継続的な売上を創出する秘訣は
本セッションは、さくらインターネットが導入している「Marketo Engage」を提供するアドビ システムズでマルケト事業 マーケティング部 プログラムマネージャーを務める湯原良樹氏の進行で行われた。アドビ システムズは2018年にマルケトを買収した。現在、マルケトの製品は、Adobe Marketing Cloudの製品群の一つとして提供されている。
「Marketo Engage」はグローバルで5,000社超、日本国内で2,000名超のマーケターが利用しているマーケティングオートメーションプラットフォームである。湯原氏は、「マルケトの製品設計コンセプトは、『エンゲージメント』だ」と説明した。
「Webサイトやメール、オンライン上での行動といった顧客のデジタルデータだけでなく、電話やリアルのイベント/セミナーなど、オフライン上での行動データも収集、集約して管理できます。さらに、収集した情報を基に顧客の興味・関心を捉え、メールやSMS、LINE、アプリ通知など、適切なコミュニケーションチャネルを利用し、適切なタイミングで情報を提供する機能を備えています」(湯原氏)
「Marketo Engage」のユーザーであるさくらインターネットは、創業23年のインターネットデータセンター事業者だ。1996年の創業以来、堅調に顧客数と売上を伸ばしている。2019年時点のユーザー数は45万以上で、2018年度の売上は195億円を記録した。
さくらインターネットではレンタルサーバーをはじめ、デジタルマーケティングのサービス基盤のインフラにも利用できる「さくらのVPS」、SEO対策にも貢献できる画像変換サービス「ImageFlux」などを提供している。また、IoTのプラットフォームや通信モジュール、主にディープラーニングに利用されるGPUサーバーもサービスメニューとして用意している。
オフラインも重視するさくらのビジネスプロセス
さくらインターネットのサービスは、ユーザーがオンラインから直接申し込み/契約する形式が多い。しかし、BtoB分野に関しては、オフラインでの契約も多く、営業部としては特に重視しなければならない。具体的には、セミナーやイベントなどでコンタクトした見込み客に対し、さくらインターネットの営業部が直接アプローチをするのだ。ただし、オフラインでの契約に対しては、デジタルマーケティングを実施しにくく、効果測定ができない課題があった。
同社のインサイドセールスのマネージャーを務める石井氏は「現在、さくらインターネットではリード獲得から商談化までを一貫してインサイドセールスが、オンライン申し込みの部分に関しては、Webマーケティングチームが担当しています。以前は、認知獲得からリード獲得まではマーケティング部が、ホットリードの対応と商談化は営業部が見ていました」と説明する。
現在、新規顧客獲得の結果は「Tableau」などで関係者が閲覧できるようにしている。企業の名寄せや情報付与は「FORCAS」と「uSoner」を利用している。また、ホットリードの情報や営業支援ツールには「Kintone」を活用。これらを駆使して情報共有をしているという。
石井氏は、こうしたビジネスプロセスを適用するにあたり、状況把握や施策分析の結果をすぐに閲覧できる環境の構築が重要だと指摘する。
「PDCAを回すには計画(P)と実行(D)の結果はすぐに確認できないと、次のアクションにつながりません。ステークホルダーのモチベーションを上げるためにも(可視化は)重要です」(石井氏)
また、石井氏は「良いツールを使っていても、組織間で利用しなければ意味がない」ともした。
数字が証明した「Marketo Engage」の効果
「Marketo Engage」を中心とした施策強化の結果は顕著に表れた。まず、MAツール変更による社内体制強化により、施策実施速度が4倍に向上した。また、組織改革の影響で、MQL(Marketing Qualified Lead)の平均対応完了日数が8分の1に短縮された。さらに、MQLの質が向上したことで、案件化数が施策強化前と比較し40倍に増加。データ拡充でターゲティング精度が上がり、メールCTRが6.8%向上したという。
ただし、石井氏は「良いMAツールさえ導入すれば成果が上がることはありません。施策強化の成果はツールだけではなく、営業部とマーケティング部が組織横断的に一丸となって“売るため”の施策を考えて実行し、微調整をしながら泥臭く挑み続けたことから生まれたものです」と説明する。
加えて、短期的な成果だけに固執するのではなく、中長期的にミッションを達成するための合意形成をしたこと。さらに、組織ごとのミッションを理解・共有し合ったことも要因にあるという。
「Marketo Engage」導入前には課題が山積みに
また「デジタルマーケティングを成功させるためには、オフラインの改革も必要だ」と、石井氏は指摘する。
「Marketo Engage」を導入する以前、さくらインターネットではMQLの優先順位が低く、対応率が悪いという課題を抱えていた。以前のMAツールではスコアリングして、営業にホットリードを渡してはいたものの、アプローチまで時間が掛かったり、そのまま放置され続けたりしたことがあった。
また、システム上の課題では、新たな施策のたびにカスタマイズの依頼が必要で、実装までのリードタイムが長かったり、自社のビジネスや商習慣を伝えきれず、開発期間の長さに対して実装した機能の難易度や効果が比例しなかったりすることもあったという。
さらに、組織上の課題として、営業部は短期的な売上実績を求めているため、中長期的なナーチャリングを目的としたMAは過小評価されていた。石井氏は、「そもそもMAは必要ないのではという意見もあった」と振り返る。
「しかし会社が継続的に成長していくためには、ナーチャリングが不可欠です。ナーチャリングを軽視して短期的な売上を上げたとしても、その売上の源泉となる新規顧客は年々獲得しにくくなっています。だからこそ、認知を獲得した後の継続的な発信やナーチャリングに注力し、見込み顧客がサービスを検討する際に検討の土俵に上げてもらう必要があると感じていました」(石井氏)
課題解決に必要だった営業との連携とは
先述の組織における課題を解決すべく、さくらインターネットでは組織ごとのミッションを理解するように務め、マーケティング部としてのミッションも各組織の決定権者に伝えるようにした。具体的には営業部から協力者を探し、マーケティング部が考える取り組みの意義や、短期/中長期で効率化できることを理解してもらい、営業部で共有してもらった。
また、フィードバックの重要性についても伝えた。石井氏は、「最初の失敗の原因はミスコミュニケーションにもありました。だからこそ、見込み顧客(MQL)の品質や定義などについては、都度フィードバックをもらい、組織間で協力して改善を繰り返しました」と説明する。
石井氏は、「デジタルのツールの利用用途をマーケの成果指標だけに利用せずに、組織としてツールを利用すること」が重要だと説く。さくらインターネットでは、リード獲得から受注までのプロセス管理を実現すべく、「組織的な営業ができる状態」にし、それを利用するようにしたという。
「ツール自体は、営業が利用しなくても、ツールの恩恵を受けていることで(営業の)仕事が効率化されている効果があります。営業にもMAの導入で成果が出ているということを理解してもらうことが大切です」(石井氏)
最後に石井氏は、「デジタルマーケティングの利点はすべてがデータとして測定できることですが、我々はデジタルでは完結しないオフラインの部分にも注力しています。そこでは、事前の取り決めや組織連携が不可欠であり、社内調整が重要です」と訴えた。