クライアント企業の中に入って支援する
西口:前編では、西井さんのキャリアとそのときどきで学んだことをうかがいました。起業はずっと考えていたことだったそうですが、どういう軸を想定していたんですか?
西井:前職に勤めていたとき、本当に多方面から「ECがわかる人が欲しい」「デジタルができる人はいないか」と声を聞いていて、デジタル人材の不足は今後もっと課題になるなと思っていました。なので、実務を通してデジタル人材を育成できる会社を作りたい、それが自分の使命だと考えていたんです。
2014年7月に2度目の世界一周を終えて、オイシックス・ラ・大地(当時:オイシックス/以降、オイラ大地)に入りつつ、最初はデジタルマーケティング支援の仕事を始めました。2016年あたまに現在のシンクロを設立して、今は僕を入れて6人です。デジタルの経験も大事ですが、大体旅つながりで僕がスカウトしてきたメンバーです。
西口:先ほど(※前編)も、シンクロでは単なるアドバイザーなどではなく、基本的に西井さんが経営者としてクライアント企業の中に入っているという話がありました。どの会社も自分の会社だと思えるくらい、という言葉もありましたよね。そういう形の支援って珍しいと思うんですが、なぜそうしているんですか?
西井:そうですね、ひとことでいうと「その方が結果を出せるから」でしょうか。僕自身は20代で小さい会社ながら事業の責任を負ってきて、PLを全部見ているから利益を最大化する解を探れるし、トライ&エラーも迅速にできるという実感があります。
PLを見ると、自分たちでは広告に問題があると思っていても、実はサービスの原価率の設定に問題があったり、リピート率に問題があったり、ビジネス構造そのものに問題があったりするのがわかる。そういうケースでは、広告をやっていても意味がなかったりするので、結果を出すために一番いい打ち手を選ぶ必要があると思うんです。
組む基準は、胸襟を開いてくれるかどうか
西口:確かに、それはありますね。ということは、シンクロとして支援している10社も基本、PLを共有している?
西井:はい、どうしても開示できない大手企業を除いてそれは必須ですね。開示してくれないところとは、組めません。現状もゴールも見えないのに、成長のための設計ができるわけない。少なくとも僕はできないので、全部開示してくれて「一緒に考えていきましょう」という関係性が築ける会社としか、仕事していないですね。
西口:向こうが胸襟を開いてくれないと。
西井:まさに。PLと関連して、トップと握れないところ、オープンになってくれないなと感じる会社とも、組まないです。こちらも耳障りのいい提案をして終わりじゃなく、事業成長に並走する覚悟なので、この入り口が大事だと思っています。その意味では、自分の会社なので、支援側といっても仕事先を選べるのはいいですね。おこがましい言い方ですけど。
付け加えるなら、なるべく業種が偏らないようにはしています。化粧品など、やったことがある業種からのお声かけが多くなりがちですが、化粧品マーケティングの専門家になりたいわけではないし、なるべく多様な業種や業界を見られるほうが相乗効果も上がります。
西口:基準が明確だと判断も速いですね。忙しい中だと日々の業務でも取捨選択が必要だと思いますが、仕事上でも「これはしない」と決めていることはありますか?
西井:クライアント企業では、社内共有のための資料やレポートなどのドキュメントの類は作らないです。オイラ大地でもシンクロでもそうですが、基本的にはプロジェクトに必ずオーナーをつけてもらい、直接的なメンバーのマネジメントもやりません。あくまで、僕はその企業で結果を出すことが主目的なので、それに直結することに時間を割くという考えです。