日本がファースト・ペンギン的存在

西口:既存の競合品にまったくないデザインで、店頭でも目を引いていました。4種ともレモンサワーというのも潔い。でもちょっとずつ切り口が違って、アルコール度3、5、7、9%という展開は、マーケティングのセオリー的にはすべてドンピシャだと感じました。
和佐:私に合うのはどれかな、と自然に思いますよね。ネーミングやパッケージは何百もの案があった上で、ここに着地しました。
西口:ひとつだけセオリーと違うのは、競合を見るのではなく、居酒屋に通っておいしいものを探ったところですね。そこは、調査からアタリをつけることはないんだな、と。
和佐:そう、起点になったのはそのメンバーたちの「絶対いける」「どうしたらつくれるか」という真摯な思いです。思い込みといえばそうなんですが(笑)、興味が強いというのは、データに勝る推進力になりますね。
西口:コカ・コーラ社では、これまでずっと「アルコールが出るらしい」という噂がありながら出ていなかったので、昨年本当に発売されたことも驚きがありました。日本発で、全世界初のアルコール飲料になったわけで、本社のリスクもあったのではと思います。なぜこのタイミングだったのですか?
和佐:そうですね、要因としては、現在僕らの日本市場がグローバルの各市場よりも少し先んじていることがあると思います。コカ・コーラ社はグローバルで「ビバレッジ・フォー・ライフ」というテーマを掲げて、『コカ・コーラ』を中心とする炭酸飲料だけでなく、水やお茶、コーヒー、ジュースなど複数カテゴリーに市場を広げています。そして、どんどん非炭酸の割合が大きくなっているのがトレンドで、最もその割合が高いのが日本なんです。
消費者セントリックの考えを徹底
西口:まさに和佐さんがこの10年でお茶を伸ばし、コーヒーを伸ばして、非炭酸を広げてきたわけですね。今、どのくらいの比率なんですか?
和佐:炭酸が2割、非炭酸が8割です。実際、中国でもインドでも、飲料の市場はどこへ行っても非炭酸の割合が高くなりつつある。だから「日本を見習え」と言われていますし、僕らの新規開発のチャレンジには追い風なんです。
西口:なるほどね。外資系だと、本国が製品開発をして、日本ではその流通とコミュニケーションを手掛けることが多いと思いますが、御社はけっこう日本市場向けの製品開発をしていますよね。海外に出ていっている製品もある。
和佐:そうですね、『アクエリアス』が今スペインで高い支持を得ていたりします。基本的には、マーケット環境含めてグローバルで通用するなら行ったほうがいい、そのほうが効率的です。ただ、他国への展開はうまくいかないものもありますよ。妥協すると、絶対に失敗する。
たとえばお茶のカテゴリーだと、日本では緑茶、紅茶、ウーロン茶とかなりセグメンテーションされていて、海外とは状況が違います。以前、アメリカで定着しているお茶ブランドを日本で導入してはという案があったのですが、やはり立ち位置が日本仕様になっていないので、これは『紅茶花伝』ブランドの1製品として出すほうが絶対にいいと様々なデータを提出して、結果的にそのように決着しました。
西口:グローバルに出ていきながら、そのような地に足の着いた展開を譲らない、その根底にあるのはどういう考えなんでしょうか?
和佐:消費者セントリックということだと思いますね。消費者に認められる場がグローバルならそれでいいし、ローカル性が高いならテーラーメイドで提供する考えは根付いていると思います。