【この記事で学べるポイント】
曖昧に使われる 「価値」という言葉を明確化し、既存顧客を大切にすることがなぜ最強の成長戦略なのか、複数の法則に基づいて理解できるようになります。
価値を決めるのは、企業ではなく顧客
MarkeZine編集部(以下、MZ):連載第1回では「良い売上」について、第2回では「顧客セグメント」についてうかがいました。最終回では、良い売上をもたらすロイヤル顧客の重要性を、詳しくお聞きします。
西口:前提として、「価値」について少し触れておきたいと思います。第1回で、マーケティングについて次のように定義しました。
(1)顧客のニーズを洞察し、顧客が価値を見出すプロダクト・サービスを作る
(2)その価値を高め続けて、継続的な利益を生み出す
(3)その利益を再投資して、新たな価値を作り続ける
西口:よく「価値を提供します」という言葉を耳にしますが、価値は企業が提供するものではないと考えています。プロダクトそれ自体には、何の価値もありません。そこに顧客が「欲しい」「私に役立つ」と価値を見出して初めて、価値あるプロダクトになります。
企業ができるのは、あくまで価値の「提案」に過ぎません。そのプロダクトが本当に価値があるかどうかを決定するのは、100%顧客側なのです。これを見誤ると、「いい商品なのになぜ売れないのだろう」と、顧客不在のまま悩むことになります。
MZ:いい商品なのに、という考えをまず疑う必要がありそうですね……。
西口:はい、そうしたケースが往々にして見られます。たとえば高機能で画期的なオーブンレンジは、料理好きの人には魅力的でも、まったく料理をしない人にとっては価値がゼロです。
なのでマーケターは、顧客が何を「価値」と見なすのか、その心理を徹底的に洞察する必要があります。価値とは、顧客が抱えている悩みや欲求──これは「インサイト」ともいわれますが、これらをプロダクトが解決できるときに初めて生まれるのです。
価値の高低が与える、利益性へのダブルインパクト
MZ:顧客がプロダクトに価値を認め、購入に至ると、売上が上がるということですね。
西口:はい。ただし、第1回で解説したように、売上とともに「利益」を常に意識してください。ここで書籍『良い売上、悪い売上』(翔泳社)からひとつ紹介したいのが、「価値のダブルインパクト」というフレームワークです。顧客が見出す価値が大きいか、小さいかによって、事業には2つの大きなインパクトが発生します。
MZ:2つのインパクト、ですか?
西口:簡単にいうと、顧客が「このプロダクトは価値が高い」と思ったら、高価でも買う可能性が高いですよね。一方で、口コミなどで自然に広がるので、認知や販促のための費用も削減できます。逆に「価値が低い」と思われると、安売りが必要だったり、費用もかさんだりします。
MZ:なるほど。
西口:このメカニズムを図解したのが、次の図です。ここで大事なのは、価値が高い(中央)と営業利益が上下に広がり、価値が低い(右)と営業利益が上下に圧縮される、ダブルのインパクトがある点です。加えて、前者は「安売りせずとも売れる商品」としてブランド力が高まり、後者は逆にブランド力が低くなるという、将来的な影響もあります。
MZ:今の利益だけでなく、未来の利益にも影響してしまうのですね。
西口:そうです。購入・使用して、高い価値を見出した顧客は、次もその商品を選ぶ可能性が高まります。つまり、将来の集客コストも下げられます。
逆に、一時的なキャンペーンや過度な値引きで売上を作ると、現時点での利益が小さくなるだけでなく、「定価で買うのは損だ」という意識が根付き、資産を毀損してしまいます。このような一過性の売上を「悪い売上」と呼んでいます。
