DXの実現には戦略的なデータ活用が不可欠
ここ数年、企業経営におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が広く認識されるようになりました。デジタル技術の進化が生活者の行動を大きく変え、新たな競争相手の台頭やゲームチェンジを許し、既存企業はそのビジネスモデルを大きく脅かされています。多くの企業にとって、デジタルを前提に会社の仕組みをデザインし直す変革の実行は、既に待ったなしの状況であると言っていいでしょう。
実際に、電通デジタルが実施した「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション&デジタルマーケティング 2019年度調査」では、約7割の企業がDXプロジェクトを既に開始、もしくは計画を進めていると回答しました(図表1)。
とはいえ、具体的に何から着手すればよいのか、方向性を決めかねているケースも多く見られます。調査によると、データ基盤の整備と活用は、多くのDXプロジェクトで取り組まれる共通項のようです(図表2)。データプラットフォームを整備している企業は全体の約1割とみられますが、DXを複数領域で大規模に取り組む企業(以下、DX先進企業)では、4分の1を超える割合で既に自社のDMP構築を実現しています。また、この格差は年々拡大していることも踏まえると、データプラットフォームの整備がDXにとって重要なピースを構成しているといえるでしょう。
なぜなら、プラットフォームの整備状況は、企業のデータ活用に歴然とした差を生み、これがDXの進行状況に大きな違いをもたらすからです。自社でDMPを構築している企業は、業務におけるデータ活用、すなわちデジタルシフトが進んでいます。さらにその対象は、広告やCRMといった一部の業務に留まらず、広範な業務領域にわたることに着目すべきです(図表3)。
この背景には、テクノロジーの進化で多くの利便性に富むツールが普及し、利用可能になったことに加え、“データの民主化”が起きていることもあげられます。つまり、顧客の属性、購買や来店・サイトアクセスといった行動データ、ソーシャルデータ、嗜好・価値観などのデータなど、いまや多種多様なデータが外部から調達することが可能となってきており、また多くのツールベンダーでは、ツール利用の付加価値としてこれらのデータもしくはデータが生むアルゴリズムの利用が可能となることを訴求しています。
これは結果的に、専用のデータベースを用意しない企業でも、施策を打てる環境が整ってきていることを意味します。極めて便利なことのように思いますが、このようなデータ流通の加速は、一方で均質化ももたらしうることも事実です。DXの実現において、データ活用が重要であるならば、その資源の差別化ができなくなることは果たして問題とは言えないでしょうか。そして、いわゆる「プラットフォーム脅威論」の高まりは、このような問題意識をさらに表面化させています。