マーケターは調査データで判断すべき?
西口:前編の最後で、各施策については事前と事後で相当の調査をして、その成果を見極めているとうかがいました。また、そもそもコカ・コーラ社のマーケティング職は、世の中全般においては少数派の、製品企画から携わるのが特徴という話もありましたが、施策単位ではなく製品企画には、調査やデータをどう生かしているのですか?
和佐:そこも、相当やっていますね。製品を出す前に、コンセプト、パッケージ、味、それがどう受け止められるかなどをかなりテストします。一定レベルをクリアしないと出さないですし、生産が決定してからは広告もテストします。その上で、いけると思ったものを出す。
発売後も、何週間か単位でブランド認知率はどうか、リピートはどうか、その要因は何か、リピートされなかった理由は何かなどを全部分析して、次のプランニングに生かしています。マーケティング投資の効果も、重回帰分析にかけて分析しています。
西口:徹底していますね。会社によっては、製品導入前の調査はあまりやらないところもあります。要するに、肌感含めていちばんわかっているマーケターが判断せよ、と。
和佐:それも否定しませんが、データの重要性やデータに基づいてマーケティングしていこうという機運が、年々高まっているのは事実です。僕らも最終的にはマーケターが判断しますし、データで見えないところは押し切るところもありますが、僕自身はデータがあったほうが判断しやすいですね。
ただ、こちら側に何も意図がない状態で、定量調査に答えを求めるようなことはしません。必ず仮説があった上で、その検証に使う。また、定性的なユーザーインタビューも相当やっていて、何なら社内の人間にちょっと声をかけて意見を聞くなども日常茶飯事ですが、その場合も同じです。
居酒屋でつかんだ開発のヒント
西口:製品開発でいうと、レモンサワー『檸檬堂』が大ヒット中ですよね。昨年、九州で発売していたときから話題になっていて、先日10月末に満を持して全国展開になった。早速飲みましたよ、おいしかった! 他の缶チューハイと全然違う仕上がりで、ちょっとびっくりしました。これは、どういう経緯で開発に漕ぎつけたんですか?
和佐:この数年は新規事業の部署も見ていて、当社にとってのホワイトスペースを常に探していました。そのひとつとしてアルコール飲料はずっと視野に入れていましたが、まず製造法の観点からビールやウィスキーは時間がかかりすぎる。逆にチューハイ系なら、僕らの炭酸飲料や清涼飲料のノウハウがかなり使えるし、市場への浸透の仕方もそこまでかけ離れないだろう、と。
西口:ポジショニングと強みの発揮から、缶チューハイに焦点が絞られたと。
和佐:そうですね。次に考えたのは、前述(※前編)のブランドのエッジです。今、コンビニなどの棚でわかるように、かなり競合ひしめく市場です。カラフル、メタリック、果物のシズル感……そういった既視感のある要素は、すべてNGにしました。そこで僕らが打ち出せるものは、と考えて「オーセンティック」と「クラフトマンシップ」というキーワードを設定しました。
そこに、昨今の“レサワ”ブームがあった。チームに数名いた飲食好きのメンバーを中心に、研究を兼ねて夜な夜なレモンサワーが名物の居酒屋に通い、既存の缶チューハイと全然味が違うからRTD(ready to drink:缶など開けてすぐ飲めるアルコール製品)にしたら絶対にいける、と。そこから製造法を検討して、丸ごとすりおろしたレモン果汁とお酒をあらかじめ馴染ませる「前割りレモン製法」を採用し、居酒屋のおいしいレモンサワーを極力再現できる方法を開発しました。