CXへの投資有無で、LTVには1.6倍の差が
マーケティングのホットトピックとして語られる、CX(顧客体験)。グーグルやAmazonなど、グローバルのリーディングカンパニーがこぞってCXの取り組みに投資を進め、日本においても様々な企業がその重要性に目を向け始めている。
CXプラットフォーム「KARTE(カルテ)」を提供するプレイドの福島氏は、セッションの冒頭、企業がCXに取り組むべき理由を改めて解説。CX向上のために投資した企業とそうでない企業を比較すると、LTVおよび顧客満足度には1.6倍、顧客維持率には1.7倍、リピート購入率には1.9倍の差が生まれるというフォレスター・リサーチによる調査結果を紹介した。
CXの重要性が高まっている背景には、顧客と企業を取り巻く3つの変化が存在する。
・顧客のニーズや購買行動の多様化
・企業と顧客との接点増加
・情報流通の多様化
顧客のニーズが多様化し、サービスや商品による差別化も難しくなる中、企業にはただモノやサービスを送り出すのではなく、顧客の体験を考え、知り、改善に活かしていくことが求められている。
心理的・感情的な価値を上乗せし、魅力を高める
次に福島氏が説明したのは、CXがもたらす価値について。サービスや商品による「物理的・合理的な価値」に、CX向上を通じた「心理的・感情的な価値」を上乗せすることで、顧客にさらに高い価値を提供することができるようになる。
つまり同社では、「顧客の受け取り価値を高める」ことにCXの効果を見出し、すべての顧客接点において普遍的な取り組みとして実践すべきとしている。
「CXは一部のシーンにおいて向上していくものではありません。カスタマージャーニーの一連の流れにおいて、どのような体験を生み出せるか考えることが重要です」(福島氏)
では企業は、具体的にどのような方法で取り組みを進めていけば良いのだろうか。福島氏はCX向上のポイントについて、3社の事例を基に解説した。
顧客と直接つながるために:ミツカン
1つ目は、グループ全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みを進めているミツカングループの事例。同社は創業から215年を迎える老舗企業だが、2018年に「未来ビジョン宣言」という10年先に向けた3つのビジョンを掲げており、これを達成すべくデジタルでの変革を起こそうとしている。
DXを推進していく中で、「企業としてDXに意識は向いていたものの、その道に精通した人材が不足していた。また社員の多くがデジタルに対してハードルを感じていた」という課題が浮上。これに対し、以下のポイントを意識した取り組みを進めていった。
1.組織や階層の垣根を超えて、同じ目線をもつ
2.「デジタルの利便性」を体感できる仕掛けづくり
3.顧客と直接つながり、より解像度を上げた顧客理解を実践
3つ目の顧客理解の実践において、同社は重要な顧客接点となっている体験型博物館「MIZKAN MUSEUM (ミツカンミュージアム)」のWebサイトに「KARTE」を導入。
「KARTE」では、Webサイトやアプリを利用するユーザーの行動をリアルタイムに解析し、その結果に基づき適切なコミュニケーションを展開できる。同社はアンケート機能を活用して、来館経験の有無や居住地、ミュージアムを知ったきっかけなどを尋ね、どのような属性のユーザーがいるのかを細かく把握している。
たとえば施設から遠い場所に住んでいるのに来館しようとしているユーザーがいれば、その人はブランドへの信頼度が高そうだと予想できる。「『KARTE』で得られたデータで様々な仮説を検証し、お客様の理解を深めていくことができるのが大きな利点です」と福島氏は言う。
得られたデータは同サイトの改善に留まらず、施策立案や商品開発にも広く活かされているそうだ。
CX改善を机上の空論で終わらせない:三井不動産「&mall」
次に紹介されたのは、CX向上のプロセス改善に取り組む三井不動産のファッションECモール「&mall(アンドモール)」の事例だ。
同社は「商業施設がモノを買うためだけでなく、時間を過ごす場所でもあるように、サイトにもモノを買う以外に、様々な目的やニーズがあるはず」と、「&mall」内のユーザーの様々な反応を可視化し、より良い体験やサイトの新しい可能性を探りたいと考えていた。
それを叶えるプラットフォームとして「KARTE」を導入。CXの継続的な向上が机上の空論で終わらないよう、「Feedback with 3S」からなるCXM(カスタマーエクスペリエンスマネジメント)改善プロセスを繰り返し回している。
F(Feedback)、S(Share)、S(Sympathy)、S(Ship)の頭文字をとったこのサイクルでは、専用アンケートから得られた顧客の声から現状を把握し、それをチームで共有。何をやっていくのか組織内で共感(納得)した上で、施策に落とし込んでユーザーに届けていく。
同社では一連のサイクルを回しやすくするために、「KARTE」のアンケート機能を活用している。たとえば購入までの体験を聞く「買い物完了アンケート」や、商品が届いた後にサイトに来た人に対して出す「商品使用後アンケート」、新機能を実装した際にポップアップで通知し、施策に対する反応をいいね! やコメントから得ることができる「施策通知アンケート」などを用意。評価や改善に生かしている。
デジタルでもリアルでも、変わらない接客を:IDOM
事例の3つ目は、中古車販売店「ガリバー」を運営するIDOMによる、デジタルでのCXを向上させていく取り組みだ。
同社のオウンドメディア「221616.com」では、CRO(Conversion Rate Optimization)戦略として、Webサイトのボタンやテキストリンクを中心に改善を進めてきた。しかしモバイルからのアクセス急増にともない、こうした施策だけでは対応し切れない部分が増えてきた。モバイル画面はPCと比べて小さく、コミュニケーションに限界が生じてしまうためである。
そこで同社は、ユーザーに合わせた接客を強化すべく「KARTE」を導入。セグメントに合わせたバナーの出し分けから着手していった。
顧客の質問や要望に関してはbotで対応していたが、2019年4月からは「オープンチャット」と呼ばれる、会員登録は不要で不明点をすぐに質問できる機能も導入した。問い合わせ内容の振り分けはbotで行い、コミュニケーションはオープンチャットを通じて有人で行うことで、導入箇所のCVは1.55倍、全体利益は10%増と成果を上げた。
オープンチャットは、購入を強く促すよりも、サポートを強化し離脱を防ぐという方針で運用している。ユーザーの不安や疑問を先回りして解消することで、機会損失を削減していくのが狙いだ。
同時にCTA(行動喚起)も工夫を重ねている。たとえば中古車を購入しようとアプリを起動した顧客でも、トップページを閲覧している人と、自動車ローンの記事をじっくり読んでいる人とでは、置かれている状況やその時の感情は全く異なる。
そこで、チャットで声掛けするときの文言をページごとに変えたほか、「何かお困りですか?」というオープンクエスチョンではなく、「○○に困っていませんか?」などとクローズドクエスチョンで質問。動くキャラクターをアイコンに設置して、チャット利用の心理的ハードルを下げる工夫もしている。
3社の事例を解説した福島氏は、「それぞれの会社の取り組みから、CX向上のポイントが見えたはず。1社でも多くの企業に取り組んでいただきたいです」と述べ、セッションを締めくくった。