1回目の記事では、AIを用いた同様のデータとアルゴリズムによる最適化を進めることで各社の打ち手が同質化し、ブランドの埋没や価格競争が発生する「最適化の罠」を説明しました。そのうえで、そこからの脱却として文化の形成を最終的なゴールとする「価値創生CX」という考え方をご紹介しました。今回の記事では、価値創生CXをマーケティングモデルに落とし込んだ「価値創生CXモデル」をご紹介するとともに、世の中の先行事例を本モデルに当てはめ、再解釈していきます。
従来の「ファネルモデル」では市場創造が難しい理由
マーケティングの現場では長年、「パーチェスファネル」が基本モデルとして使われてきました。近年ではSNSの普及を受け、購入後のシェアや発信を含めた「ダブルファネルモデル」も定着しています。
このモデルは、広告効果の測定や予算配分の最適化においては非常に優れたツールです。しかし、このモデルには重大な欠点があります。それは、生活者の消費行動のピークを「購入」という一瞬の点に置きすぎていることです。
生活者にとって、モノを買うことはゴールではありません。日々の生活の中で抱えている課題を解決し、より良い状態になるための「手段」に過ぎないのです。にもかかわらず、企業側が「いかに買わせるか」という購入までのプロセスばかりを最適化しようとすれば、購入後の長い生活時間における体験や、そこから生まれる新しい価値を見落としてしまいます。
AI時代において、既存の需要を効率的に刈り取るだけならファネルモデルでも機能するでしょう。しかし、それは「最適化の罠」による価格競争への道です。私たちが目指すべきは、まだ顕在化していない市場を創り出すことです。そのためには、直線的で一方向的なファネルモデルを脱却し、生活者の暮らしを基軸に、意識や行動の変化が循環しながら市場が拡大していく新しいモデルが必要になります。
それが、私たちが提唱する「価値創生CXモデル」です。
スタートは「未充足のジョブ」の顕在化、ゴールは「生活文化」の形成
「価値創生CXモデル」の特徴は2つあります。1つは「スタート」と「ゴール」の設定。そして、価値の伝わり方です。
スタート:商品認知ではなく「未充足なジョブ」の顕在化
価値創生CXモデルは従来のマーケティングモデルとは「スタート」と「ゴール」の設定が根本的に異なります。ファネルモデルの起点は「商品の認知」でした。しかし、価値創生CXモデルの起点は「生活者が抱える未充足なジョブの顕在化」です。「ジョブ理論」で知られるクリステンセン氏が提唱するように、人は商品そのものが欲しいのではなく、生活の中にあるジョブを片付けるために商品を雇用します。
企業がまずすべきことは、商品の宣伝ではありません。生活者自身も気づいていない「言われてみれば、確かにそれに困っていた」という潜在的なジョブを照らし出し、それを自らの課題として認識させることなのです。
ゴール:購入ではなく「生活文化」の形成
そしてゴールは「購入」ではありません。購入はあくまで通過点であり、顧客との関係の「始まり」です。価値創生CXモデルでは、ゴールを3つの段階で捉えます。
- 個人レベルの「習慣化」:個人の生活リズムの中に商品が繰り返し組み込まれ、自然と手が伸びる状態。
- 集団レベルの「行動様式化」:個人の習慣が積み重なり、「そうするのが当たり前だ」という集団の認識になる状態。
- 社会レベルの「生活文化の形成」:これが最終的なゴールです。特定の商品を超えて、社会全体の「当たり前」として定着した状態です。ファブリーズが「洗えないものを洗う」という文化を作ったように、ブランドが生活文化の起点となり、多様なプレイヤーを巻き込みながら市場を拡張し続ける状態を目指します。
たとえば、スターバックスは単純にコーヒーを提供するのではなく、「自宅でも職場でもない、もう一つの快適な居場所(サードプレイス)が欲しい」という潜在的なジョブに応えることで、独自のポジションを確立しました。そして、カフェで自分らしい時間を過ごすという文化が定着しています。

