SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

新着記事一覧を見る

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2026 Online

AI時代の新戦略「価値創生CX」とは何か?(AD)

「購入」はゴールではない?その先の生活行動まで見据え、市場を創る「価値創生CXモデル」5つのステージ

 「認知から購入へ」と絞り込むパーチェスファネルは生活者の行動全般をとらえきれていません。今、求められるのは購買を「ゴール」ではなく「スタート」と捉え直す視点です。近刊『至高のCX 生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装』の知見をもとに、AI時代における生存戦略「価値創生CX」の実装論を紐解く本連載。第2回は「価値創生CXモデル」の全体像と生活文化の形成に至るまでの5つのステージを事例なども交えながら解説していきます。

 1回目の記事では、AIを用いた同様のデータとアルゴリズムによる最適化を進めることで各社の打ち手が同質化し、ブランドの埋没や価格競争が発生する「最適化の罠」を説明しました。そのうえで、そこからの脱却として文化の形成を最終的なゴールとする「価値創生CX」という考え方をご紹介しました。今回の記事では、価値創生CXをマーケティングモデルに落とし込んだ「価値創生CXモデル」をご紹介するとともに、世の中の先行事例を本モデルに当てはめ、再解釈していきます。

従来の「ファネルモデル」では市場創造が難しい理由

 マーケティングの現場では長年、「パーチェスファネル」が基本モデルとして使われてきました。近年ではSNSの普及を受け、購入後のシェアや発信を含めた「ダブルファネルモデル」も定着しています。

 このモデルは、広告効果の測定や予算配分の最適化においては非常に優れたツールです。しかし、このモデルには重大な欠点があります。それは、生活者の消費行動のピークを「購入」という一瞬の点に置きすぎていることです。

 生活者にとって、モノを買うことはゴールではありません。日々の生活の中で抱えている課題を解決し、より良い状態になるための「手段」に過ぎないのです。にもかかわらず、企業側が「いかに買わせるか」という購入までのプロセスばかりを最適化しようとすれば、購入後の長い生活時間における体験や、そこから生まれる新しい価値を見落としてしまいます。

 AI時代において、既存の需要を効率的に刈り取るだけならファネルモデルでも機能するでしょう。しかし、それは「最適化の罠」による価格競争への道です。私たちが目指すべきは、まだ顕在化していない市場を創り出すことです。そのためには、直線的で一方向的なファネルモデルを脱却し、生活者の暮らしを基軸に、意識や行動の変化が循環しながら市場が拡大していく新しいモデルが必要になります。

 それが、私たちが提唱する「価値創生CXモデル」です。

キャプション:ダブルファネルモデルと価値創生CXモデル
ダブルファネルモデルと価値創生CXモデル

スタートは「未充足のジョブ」の顕在化、ゴールは「生活文化」の形成

 「価値創生CXモデル」の特徴は2つあります。1つは「スタート」と「ゴール」の設定。そして、価値の伝わり方です。

スタート:商品認知ではなく「未充足なジョブ」の顕在化

 価値創生CXモデルは従来のマーケティングモデルとは「スタート」と「ゴール」の設定が根本的に異なります。ファネルモデルの起点は「商品の認知」でした。しかし、価値創生CXモデルの起点は「生活者が抱える未充足なジョブの顕在化」です。「ジョブ理論」で知られるクリステンセン氏が提唱するように、人は商品そのものが欲しいのではなく、生活の中にあるジョブを片付けるために商品を雇用します。

 企業がまずすべきことは、商品の宣伝ではありません。生活者自身も気づいていない「言われてみれば、確かにそれに困っていた」という潜在的なジョブを照らし出し、それを自らの課題として認識させることなのです。

ゴール:購入ではなく「生活文化」の形成

 そしてゴールは「購入」ではありません。購入はあくまで通過点であり、顧客との関係の「始まり」です。価値創生CXモデルでは、ゴールを3つの段階で捉えます。

  1. 個人レベルの「習慣化」:個人の生活リズムの中に商品が繰り返し組み込まれ、自然と手が伸びる状態。
  2. 集団レベルの「行動様式化」:個人の習慣が積み重なり、「そうするのが当たり前だ」という集団の認識になる状態。
  3. 社会レベルの「生活文化の形成」:これが最終的なゴールです。特定の商品を超えて、社会全体の「当たり前」として定着した状態です。ファブリーズが「洗えないものを洗う」という文化を作ったように、ブランドが生活文化の起点となり、多様なプレイヤーを巻き込みながら市場を拡張し続ける状態を目指します。

