SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

新着記事一覧を見る

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2026 Spring

AI時代の新戦略「価値創生CX」とは何か?(AD)

結局、価格でしか競争できない…AI活用で陥る“最適化の罠”を抜けだす新戦略「価値創生CX」とは

 AIの進化はマーケティングのROIを劇的に改善しました。しかし、その先に待っているのは全プレイヤーが同じ正解を奪い合う熾烈なコモディティ化、すなわち「最適化の罠」です。AIエージェントが意思決定を代行し、検討プロセスが消失する「エージェントコマース」の時代、マーケターは最適化の罠を打ち破り、いかに価値を創出すべきでしょうか。近刊『至高のCX 生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装』の知見をもとに、AI時代における生存戦略「価値創生CX」の実装論を紐解きます。第1回は、既存のマーケティングモデルが機能不全に陥る構造的理由を整理します。

AIがもたらす「最適化の罠」とは

 「良いモノを作れば、必ず売れる」。かつてマーケティングの世界には、そんなシンプルな成功法則がありました。しかし、その前提は大きく崩れ始めています。

 現在、多くの企業がAIを活用してターゲティング精度を高め、広告運用を自動化し、施策のROIを改善しようとしています。AIは膨大なデータを分析し、欲しがっている人に最短でリーチすることにおいて、人間の能力をはるかに上回ります。しかし、ここに大きな落とし穴があります。私たちはこれを「最適化の罠」と呼んでいます。

 すべての企業が同じようにAIを駆使し、同じアルゴリズムで正解を追求した結果、何が起きるでしょうか?そこにあるのは、顕在ニーズという限られたパイを、全プレイヤーで奪い合う熾烈な消耗戦です。

 AIが導き出す最適な顧客とは、過去のデータから購入確率が高いと判断された人々に過ぎません。競合他社も同様の最適化を加速させれば、サービスや体験はどこまでも均質化され、ブランドはコモディティ化の激流に飲み込まれていきます。

 現時点において、AIが得意とするのは、あくまで「既存市場の効率的な刈り取り」です。そこでの最適化は、いずれ市場の飽和と価値の低下、価格競争を招き、企業の成長を鈍化させます。

「検討」が消滅する時代、突破すべき2つの関門

 さらに深刻な変化が、生活者の側でも起ころうとしています。生成AIの普及にともない、購買行動そのものが劇的に変わりつつあるのです。

 これまで生活者は、欲しいものがあればネットやSNSで検索し、比較・検討して商品を選んでいました。しかし、今後AIエージェントとの対話がその役割を担うと考えられています。

 「予算5万円でお勧めの旅行先は?」といった生活者の問いに対し、AIが最適な正解を提示してくれるようになります。これは、生活者が自分で選ぶという行為を手放し始めることを意味します。

 AIエージェントが「あなたにはこれが最適です」と判断すれば、価格比較から決済、配送手配までを裏側で完結させる自律的購買すら可能になるでしょう。この変化は、マーケターにとって何を意味するでしょうか? それは、「検討されるプロセス」の消滅です。

 企業がどれだけWebサイトを作り込んでも、生活者はサイトを訪れることすらなく、AIとの対話だけで買い物を済ませてしまう。いわゆる「ゼロクリックサーチ」が常態化する環境下では、マーケターが突破すべき2つの関門が出現します。

 1つ目の関門:AIに思い出してもらうこと

 2つ目の関門:最終的に人間に「これがいい」と選ばれること

 AIの回答候補に自社ブランドが含まれなければ、認知の土俵にすら上がれません。しかし、AIが効率的に候補を絞り込んだとしても、最後の決定権は人間にあります。AIが提示する合理的な正解を超えて、「なんとなく好き」「このブランドには共感する」といった、理屈を超えた結びつきを作れるかどうかが、選ばれ続けるための生命線となるのです。

最適化の罠から抜け出すには?

 この最適化の罠から抜け出し持続的に成長するためには、既存のパイを奪い合う発想を捨てなければなりません。

 そこで私たちが提案するのは、生活者の日常に潜む微かな変化や、未充足のジョブ(※)を掘り起こし、ブランドが受け入れられる新しい市場そのものを創造することです。そのゴールは単なるヒット商品を作ることではありません。ブランドが人々の暮らしに不可欠な存在として根付く、「生活文化」の形成を目指すことです。

※ジョブ:ハーバード・ビジネス・スクールの教授で、経営コンサルタントでもあったクレイトン・M・クリステンセン氏の「ジョブ理論」で提唱されている「生活者がなぜある特定の商品を買うのか」という潜在的な理由を指す。“ある特定の状況で人が遂げようとする進歩”と定義されている。

 ここでいう「生活文化」とは、一過性のブームや個人のライフスタイルを超え、集団に共通する行動様式や価値観として定着した状態を指します。

 たとえば、「洗えないものを洗うようにスプレーする」という行為を定着させたファブリーズを思い浮かべてみてください。これは単なる商品ではなく、「除菌・消臭」という新しい当たり前を創り出しました。これこそが生活文化です。

 私たちは、この市場創造から生活文化の定着までの一連の流れを包括的に捉えるアプローチを「価値創生CX」と定義しました。従来のCX(顧客体験)が、接客やUIなど既存のニーズを満たすための接点(点)の最適化になりがちであったのに対し、価値創生CXは生活者も気付いていない「ジョブ(解決すべき課題)」をあぶり出し、それを社会の共通言語へと昇華させ、派生的な産業が生まれる土壌を築く長期的な観点を持っています。

