AIがもたらす「最適化の罠」とは
「良いモノを作れば、必ず売れる」。かつてマーケティングの世界には、そんなシンプルな成功法則がありました。しかし、その前提は大きく崩れ始めています。
現在、多くの企業がAIを活用してターゲティング精度を高め、広告運用を自動化し、施策のROIを改善しようとしています。AIは膨大なデータを分析し、欲しがっている人に最短でリーチすることにおいて、人間の能力をはるかに上回ります。しかし、ここに大きな落とし穴があります。私たちはこれを「最適化の罠」と呼んでいます。
すべての企業が同じようにAIを駆使し、同じアルゴリズムで正解を追求した結果、何が起きるでしょうか?そこにあるのは、顕在ニーズという限られたパイを、全プレイヤーで奪い合う熾烈な消耗戦です。
AIが導き出す最適な顧客とは、過去のデータから購入確率が高いと判断された人々に過ぎません。競合他社も同様の最適化を加速させれば、サービスや体験はどこまでも均質化され、ブランドはコモディティ化の激流に飲み込まれていきます。
現時点において、AIが得意とするのは、あくまで「既存市場の効率的な刈り取り」です。そこでの最適化は、いずれ市場の飽和と価値の低下、価格競争を招き、企業の成長を鈍化させます。
「検討」が消滅する時代、突破すべき2つの関門
さらに深刻な変化が、生活者の側でも起ころうとしています。生成AIの普及にともない、購買行動そのものが劇的に変わりつつあるのです。
これまで生活者は、欲しいものがあればネットやSNSで検索し、比較・検討して商品を選んでいました。しかし、今後AIエージェントとの対話がその役割を担うと考えられています。
「予算5万円でお勧めの旅行先は?」といった生活者の問いに対し、AIが最適な正解を提示してくれるようになります。これは、生活者が自分で選ぶという行為を手放し始めることを意味します。
AIエージェントが「あなたにはこれが最適です」と判断すれば、価格比較から決済、配送手配までを裏側で完結させる自律的購買すら可能になるでしょう。この変化は、マーケターにとって何を意味するでしょうか? それは、「検討されるプロセス」の消滅です。
企業がどれだけWebサイトを作り込んでも、生活者はサイトを訪れることすらなく、AIとの対話だけで買い物を済ませてしまう。いわゆる「ゼロクリックサーチ」が常態化する環境下では、マーケターが突破すべき2つの関門が出現します。
1つ目の関門:AIに思い出してもらうこと
2つ目の関門:最終的に人間に「これがいい」と選ばれること
AIの回答候補に自社ブランドが含まれなければ、認知の土俵にすら上がれません。しかし、AIが効率的に候補を絞り込んだとしても、最後の決定権は人間にあります。AIが提示する合理的な正解を超えて、「なんとなく好き」「このブランドには共感する」といった、理屈を超えた結びつきを作れるかどうかが、選ばれ続けるための生命線となるのです。

