消費者は「感情が先、理由は後から考える」
はじめにニールセンシンガポールの辻本悟史氏が、「ここまできた脳波計測によるマーケティング課題の解決」と題したセッションを行った。
最初に提示された問いは、なぜニューロサイエンスをマーケットリサーチに活用すべきなのか。辻本氏はその理由を「人の意思決定は無意識に左右されている」と説明し、ある実験を紹介した。
英国のある大学の研究室で、無人のドリンク販売所を設置した。飲み物を飲んだ人には、その価格分のお金を設置してあるボックスに入れてもらう仕組みだ。数週間にわたって実験を続けたところ、週によって支払われた額に差が生じていた。
実はこの実験では、販売の仕組みを説明するためのポスターを、1週間ごとに変更していた。支払額とポスターを照らし合わせると、人の顔が描かれた時のほうが、正直に支払う学生が多かったことがわかる。しかし被験者の学生に、お金を払った/払わなかった理由を聞いたところ、ポスターのクリエイティブに関する話ではなく、別の理由を挙げていた。(Bateson M et al. Biology Letters 2: 412 -414 (2006)より)
従来、人は様々なことを吟味した上で意思決定を行うと考えられていたため、消費者を説得して、購買に結びつけることがマーケティングの目標とされていた。しかしこのような実験などから明らかになった意思決定のフローは、「知らぬ間に何かを感じ、それに基づいて意思決定をして、理由は後から考える」。しかも、顧客が話してくれた理由は、本当の理由ではない可能性もある。だからこそ、無意識にアプローチできるニューロサイエンスが役に立つ。
マーケティングは説得から“感情関与”へ
マーケティングコミュニケーションにおける新しい考え方は「説得しようとするのではなく、顧客の感情に関与すること」と、辻本氏。ニールセンではニューロサイエンスのツールを用いてクリエイティブやコンセプトの評価を行う際の主要指標として、注目、感情関与、記憶の3つを用意し、総合効果を測っているそうだ。
「私たちの脳の処理資源は限られているため、まずは注目してもらうことが重要です。しかし注目してもらったとしても、好ましい感情をもっているとは限りません。対象と近づきたいか、それとも遠ざかりたいかという感情の反応は、意思決定にとても大きな影響を与えるため、感情関与も測っています。さらに自分にとって重要な情報として記憶に残っているかどうかについては、長期記憶の賦活度合いをみています」(辻本氏)
3つの指標を用いた調査は、ブランドからインストアまでマーケティングのバリューチェーンの全域で応用できる。