価値創生CX
価値創生CXの全体像

文化とは「暮らし」そのもの

 文化の創造と表現すると、仰々しく感じるかもしれません。また話が壮大すぎてそんなことを本当に目指せるのか?といった声も聞こえてきそうです。しかし、私たちが考える文化とは日々の暮らしそのものであり、新しい文化は暮らしの中で、次々と生まれてきています。本書ではそれを「生活文化」と呼びます。

「独占」から「共創」へ、戦略のシフトが自走につながる

 では、どうすれば「生活文化」は生まれるのでしょうか? 文化といっても、最初から全員が受け入れるわけではありません。必ず、「個人の小さな変化」から始まります。私たちは、生活文化が形成されるプロセスを5つの段階で定義しています。

  1. 個人の意識と行動の変化:特定の情報や体験により、一人の生活者が新しい価値に気付く。
  2. 集団の意識と行動の変化:同じ考え方や行動をする人々が徐々に増える。
  3. 集団の顕在化・トライブ化:特定の集団(トライブ)の中で習慣化され、共通言語化される。
  4. 一般習慣化・カテゴリ化:特定の集団を超え、広く一般的に行動が定着する。
  5. 生活文化への昇華:社会全体の当たり前となり、法整備や仕組み化が進み、自走する。
生活文化が形成されるプロセス

 従来のマーケティングは、第3段階のトライブやブームを作ることが目的になりがちでした。しかし、価値創生CXが目指すのは、その先にある第5段階、つまり行動様式や価値観が「生活文化」として定着し、企業が広告を打ち続けなくても商品が選ばれ続ける自走の状態です。

 このプロセスにおいて重要なのは、企業一社だけで完結させようとしないことです。新しい市場を文化にするには、競合他社や異業種のパートナー、時には行政や専門家といった多様なステークホルダーを巻き込むエコシステムの形成が不可欠です。市場を独占するのではなく、共に市場を育て、価値を増幅させていく視点が求められます。

「人間の非合理性」がAI時代の武器になる

 AI全盛の時代に、なぜこのような人間中心のアプローチが必要なのでしょうか? その答えは、人間の脳の仕組みにあります。行動経済学者のダニエル・カーネマンは、人間の思考を「システム1(速い思考:直感・感情)」と「システム2(遅い思考:論理・分析)」に分類しました。

 AIが得意とするのは「システム2」の領域です。しかし、人間は常に合理的な判断をするわけではありません。非合理で感情的な「システム1」によって意思決定を行っています。

 記事の冒頭で述べたとおり、AI活用が進めば進むほど、論理的な正解はどの企業も提供できるようになり、コモディティ化します。その時、最後に差をつけるのは「システム1」への共鳴力です。

 AIには理解できない心のバイアスや文脈、一見非効率に見えるこだわりやストーリー。こうした情緒的な価値こそが、AIのアルゴリズムを突き抜け、生活者に選ばれる理由を作るのです。

 これからのマーケティングは、「AIによる最適化」と、「人間による価値創生」のハイブリッド戦になります。AIという強力な武器を使いこなしながらも、最後は人間の知性で生活者の隠れた本音を読み解き、新しい「生活文化」を創り出す。これこそが、AI時代のマーケターに課された究極のミッションと言えるでしょう。

 断片的な接点を、途切れることのない一連の体験へとつなぎ、互いに響き合う重層的なつながりへと編み上げる。この創造的な飛躍こそが、AIには代替できない人間ならではの領域であり、私たちが目指すべき「至高のCX」なのです。

【次回予告】実践のヒントを探る

最適化の罠に陥らないための戦略概念は見えました。では具体的に、どうのように「価値創生CX」を実践すればよいでしょうか?次回は事例を通して、そのヒントを探ります。

※本記事は制作中の書籍の情報を含みます。図版など一部が刊行時の内容と異なる可能性があります。

書籍のご紹介

本記事は、5月刊行の書籍『至高のCX 生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装』の一部を抜粋・再構成したものです。書籍では、価値創生CXモデルの概要や、実現のためのステップを詳しく解説。さらに9カテゴリのケーススタディとフレームワークを用いて、価値創生CX設計の勘所を学べます。

「低迷する既存ブランドを回復させたい」「戦略に変化が必要だが、何を変えたいかわからない」という悩みにお答えする1冊。ぜひ、ビジネスにお役立てください!

至高のCX 生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装

Amazon SEshop その他

至高のCX
生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装

著者:TOPPAN×インテグレート CX研究プロジェクト
発売日:2026年5月25日(月)
定価:2,420円(本体2,200円+税10%)

本書について

モノが多すぎて売れない、似た商品ばかりでブランドが埋もれる……本書はそのような課題の解決として、新戦略「価値創生CX」を提唱するものです。戦略を5段階で整理し、実践ステップに体系化・フレームワーク化。9つの仮想事例を用意し、理論の理解と実践を可能とします。消耗戦を脱し、選ばれ続ける存在になるための1冊です。※書影は制作中のものです

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
この記事の著者

TOPPAN✕インテグレート CX研究プロジェクト(トッパン インテグレート シーエックスケンキュウプロジェクト)

TOPPAN株式会社と株式会社インテグレートによるCX研究プロジェクト。
広告やPR、キャンペーンなどのマーケティングコミュニケーショ ンの設計、オンライン・オフラインのシームレスな購入接点の開発、コールセンターの応対履歴・CRMのデータ分析、CDP(顧客データ基盤)の構築、商品パッケージのデザインまで、購入前から購入後...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社インテグレート

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2026/03/31 11:00 https://markezine.jp/article/detail/50528