イノベーションを生むための新たな取り組み
下図は、事業開発の過程における取り組みについて聞いたものです。ここでも、DX先進企業は「外部パートナーとの連携」や「スタートアップやベンチャーに対する投資やM&A」「社内外のオープンイノベーションプログラム」などを推し進めており、自社内に閉じずに外部のナレッジを取り入れ、連携しイノベーションを起こすことに積極的であることが見えてきます(図表3)。また、「PoC(Proof of Concept/概念実証)」や「プロトタイプ作成環境の利用」「リーンスタートアップ」なども進めており、既存事業領域における開発とは異なる、新たな事業開発プロセスを構築しようとしていることがわかります。
イノベーションを阻むものは何か
こうした取り組みは、デジタル時代に新たな事業やサービスを開発する際にはセオリーのように言われており、多くの企業で既に取り入れられている手法です。しかし、これらを活用したとしても新たな価値を世に生み出すことはそれほど容易ではありません。その成否はどこで分かれるのでしょうか? いくつかの課題と、その解決方法を紹介します。
ケース1.目新しいアイデアを求め外部企業と連携し事業を検討したが、途中で頓挫した
このような場合、「外部企業と連携すること」そのものが目的になってしまっており、「そもそもどんな価値を顧客に提供したいのか」「どんな社会の課題を解決したいのか」が自社内、あるいは両社で論じられていない場合が多く見られます。仮に論じられていたとしても合意が曖昧であるなどの理由から、サービスを世に生み出す過程で外部企業の協力が想定よりも得られない、あるいは投資などの重大な意思決定のための経営者の判断を引き出せない、などの壁に阻まれ途中で頓挫したといった話もよく聞きます。
この解決のためには、
・「どんな価値を顧客や社会に提供したいのか」を自社でまず構想し、連携を先に決めない
・自社の存在意義は何か? という「Purpose(パーパス)」を設定し、それに共鳴する企業と連携する
ことが大切になってきます。一見時間がかかりそうですが、自社のもつ資産に閉じない「顧客にとっての価値」を提供するためにアライアンスが必須となるこの時代においては、Purposeの確立や発信が事業開発においてより重要な要素になるでしょう。
ケース2.複数の事業案を検討していたが、上申を繰り返すうちに目ぼしい案がなくなった
新規事業を成功させるためには「多産多死」が必要と言われますが、サービスを世に出す前に自社内で死んでしまっているケースも多く見られます。何をもってアイデアレベルから次の育成フェーズに移すのか、いつまでにどんな事業をいくつ生み出したいのか(=KGIの設定)、その実現のためにはKPIや評価基準をどう持つのかなど、従来のナレッジが存在する事業開発プロセスとはまったく異なる基準づくりとそれの組織的な共有が必要になるためです。
これを解決するためには、
・既存事業のアップデート領域、あるいはディスラプティブな新規事業領域など複数領域を設定し、それぞれにおいて多数の事業案をポートフォリオで管理する
・まずは仮説でも良いのでKPI設計も同時に行い、戦略的な事業育成プロセスを組織全体で握りながら進める
・KGIを収益のみに置くのではなく、本質的に提供したい価値=顧客にとっての価値提供と設定する
ことが重要になるでしょう。
ケース3.調査を繰り返し検討を重ねていたら、似たサービスが他社から出てしまった
調査を重ね、顧客ニーズをとらまえながらサービスを精緻化していくのはあるべき検討手法です。ですが、競争環境が熾烈なデジタル時代においては如何にスピード感を持ってPDCAを回せるかが成否を分けます。その際に、自社の顧客基盤を味方につけながら共創を行い、β版をブラッシュアップしていくのは、顧客基盤をもつ大企業の強みを活かしたアプローチといえます。
すなわち、
・クラウドファンディングや地方自治体などの実証実験場を複数持っておく
・既存事業のデジタル顧客基盤を活用し、サービスのβ版から共創できるプラットフォームを構築する
ことが重要になるでしょう。
サービスの早期から、少なくても熱狂的な顧客を大切にし、ある種“仲間”的にサービスを育成する「顧客の仲間化」が今後の事業開発ではますます重要となるのではないでしょうか。