チケット売上だけでなく、もたらされた様々な好影響
河原井:チケットの売上に関しては、最終的に99.3%の販売率となりました。15年大会と比較しても、非常に良い結果となっています。大会開幕時が約95%の販売率だったので、大会期間中の盛り上げで約5%、販売数にすると約9万枚(チケット総販売数184万枚の約5%)のチケット販売に貢献したと考えています。

平地:大会期間中の1ヵ月半で9万枚売ったのはすごいですね。その他にSNSによる好影響はありますか。
河原井:他だと、テレビの視聴率ですね。2019年の年間最高視聴率番組が「ラグビーワールドカップ2019・日本×南アフリカ」(NHK総合、関東地区、ビデオリサーチ調べ)だったんです。我々もSNSきっかけでテレビを見てもらえるよう、現在放送しているテレビ局をメンション、タグ付けした投稿をして、今どの放送局で流れているかをお知らせするようにしていました。
平地:それは非常に大事だと思います。NBAなど海外のプロスポーツを見ても、特にTwitterではテレビに誘導する動きが強いですね。速報性が高いので、試合の途中経過を載せながら、続きはテレビで見られますというツイートをしています。SNSで話題が作れるとテレビの放映権も高くなると言われていますが、そういった細かな意識が重要ですね。
ちなみに、ユニフォームやグッズなどのマーチャンダイジングにも影響があったんじゃないですか。
河原井:日本代表の大会モデルのユニフォームはすぐに完売しましたし、その他のグッズの売れ行きも非常に良かったです。
選手はアンバサダーである
平地:今回のSNS活用は、体制作りや大会前からトライ&エラーしていた点など、勝因がたくさんあったと思いますが、ここまで話せていない点で、今回のSNS活用における勝因はどこにありますか。
河原井:クロスメディアでの展開も勝因の1つだと思っています。マスメディアが大会公式SNSの投稿を拾ってニュースにしてくれるサイクルを作ることを意識していたんですが、それが上手くはまったと思っています。
大手新聞社の記者の方にも「実際記事を書くときに大会公式SNSの投稿は参考にしていた」と言われたのですが、我々が正しい情報を素早く出し続けたことが信頼につながったのだと思います。
平地:SNSが公式情報としてマスメディアにも拡散していったんですね。ちなみに、今大会では各国代表選手のSNS投稿にも注目が集まったと思うんですが、投稿を促していたりしたんでしょうか。
河原井:もちろん、強制ではないですがお願いしていました。選手はみんなアンバサダーだと思っていて、デジタル上での発信も強めてほしい旨をラグビーワールドカップの大会参加規程に盛り込んでいました。SNSの使い方とかも詳細に書いていたので、選手が投稿する上で役に立った部分があるかもしれません。
平地:非常に重要ですね。プロスポーツチームや協会がSNS活用に関するルールをまとめて投稿を促すみたいな使い方もできると思いますし。スポーツ運営側が、SNSの良い面・悪い面をきちんと伝えた上でアンバサダーになってもらう、これは取り入れたいです。
スポーツ×SNSは場所を超えて楽しんでもらえる
平地:河原井さんをはじめとしたデジタルチームはこれだけの好影響を及ぼしたわけですが、閉幕もしたのでもうそろそろ解散になるのでしょうか。
河原井:そうですね。私個人としては、2015年9月から4年4ヵ月にわたって勤めてきましたが、現在は契約も終了して、無職なので絶賛転職活動中です(笑)。
平地:では、ぜひ転職活動中の河原井さんに、ご自身のキャリア含めた今後の展望を教えてください。
河原井:ラグビーはもちろんですが、日本のスポーツ界はデジタルを活用すれば、もっとおもしろくできます。それはアスリート、チーム、協会、リーグにかかわらずすべての関係者においてです。
私は群馬県の中でも田舎なところで小さい頃からラグビーをしていました。その当時のラグビーワールドカップは衛星放送が中心で、すごいプレーを見ても周りに話せる人がいなくて、非常にさみしかったんです。
それが今は、地上波でラグビーワールドカップが放送されて、TwitterなどのSNSを開けばリアルタイムで「今のプレー、すごかったよね」と感動や熱狂を共有できる。これはすごい幸せなことであり、スポーツ界にとってはチャンスです。
まだ広く認知されていないスポーツでも、SNSなどのデジタルを駆使すれば場所を超えて楽しんでもらえるポテンシャルを持っています。2020年には大きなスポーツイベントも控えているので、ぜひこれからSNS活用に取り組むべきですし、私も何らかの形で携われたらいいなと思っています。
平地:前回のSNS対談(詳細はこちら)でもそうですが、マイナースポーツはSNS活用に注力すべきだと思うんですよね、本当に。ラグビーも開幕前はそこまで大きく盛り上がっていたわけではなかったのに、河原井さんなどの尽力あったからこそ、ここまで上手くいったと思います。2020年の巨大スポーツイベントに合わせて様々なスポーツがきちんと認知を取って盛り上がるよう、私と河原井さんも含め頑張っていきたいですね。