入札・予算調整では人が行うことは「ボタンを押す」だけに
――マーケティング業界においてもAIに対する期待感は高いですが、マーケティングにAIを活かすことでどういったことが可能になるのかは曖昧なまま論じられることも多い印象です。具体的にAIはマーケティングにどう役立つのでしょうか。
髙橋:マーケティング担当者はマーケティングAIによってビッグデータから現状の課題やアクションプランを見出せるようになりますし、マーケティングAIに実行プロセス、つまり広告の運用を任せることすら可能になります。
テクノロジーの発展により、膨大なマーケティングデータを集められるようになったものの、その活用法について悩まれている事業会社様は多いです。ビックデータをマーケティングに活かすには、人力では限界がありますが、AIの活用を進めることでデータを事業成長に貢献させることができます。
発展を続けるマーケティングAIツールのなかから、弊社がクライアントによる活用を支援しているAIプラットフォームの一つが、リスティング広告を最適化する「AdScale(アドスケール)」です。
AdScaleは、広告配信プラットフォームに蓄積される大量のローデータを分析して、入札や予算調整における課題を見つけ出し改善点をレコメンドするだけでなく、入札や予算調整の設定まですべて行います。その間でマーケティング担当者が行うことといえば、「ボタンを押すだけ」なんです。
「課題を見つけて、アクションプランを立て、実行する」というマーケティングの一気通貫した流れが、基本的にはAIですべて対応できるというところがこのサービスの大きな特徴です。
サードパーティーのAIツールにしかできないことがある
――近年では広告配信プラットフォームにもAIによる最適化機能が実装されていますが、そうしたプラットフォーム側のAIでなく、サードパーティーのAIツールを活用する意義はどういったところにあるのでしょうか。
髙橋:プラットフォーム側のAIは非常に優れたものです。しかし、その最適化機能がサポートしてくれるのは「そのプラットフォームにおいて、いかに費用対効果を上げられるか」というゴールであることが一般的です。一方で、サードパーティのツールで「広告主企業としていかに事業を拡大するか」というゴールを突き詰めると、新たな方針が見えてくることがあります。
つまり、広告主企業の事業成長というゴールに寄り添ってフラットな立場から最適化していけるのがサードパーティーのAIツールの強みだと思っています。
その良い例がAdScaleなのですが、GoogleだけではなくYahoo!も合わせて最適化できます。通常GoogleとYahoo!に割くリスティング広告予算比率が60:40などと大まかに決定されることが一般的な中で、AdScaleを活用してメディア横断的な運用最適化を行うことによって、63:37のように細かく広告予算比率をコントロールし費用対効果を最大化することができます。
このように広告運用において、プラットフォーム単位で最適化するのではなく、メディア横断的に最適な予算配分を導いてCVや獲得効率を改善できることも、サードパーティーのマーケティングAIツールの強みであると考えています。
クリエイティブワークはマーケティングAIにはできない
――広告代理店やマーケティング担当者の働き方をマーケティングAIはどう変えると思いますか。
髙橋:よく言われている「AIが人の仕事を奪う」ことに関して言えば、個人的にはピンときません。たとえば、インターネットが普及することで何かを調べるために必要な時間は短縮されかなり便利になりましたが、我々の仕事はなくなっていませんよね。
つまり、インターネットの発達と同様にAIによって我々の仕事が奪われることはなく、もたらされるのは業務効率やスピードの向上でしょう。たとえていうなら、デジタルマーケティング部に広告運用にすごく長けている方が中途採用で参画することでチームが強くなるという感じでしょうか。チームとして追うミッションへの到達時間が縮まるのは確かですが、部のミッションが抜本的に変わるとか、全てをAIが実現してくれるから仕事がなくなるというわけではないように思います。
