CMOに必要な素養とは?

西口:グローバルカンパニーのCMO職は多くはないと思いますが、日本でもCMO職は少しずつ増えていると思います。CMOに必要な素養って、なんでしょうか?
和佐:基本的には、ブランドマネジメントの延長にあると考えています。ブランドのエッジやイノベーションがわかり、そしてPL(財務指標)も読めること。マーケターは単に売ることをしていればいいんじゃない、消費者の共感を得て利益も獲れるビジネスモデルを成り立たせることが、ブランドマネジメントです。
それができるようになると、見る範囲が徐々に広がって、結果としてCMOというポジションがあると思うので、優秀なブランドマネージャーになるのが第一歩ですね。ただ、もちろん違う点もあります。それは、組織を見る視点です。
西口:和佐さんも、それを徐々に身に付けてきた?
和佐:そうですね。正直、自分がこれまでのキャリアでいちばん楽しかったのは、一人でひとつのブランドをもっていたブランドマネージャー時代なんですよ。モノも予算も120%状況がわかっていて、自分が動かせているときは、心地がいい。
それがカテゴリーマネージャーやCMOになって“人にやってもらう”ようになると、ピープルリーダーの素養が求められてきますよね。優秀な人を配置しつつ、チームのモチベーションをどう保つか。
西口:そういう状況で、任せきらずに自分が現場に入ってしまうタイプの人もいますよね。
和佐:気持ちはわかりますが、それだと現場が育たないし、信頼されていないと感じられてしまいます。それに自分が現場だった時代を振り返ると、上に対しては、自分のほうが絶対にマーケットも消費者のこともよくわかっている、自分の意見を曲げるくらいなら腹切りするくらいの覚悟でいました(笑)。皆、そのくらいの気持ちでやっていると思うので、今の立場では基本的には僕が意見すべきじゃないし、それでいい環境を作らないといけないと思っています。
優秀なリーダーになる人となれない人をわける条件
西口:では最後に、CMOや経営層を目指す若手にアドバイスをいただけますか?
和佐:そうですね、ひとつ言えるのは、好奇心を持ち続けること。僕がずっとこの仕事を続けてこられたのは、マーケットや消費者、周りで起こっていることや人にいつも興味があったからだと思います。あなたの仕事の領域はここですよ、と言われても、アンテナを方々に張っているから「これとこれの組み合わせはおもしろそう」「この件はこの人が頼れそう」と常に外に広がっていった感があります。まさに“Connecting The Dots”ですね。
商品開発は“ゼロイチ”とも言われますが、僕は宇宙のビッグバン以外はゼロから生まれるものなんかないと思っています。すべてのイノベーションは、ドットの掛け合わせです。
西口:ドットを常に収集することが、仕事の幅を広げていくんですね。
和佐:そう。もちろん、自分の仕事は徹底的にした上で、ですけどね。それと、リーダーになるという点では、P&G時代の上司がとある講演で聞かせてくれたことを僕もよく話しています。
優秀なリーダーになる人とならない人を分けるものは何か、という質問が出て、「4つの条件がある」と。まず、自分のビジネスを誰よりもわかること、それはナレッジレベルのリーダーシップ。次にそのナレッジをエッジのある戦略に変えること。3つ目はそれをチームの戦略として皆で共有できること。エッジがあるほど、反対もされますから。
ここまでは、実際には消費者には関係ない話ですよね。だから4つ目は、それをしっかり実行できること。市場での実行をちゃんとしないと、マーケットで勝てません。で、この実行段階はほとんどの場合、外部の力、いわゆるエージェンシーやクリエイターなどの手を借りますから、彼らにこちらの考えを理解してもらって、関係を構築してインスパイアすることがとても重要。この話は、ぜひ知っておいてもらえたらと思います。まあ、僕もCMOになって半年で、まだまだあがいている最中ですよ。
西口:来年以降がまた楽しみですね。率直なお話、ありがとうございました!