菅野さんが「広告」に対して思うこと
藤平:「広告産業のパーパスを考える」という壮大なテーマを掲げたこの連載も7回目となりました。今回は、業界のトップランナーであり、昨年初開催された虎ノ門広告祭の発起人でもある(つづく)菅野薫さんをお尋ねしています。「この業界はこれからどうなっていくんだろう?」「楽しく仕事ができるんだろうか?」といった問いを抱えている20~30代前半の広告人に、何かしらの示唆をいただけるのではという期待をもって、対談をオファーさせてもらいました。
まずは虎ノ門広告祭の話題から始めたいのですが、虎ノ門広告祭では「あえて、広告のこと。あえて、今やる。」という表現をされていましたよね。この「あえて」の裏にあるのは、広告という枠組みでくくられたり、広告人と言われたりすることへの違和感なのか、あるいは広告に可能性を感じているのか――「広告」を今どう捉えていますか?
菅野:僕は広告業界からキャリアをスタートし、いまも大きくは広告的なビジネスモデルの中で仕事をしているので、広告に対して否定的な気持ちはまったくありません。広告業界は自分の生まれ育った地元みたいなもので、愛着があるし、広告業界における方法論が自分の思考の出発点になっている自覚もあります。
ただ、地元(広告や広告業界)が時代に合わせてどんどん変わっていくこと自体は、別に否定することじゃないですよね。昔あった道がなくなったからって、もちろん郷愁はあるけれど、泣き叫ぶ必要はないというか。新しい顔が見えてくることに、まったく否定的ではない。むしろ、それが本質的によい進化になっているかのほうが大事ですよね。そのくらいのニュアンスで「広告」と向かい合っています。
藤平:そこは極めてフラットなんですね。個人的には「あえて」というコピーの通り、広告と表現されたことが強い求心力になっている印象を受けました。
菅野:ええ、虎ノ門“広告”祭と名乗ったからといって、昭和からずっと営まれてきた"典型的な広告像"に執着しているということではないんですよ。カンヌ・ライオンズも「クリエイティビティフェスティバル」と言っているみたいに「クリエイティブ祭」にしたほうが良いという意見をたくさんもらいましたが、カンヌ・ライオンズも事実上は、広告産業関連の人たちのお祭りですよね。建築や映画の界隈の人たちが自分から押し寄せてきているかといえば、そういうことでもないので。
自分たちのことを過剰に大きく見せて曖昧になるよりは、虎ノ門広告祭と名乗ることで、どこの界隈の話(イベント)なのかを明確にしたかった、という意図があります。
藤平:なるほど。僕はオンライン配信でいくつかのコマを聞かせてもらったのですが、「人」を起点にテーマアップされている印象があり、そこにグッときました。カンファレンスイベントは、「トレンドやイシューありき」になりがちですが、虎ノ門広告祭は登壇される粒違いの方々が「話したいこと」を大切にされていた、コレクティブな祭りだったのかなと。
菅野:通底するテーマを用意していないというのはおっしゃる通りです。あえて言えば、いまこの時代に「広告祭」をやること自体がテーマなので。だから、虎ノ門広告祭の結論は? と聞かれても、ないです(笑)。
いまの広告業界には多様な美意識や考え方があって、生き抜くために色んな人がもがいている――その多様さをそのまま受け止めて提示することで、いらっしゃった方各自が自分なりのヒントを持ち帰ってくれればいいという考えで、場を設計しました。登壇者についてもなるべく所属と年齢、専門がバラバラになるように組みましたし、なるべく登壇者の皆さんとは直接会話して、議論から提案いただいた内容や登壇者は否定せず、なるべくすべて受け入れる形でつくっていきました。