――マーケティングAIの発達により、代理店の強みや求められることは変わるのでしょうか。
髙橋:リスティング広告に関してAIが行っていることは主に入札と予算の調整です。キーワード開発やクリエイティブ制作、定例会や電話でのコミュニケーションなど他の業務は人間がやります。むしろ、AIの活用によって工数が浮くため、人間にしかできない仕事の質が上がります。
人間がやらなければいけないこと、人間しかできないことに対して、より多くの時間を割き、専門性を磨ける環境がAIによってもたらされます。今後、AIの方が人間よりも得意な広告領域の幅はより広がるでしょう。そのため、エージェンシーサイドの課題は、クリエイティビティが求められる領域の専門性をさらに磨くことではないでしょうか。
事業会社出身だからこそできるクライアント支援
――髙橋さんは外資系の保険会社ご出身ですが事業会社での経験は、クライアントを支援する上でどのように役立っていますか。
髙橋:私自身が事業会社でマーケティング担当者だったこともあり、クライアント側のKGIに対するコミットメントを重視しています。お互いが持っている情報に違いがあるためクライアントとエージェンシーサイドの間にはどうしても認識のズレが生じがちなのですが、我々エージェンシーサイドとしては「クライアントの事業成長に貢献する」という軸をぶれさせないことが大切です。
幸いにも私は、10年以上、KGIや売上、業績を最大化させるためにインハウスマーケターとして仕事をしてきました。そのため、たとえばCVの増加やCPAの良化、CPCの高騰などといったKPIの浮き沈みが、事業会社にとって「ある意味では取るに足らない話」であることを、私は身に染みて理解しています。事業会社出身だからこそ、支援や提案の方法、課題の抽出などすべて「事業会社であるお客様にとって何が重要なのか」を逆算してコミュニケーションができる強みがあります。
具体的には、エージェンシーサイドから見たレポートや報告と、事業会社が欲しい情報は異なることも多いです。そのため、支援体制の整備などをしっかり意識してやっています。
――事業会社が欲しいレポートとはどういうものでしょうか。
髙橋:事業全体の数字からブレークダウンして、整理することが重要だと思います。エージェンシーサイドは「木を見て森を見ず」という状態に陥りがちです。数々の施策が走っている中で、施策ベースで細かな良し悪しを説明しだすと、収拾が付かなくなってしまいます。事業会社は本質的には「1,000万円の予算をかけて、1,000万円以上の売上があるか、つまり利益が出ているか」を知りたいはずです。つまり、事業全体という「森」を視野に収めて状況を整理し「木」であるところの個々の施策を改善すれば良いのです。
――アドフレックス・コミュニケーションズには髙橋さんの他にも、事業会社出身のメンバーが多いですが、事業会社出身が多い支援会社であることはクライアント支援において、どのような特色につながっているのでしょうか。
髙橋:管理職を中心に事業会社でシビアにKGIを追求してきたメンバーが多いこともあり、泥臭い支援を提案しながらクライアントの事業課題と対峙する文化が根付いています。「目先のKPIではなく、お客様のKGI、真のバリューを追う」という同じ認識で議論し合えることが弊社の特徴であり、価値だと考えています。
目先のCVではなく、事業主サイドへのビジネス拡大をコミット
――アドフレックス・コミュニケーションズが今後目指していく支援について教えてください。
髙橋:エージェンシーサイドが管理画面で確認できるのは、通常媒体上でのCVまでですが、弊社はそこで終わりにしません。基幹データから抽出したすべてのローデータを突合し、媒体上のCVと最終的なKGIが紐付いているかどうかをすべて手作業でレポーティングをするといったことも行っています。
我々は目先のCVではなく、あくまでも「事業会社のビジネス拡大」にコミットしたい。そのため、手作業の突合が大変で時間がかかろうともお客様が求めるゴールに踏み込んで一緒にお手伝いさせていただくことにこだわっています。「アドフレックスコミュニケーションズと一緒に仕事をしてよかった」と思われるような支援を、今後も心がけていきたいです。