えている。
杉浦氏は「今後、動画を作るかどうかの議論はなくなり動画を何の目的で、どう使っていくかという設計が重要になってくるのです」と活用のポイントを強調し、講演を結んだ。