データ活用に不可欠なAIを使いこなす力が必要
有園:この対談、打診時には想像もしていなかったのですが、あっという間に世の中が大変な状況になり、今回はZoomで実施しています(※取材は4月上旬)。さて、野口さんが昨年末に上梓された書籍『文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要』(東洋経済新報社)、とてもいい本でしたし、今の世の中に必要な本だと思いました。野口さんはもともと20年ほどイー・エージェンシーに在籍されて、この数年はAI活用にかなり注力されていたんですよね?
野口:そうですね、様々なAI関連プロジェクトを進めてきました。たとえば、統合データを活用したディープラーニングによる予測モデルの開発、とか。現職のZOZOテクノロジーズにも、AI活用推進をミッションに参画しています。ただ、私自身は文系出身で、プログラムをバリバリ書けるとかではありません。
有園:書籍には、AIはこれからさらに一般化していくから、AIをビジネスで使いこなせる人材になるべき、というメッセージが根底にありますよね。これは私も強く共感しました。
ずっとアドテク領域で仕事をしてきた私の視点だと、残念ながら今、「アドテクって正直うざいよね」みたいな風潮が出てきています。それはリタゲでずっとユーザーを追いかけるような、UXを無視した態度に要因の一端があって、今後改めてUXを大事にしていく必要性が生まれていると思っていて。で、UX追求にはデータ活用が欠かせないし、それは今やAIが担うことだから、AIを使いこなす力をつけるのはすごく重要だと思っていたんです。
ビジネスサイドにAI人材が増えないと社会実装されない
野口:なるほど、その課題意識はよくわかります。
有園:なので、“文系AI人材”という観点はとても大切だな、と。そうなるための具体策やその仕事の種類はぜひ書籍を手に取ってもらうとして、まだ自分がAIを学ぶことにピンときていない文系のビジネスサイドの方、その危機感がない方にも興味を持ってほしいと思って、今回お声かけしました。書籍は、野口さん自身が学んできた過程がまとめられていますよね。早速ですが、本にしようと思った動機をうかがえますか?
野口:もともと、大学時代にも似たような分野には少し触れていたんです。政策科学部という学部で「ゲーム理論」という手法を使って研究していて、機械に大量のデータを入れてシミュレーションさせたりしていたんです。ただ、改めて事業としてAIに向き合うようになった時にはそれから15年も経っていたので、ほぼゼロの知識量から必要なものを整理して蓄積していきました。そこでけっこう試行錯誤があったので、この経験を共有できれば、これから学ぶ文系の方が私よりスムーズに学べるだろうとまず考えました。
有園:野口さん自身は、ほぼゼロベースから実際にビジネスにAIを使えるようになるまで、どのくらいかかったんですか?
野口:およそ2~3年ですかね。私が本腰を入れて勉強を始めたころは、文系向けの書籍や資料的なものがほとんどなかったんです。
勉強しながら、ビジネスの現場や社会においてAIが役立つだろうと思う場面も増えてきて、これはネットと同じくらいのレベルでAIも普及するし、使えるようになることは必須だと思うようになりました。グローバルでもそういう流れになる中、日本が遅れていくのは避けたいけれど、理系の方々だけがAI知識を得ても、ビジネスサイドにAI人材が増えないと日本全体では社会実装されません。そういった課題感も、出版の背景にありました。