 たとえば、スターバックスは単純にコーヒーを提供するのではなく、「自宅でも職場でもない、もう一つの快適な居場所(サードプレイス)が欲しい」という潜在的なジョブに応えることで、独自のポジションを確立しました。そして、カフェで自分らしい時間を過ごすという文化が定着しています。

価値が増幅するメカニズム。「個」と「集団」の相互作用

 価値創生CXモデルの2つ目の特徴が、価値の伝わり方です。従来の情報や価値の伝達は「企業から個人」の一方向でした。しかし現在は、SNSやコミュニティを通じて、個人の体験が集団に共有され、そこで生まれた共感や新しい解釈が、再び別の個人の行動を変えていくというダイナミックな循環が起きています。価値創生CXモデルでは、集団と個人の相互作用の視点が不可欠です。

 イメージしやすいように、具体的な企業・ブランドを価値創生CXモデルの視点で捉えてみましょう。

 Nikeは単なるスポーツギアの販売を超え、スポーツという行為そのものを、継続的な体験として成立させています。その仕組みの一つがアプリ「Nike Run Club」です。ランナーは、「今日は走れた」という個人的な体験をアプリ(やSNS)に投稿します。その体験が集団に広がり、共感を生むことで、「走る文化」が立ち上がります。そして、その文化に触れた新たな個人が「自分も走ってみよう」と行動を起こすのです。

 Nikeは「走り続ける体験を共に育てるプラットフォーム」として機能し、ユーザー同士の相互作用(UGC)の循環を設計することで、ランニング市場における圧倒的な立ち位置を築きました。

市場を創る「価値創生CXモデル」5つのステージ

 ここからは、価値創生CXモデルを詳しく解説していきましょう。このモデルは5つのステージで構成されています。

ステージ1:問題提起・課題の顕在化(個)

 生活者が、漠然とした違和感や言語化されていない課題(ジョブ)に気付く段階です。企業は商品を売り込むのではなく、その違和感を社会的なテーマとして提示し、「これは解決すべきことだ」と気付かせます。

ステージ2:課題認識(個→集団)

 個人の気付きが、他者との共有を通じて「社会的に共有された課題」へと変わる段階です。ここでは「なぜそれが問題なのか」という文脈が整理され、共感が広がります。

ステージ3:解決行動・購入(集団→個)

 集団の中で承認された解決策として、商品やサービスが選ばれる段階です。ここで初めて「購入」や「トライアル」が発生します。重要なのは、これが単なる消費ではなく、生活者が「新しい解決法を自分の生活に取り入れてみる」という実験的な行動である点です。

ステージ4:習慣化・行動様式化(個→集団)

 一時的な利用で終わらず、生活リズムの中に定着する段階です。個人が効果を実感し、「なぜこれを使うのか」を理解して使い続けることで、周囲からも「あの行動は当たり前」と認識され始めます。

ステージ5:生活文化の形成(集団)

 行動が特定の集団を超え、社会全体の規範やインフラとして定着する段階です。法整備や教育への導入、他業種との連携などが進み、企業の手を離れても自走する「文化」となります。

【ケーススタディ】キシリトールはなぜ「生活文化」になったのか

 価値創生CXモデルが実際にどのように機能し、巨大市場を創り出すのか。その鮮やかな事例が「キシリトール」です。かつて日本の歯科医療は治療型が中心で、生活者には「甘いものを食べれば虫歯になるのは仕方ない」という常識がありました。しかし、キシリトールはこの前提を覆し、「虫歯を予防する」という新しい生活文化を創り出しました。

 この取り組みを価値創生CXモデルの5段階で整理すると、次のようになります。

ステージ1:問題提起(常識への問いかけ)

