商品カテゴリー別に見る買い溜め・買い控えの傾向
増税前後の動きは商品カテゴリーごとに様々であったが、その動きを3〜5月の購入金額の前年伸長を基にクラスタリング分析を用い、類型化を行った。今回は分布と解釈性に基づき図表2のような6クラスタを採用した。

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買い溜めと増税後の買い控えに主眼を置いて見ていこう。基礎調味料、ヘアケア商品、衣料用洗剤など、日々の使用頻度が高いカテゴリーは買い溜めと反動の影響が大きい傾向が見られた(クラスタ1)。一方で加工食品や調味料は、買い溜め、買い控え共にクラスタ1と比較して相対的にその幅は小さい(クラスタ3)。買い溜めは加工食品や日用品など、保存性の高い商材で多く発生しているが、共通して日常の使用頻度と関連し、より日常的に使用されるカテゴリーほど買い溜め幅とその反動が大きい傾向が見られた。
同様に日常的に使用される商品においても、ビール、ベビーフード、ペットフードなどは買い溜めが発生するも、5月には前年並みに戻っている。購買と消費の回転が速いカテゴリーは復活が早い結果が見られた(クラスタ4)。
対照的に乳製品、肉類、水物等の賞味期限が短い商材、また、冷凍食品も買い溜めの影響が小さい結果となった。冷凍食品については保存性が高いものの、冷凍庫に限定されるというストックスペースの小ささが買い溜めの起こりにくさに関連していると考えられる(クラスタ5)。
ライフステージ別に見る買い溜め・買い控えの傾向
次に、買い溜めを『ヒト』の視点で把握するため、買い溜め行動をマクロミルが分類している16タイプのライフステージで分析した(図表3)。

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前年と比較すると、3月の買い溜め、4月の買い控えは全ライフステージで起こっている。その中で筆者が着目するのは『女性_共働き子あり』『女性_主婦子あり』のセグメントである。これらのセグメントは相対的に見て3月の買い溜めが少なく、買い控えが大きい。3月の買い溜めを必要最小限に行うとともに4月の支出を抑えており、3〜4月合算の支出額が前年を下回っていた。類似セグメントの『女性_主婦子なし』層で買い溜め・買い控えが大きかった状況と異なっており、生活防衛意識に対しては就労有無よりも子の有無のほうが影響していたと考えられる。
政府による増税対策の認知状況は?
このように2014年の消費増税では様々な購買行動への影響があった。それを受けて今回は多数の経済政策が計画されている。特に、酒類を除いた食品へは軽減税率が導入され、増税の効果を受けるカテゴリーが限定的となる。また、キャッシュレス導入促進の思惑と重なる5%のポイント還元政策により、買い控えの抑制が意図されている。
ここで、マクロミルが2019年5月に実施した意識調査結果から、今年10月の消費増税に対する政府の施策への認知状況や受容状況を追っていきたいと思う。2019年の政府による増税対策の認知状況を見てみよう(図表4-1)。

ベース:全国20〜69歳の男女(n=1,034)/複数回答
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最も認知率が高いのは「軽減税率」で74%。うち、内容理解率は25%で、男性20代が33%と最も高く、女性20代は15%と最も低い。それ以外の年代は25%前後と内容理解率に顕著な差は見られない。認知率が2番目に高い施策が「幼児教育・保育の無償化」で72%。内容理解率は21%で、特に男女30代で理解が進む。日常的な消費購買行動に影響が大きいであろう「キャッシュレスポイント還元」は全体で認知率が67%、内容理解率が18%。男性20〜30代と女性30〜40代で認知率が比較的高い。前者はテクノロジー観点での興味、後者はお買い得観点での興味であろうか。
さらに「キャッシュレスポイント還元」の利用ポテンシャルについて、利用率と政策理解後の利用意向の差分を取り性年代別に分析した。現状、キャッシュレスの利用率が低い女性20〜30代で政策理解後の利用意向率の伸びが大きく、政策によって最も大きな購買行動の変化が見込まれる属性であることがわかる(図表4-2)。

ベース:全国20〜69歳の男女(n=1,034)/複数回答
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男性20〜30代は元々技術への興味からか利用率が高いが、女性の一定数も本施策によりお得感が喚起され、キャッシュレス導入が促進、それによる購買抑制の緩和に寄与する可能性が示唆された。
2019年の増税が購買行動に与える影響は?
改めて2014年増税時の状況から2019年増税時の食品・日用品に関する購買行動を考察しよう。2019年増税時には軽減税率により、大部分の食品は増税対象外となる。2014年の買い溜めから、特に日常利用頻度が高いヘアケア、衣料用洗剤等で引き続き買い溜めが発生する可能性が高い。ヒト視点で経済インパクトが大きいのは、2014年に見られた買い溜めも少なく、増税後の買い控えも大きい子あり女性層。この層の動きが経済に少なからず影響を与えると考えられる。そこに対して政府が打ち出している施策はこれらの層に一定の効果があると筆者は考える。特に幼児教育・保育園無償化は子あり世帯に直接関連し、また、キャッシュレスポイント還元施策も女性20〜30代の利用意向が高い傾向が見られた。キャッシュレスは、特にQR決済企業各社が巨額のプロモーション予算をかけ利用者拡大を図っていることもあり、政府の施策効果を補強するであろう。増税買い控え層に対し、生活負担軽減、増税額還元により経済負担は少なからず軽減されると考えられる。
今回の増税に対しては、2014年増税の経済反動を踏まえ、非常に充実した増税対策が組まれている。特にキャッシュレスポイントなど継続的な購買行動の変化につながる施策も含まれており、消費者の買い物スタイルを変える可能性を秘めていると考えられる。経済インパクトと並行して、今後の購買行動の変化を引き続き観測していきたい。
■調査概要
<購買データ>
調査方法:個人購買パネル調査
調査対象者:マクロミルモニタ所属 QPRモニタ(沖縄除く全国)
調査対象者数:約30,000人
収集対象:バーコード付き商品(インストアコード商品を除く)<意識調査>
調査主体:マクロミル
調査方法:インターネットリサーチ
調査対象:全国20歳~69歳の男女(マクロミルモニタ会員)
割付条件:性年代別の人口構成比率に合わせて回収/1,034サンプル
調査期間:2019年5月16日(木)~2019年5月17日(金)
・本文の数値は四捨五入した整数で表記しています。
・百分率表示は四捨五入の丸め計算を行っており、合計が100%とならない場合があります。
▼調査レポート
『増税に向けた消費行動や、軽減税率・ポイント還元などの増税対策について調査』(HoNote)