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アドビの社内ダッシュボードを大解剖 サブスク成長を支えるデータドリブン経営の司令塔が仕組みを徹底解説


 3月にラスベガスで行われたアドビの年次カンファレンス「Adobe Summit 2019」。その基調講演で大きな話題を呼んだのが、DDOM(Data Driven Operating Model)と呼ばれる考え方に基づくダッシュボードの紹介であった。アドビは自らが提唱するDDOMをどのように実践しているか。国内でDDOMを最もよく知る人物が組織戦略から実際のダッシュボード運用まで明らかにした。

サブスク転換の意外な動機

――西山さんは執行役員としてAdobe Creative Cloudの営業戦略、いわゆるGo To Market戦略を指揮されています。まず、アドビがDDOMを使うようになった経緯から教えていただけますか。

 Creative Cloud(CC)をリリースする前、私たちはクリエイター向けにCreative Suite(CS)を提供していました。最初のバージョンをリリースした2003年から、CSでは18ヵ月ないし24ヵ月に一度のバージョンアップを行ってきました。当時のライセンス体系は売り切りモデルで、価格はフル機能を新規で使いたい場合は約30万円、過去バージョンを持っている場合は10数万円で最新バージョンを使えるというものでした。

アドビ システムズ 株式会社 デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 執行役員 本部長 西山正一氏
アドビ システムズ 株式会社 デジタルメディア事業統括本部 営業戦略本部 執行役員 本部長 西山正一氏

 問題は、私たちの製品ライフサイクルを超える速さでテクノロジーが進化していたことです。今までのペースで新しいバージョンをリリースしていては、新しい機能を実装しようにも、出した瞬間に陳腐化してしまいます。

 それなら製品ライフサイクルの谷間には無償でアップデートプログラムを次々と配信すればいいかというと、会計的に不利になってしまうのです。収益を実現の時点で計上する実現主義に基づく収益認識の考え方では、お客様に製品を購入していただいた後に新しい機能をリリースしても、その機能に対する対価を支払ってもらわなければ収益と認識されません。

 収益が計上できず費用が発生することを避けるには、無償のアップデートプログラムではなく、バージョンアップのために追加でお支払いいただく新しいバージョンとして提供しなくてはならなかったのです。お客様のためにいち早く新しい機能を提供したいけれど、できないというジレンマに陥っていました。

 そこで、収益成長とお客様の利便性を両立させるために、経営陣はお客様が常に最新の機能を使えるサブスクリプションモデルへの転換を決断しました。

――収益の安定化のためにサブスクリプションモデルに転換したと理解していたので今の話は意外です。

 その勝算もあってのことだと思いますが、テクノロジーの進化の速さが一番の理由です。2012年5月、アドビは恒久ライセンスのCreative Suite 6とサブスクリプションライセンスのCreative Cloudを同時にリリースしました。これはお客様に選択肢の提供を意図したものでしたが、2013年5月からCreative Cloudへの一本化を決めます。

 サブスクと売り切りの大きな違いは、売り上げよりもARR(Annualized Recurring Revenue:年間経常収益)が重要ということです。

 たとえば個人向けのコンプリートプランは月額約6,000円ですから、年額換算すると約7万円。CS時代の約30万円に対し、見かけ上ユーザー単価が大きく下がります。でも、ビジネスが軌道に乗りさえすれば、既存ユーザーからの継続収益が期待できるのがサブスクのメリットです。

 その土台を固めるためにも、初期はサブスクライバー数を増やすことに注力する必要があります。アドビの場合はその時期は終わり、既存のお客様に「確実に更新してもらうこと」が重要な時期にいますから、現在はNet New ARR(新規獲得分のARRと契約更新とアップセル分のARRの合計から解約分のARRを差し引いた指標、詳細は後述)をどれだけ成長させられるかを重視しています。

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この記事の著者

冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

江川 守彦(編集部)(エガワ モリヒコ)

東京大学文学部を卒業後、総合広告代理店でマスメディアの媒体営業業務を経験し、出版社に転じて人文系の書籍編集に従事したのち、MarkeZine編集部に参画。2018年よりオーガナイザーとしてMarkeZine Dayの企画にも携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2020/03/13 16:34 https://markezine.jp/article/detail/31316

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