中途採用をマーケティングで考える
ここで、リクルートメント・マーケティングのフレームワークに沿って、中途採用における候補者のジャーニーマップを次の図の通り抽象化して整理してみましょう。

選考から入社までにフォーカスした従来の採用領域に比べ、前後にファネルが長く伸びていることがリクルートメント・マーケティングの特徴です。その中で、見込み候補者を創出し、継続接触により志望度を上げていく選考前のプロセスを「リードジェネレーション」「リードナーチャリング」として位置付け、社員エンゲージメント向上~リファラル獲得までの入社後のプロセスを「エンプロイーサクセス」と呼んでいます。
では、ウォンテッドリーがこのフレームワークを提唱する以前には各プロセスの重要性が認知されていなかったかといえば決してそんなことはありません。たとえばオンラインでの情報発信を起点としたリードジェネレーションは、「採用広報」や「採用ブランディング」、あるいは「オウンドメディア・リクルーティング」といった語を用いて、以前から注目されてきたことです。
しかし、各論としては様々なキーワードが乱立する一方で、採用ファネルの上流から下流までの全体像を俯瞰するフレームワークは長らく存在していませんでした。リクルートメント・マーケティングの概念が画期的なのは、入社前のリードジェネレーションから入社後のエンプロイーサクセスに至るまでの全プロセスを、「候補者体験」を起点として整理し直したからなのです。
マーケターの新しいキャリアパスとしての「採用」
上記ファネルの存在により、採用担当とマーケターの実務上の知見はますます近接していくことでしょう。さらにはVUCA時代の経営課題をめぐるコミュニケーション・デザインにおいて、両者の共同作業がますます求められていくであろうことが予測されます。
実際にリクルートメント・マーケティングの本場であるアメリカでは、刻々変化する採用市場の動向を踏まえてマーケティング戦略を練る「リクルートメント・マーケター」の需要が高まっており、アマゾンやアップルといった大企業だけでなく、教育機関、ソフトウェア企業、医療機関など、中小規模の企業でも幅広く活躍しています。
この需要の高まりからもわかる通り、経営レイヤーでの活躍を目指すマーケターにとって、「採用」が新しいフィールドになりつつあります。今後の連載ではこうした動向を踏まえ、個々の採用ファネルにおいて求められるマーケティング戦略を具体的に取り上げていきます。