 まず提示されたのは、「虫歯の原因は糖ではなく、ミュータンス菌である」という科学的事実でした。これにより、「虫歯を治療する」ではなく「菌をコントロールして予防したい」という新しい課題(ジョブ)が顕在化しました。

ステージ2:課題認識(専門家との合意形成)

 次に、研究者や歯科医を巻き込み、「予防歯科は実現可能である」という認識を形成しました。特に、治療中心で経営難に陥りつつあった歯科医に対し、「定期検診で虫歯を防ぐ」という新しいビジネスモデルを提示し、強力なパートナーとしました。

ステージ3:解決行動(家庭・学校への導入)

 具体的な解決策として、「食後にガムを噛む」という行動を提案しました。信頼できる歯科医からの推奨に加え、学校給食後の導入や、「菌は母子感染する」という事実の啓発を通じて、親心に訴求。家庭や学校単位での導入(購入)を一気に加速させました。

ステージ4:習慣化(お菓子から健康習慣へ)

 これまで「虫歯の原因」として敬遠されがちだったガムが、「歯を守るための健康習慣」へとカテゴリーそのものの意味が転換されました。飴やタブレットなど商品形態も多様化し、日常のあらゆるシーンで摂取されるようになりました。

ステージ5:生活文化の形成(社会インフラ化)

 最終的に、予防歯科は自治体の健診や学校教育にも組み込まれました。今や「歯磨き+キシリトール、定期的な歯科検診」は当たり前の習慣となり、かつてのような「痛くなったら行く歯医者」という常識は過去のものとなりました。

生活文化の形成を目指すために重要な視点

 キシリトールの事例で重要なのは、メーカー1社だけで市場を作ったのではないということです。歯科医、学校、自治体、そして保護者という多様なステークホルダーを巻き込み、予防歯科という大きな目的のために共創する「エコシステム」を築いたからこそ、文化として定着したのです。

 単に商品を売るのではなく、社会的な課題を解決し、関わる人すべてにとってメリットのある仕組みを作る。この市場創造の考え方・プロセスが価値創生CXモデルの本質です。

【次回予告】実践のヒントを探る

次回は、いよいよ実践編です。自社の商品で、どうやって潜在的な「ジョブ」を見つけ、今回ご紹介した壮大なシナリオを描けばいいのでしょうか?4つのステップで解説します。

※本記事は制作中の書籍の情報を含みます。図版など一部が刊行時の内容と異なる可能性があります。

書籍のご紹介

本記事は、5月刊行の書籍『至高のCX 生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装』の一部を抜粋・再構成したものです。書籍では、価値創生CXモデルの概要や、実現のためのステップを詳しく解説。さらに9カテゴリのケーススタディとフレームワークを用いて、価値創生CX設計の勘所を学べます。

「低迷する既存ブランドを回復させたい」「戦略に変化が必要だが、何を変えたいかわからない」という悩みにお答えする1冊。ぜひ、ビジネスにお役立てください!

至高のCX 生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装

Amazon SEshop その他

至高のCX
生活文化の形成を見据えた「新しい顧客体験」の戦略と実装

著者:TOPPAN×インテグレート CX研究プロジェクト
発売日:2026年5月25日(月)
定価:2,420円(本体2,200円+税10%)

本書について

 モノが多すぎて売れない、似た商品ばかりでブランドが埋もれる……本書はそのような課題の解決として、新戦略「価値創生CX」を提唱するものです。戦略を5段階で整理し、実践ステップに体系化・フレームワーク化。9つの仮想事例を用意し、理論の理解と実践を可能とします。消耗戦を脱し、選ばれ続ける存在になるための1冊です。※書影は制作中のものです

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • note
この記事の著者

TOPPAN✕インテグレート CX研究プロジェクト(トッパン インテグレート シーエックスケンキュウプロジェクト)

TOPPAN株式会社と株式会社インテグレートによるCX研究プロジェクト。
広告やPR、キャンペーンなどのマーケティングコミュニケーショ ンの設計、オンライン・オフラインのシームレスな購入接点の開発、コールセンターの応対履歴・CRMのデータ分析、CDP(顧客データ基盤)の構築、商品パッケージのデザインまで、購入前から購入後...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社インテグレート

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2026/04/10 11:30 https://markezine.jp/article/detail/50579