騙された女子大学生「ネット広告はもう信用できない」
今回紹介する書籍は、『暴走するネット広告:1兆8000億円市場の落とし穴』。NHK取材班が「クローズアップ現代+」で放送した内容などを書籍化したものです。記者やディレクターたちは、フェイク広告や巨大海賊版サイトを巡る騒動、アドフラウドといった問題について、その根源に迫るべく様々な手段で関係者に接触し、日本全国だけでなくウクライナのサーバー会社にまで足を運んでいます。
同書の第1章では、SNSに表示されたフェイク広告に騙されてしまった女子大学生のエピソードが紹介されています。その広告は、芸能人の画像を無断で使用し、テレビで取り上げられたように見える加工を施して、ダイエットサプリを宣伝していたのです。取材で彼女が語った以下の言葉に、考えさせられる方も多いのではないかと思います。
「ネット広告はもう信用できないと思いました。実際にその商品を使っているわけではないのに、顔写真を勝手に使われている芸能人も結構多くて、その人たちもかわいそう。ちゃんとした広告を作ってほしいと思います」(p.17)
私自身も含め、ネット広告業界に身を置く人々であれば、このような明らかに怪しい広告を見抜くことは難しくなさそうです。しかしネット広告の仕組みを詳しく知らない家族は、友人は、そしてネット広告について学ぶ前の私は、騙されないと言い切れるだろうか。そう考えると、野放しにしていい問題とは思えなくなります。
同書は、これまでネット広告について知る機会が業界関係者に限定されてきたことも指摘し、レコメンドシステムや運用型広告の仕組み、広告費の流れなどを丁寧に説明しています。
当事者意識の欠如と無力感が暴走を助長する
ネット広告の暴走に翻弄されているのは、広告を受け取る生活者だけではありません。同書の中盤では、海賊版サイトに広告が掲載されてしまった大手自動車メーカーや、実際はほとんど閲覧されていないまとめサイトに広告が配信され、広告費用をかすめ取られていた地方自治体の戸惑いの声も明かされています。
ネット広告が抱える闇の本質とは――この問いに対し、NHK取材班はまず、数多くのプレイヤーが関係する複雑な構造を挙げています。人の目の行き届かないブラックボックスの中で広告の配信先が決まり、コントロールが難しいため、一部のプレイヤーによる不正を防ぐことができていないのです。
しかしNHK取材班は、この問題の原因をネット広告の構造だけで語っているわけではありません。同書の最終章において、ネット広告関係者へ強いメッセージを投げかけています。
取材の過程で多くのプレイヤーが、自分にできることには限界があると訴え、まるで当事者ではないような態度を見せた。「薄められた悪意」と言うべきものがネット広告の闇の中に堆積し、広がっているというのが取材者としての実感だ。(p.203)
「ネット広告の暴走」に歯止めがかからない原因として、業界関係者の当事者意識の欠如や無力感があると主張しているのです。
広告業界におけるネット広告の存在感はますます大きくなっています。ネット広告を有益で信頼性の高いものにしていくには、すべての業界関係者がそこにある“闇”とも真摯に向き合っていく必要がある。そう強く考えさせられる一冊でした。