本記事は2017年12月発売『デジタル時代の基礎知識『マーケティング』 「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール』の「Chapter02 マーケティングの基本的な流れ」から抜粋したものです。掲載にあたり一部を編集しています。
なお、5月29日(金)には『デジタル時代の基礎知識『BtoBマーケティング』 「潜在リード」から効率的に売上をつくる新しいルール』が発売となります。
01 マーケティングの5つのステップ
マーケティングは、「(1)環境分析→(2)戦略立案→(3)施策立案→(4)施策実行→(5)分析・改善」という5つのステップで行う(図1)。
まずは(1)の「環境分析」だ。様々な分析手法があるが、「3C分析」と「SWOT分析」が、誰もが使いやすいのでお勧めだ。「現在」から「未来」にわたり、市場や顧客、自社や競合がどのような状況にあるのかを「見える化」するのが最初のステップである。
次に(2)の「戦略立案」。世の中や市場の状況が把握できたら、今度はその情報をもとに、「戦略」に落とし込んでいく。最初は簡易な「STP」(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の手法を用い、どの顧客ターゲットに、どんな商品・サービスを知ってもらい、買ってもらうのか、その戦略を絞り込んでいこう。
戦略を立てたら、次は(3)の「施策立案」だ。誰が、いつ、どんなアクションをするのか。大きくは4P(プロダクト、プライス、プレイス、プロモーション)の枠にC(顧客視点)を加えて整理しながら、スケジュールとプロジェクト体制図、課題管理表に落とし込まなくてはならない。
施策を立案できたら、いよいよ(4)の「施策実行」だ。戦略立案で目的を明確にし、施策立案でプランニングされたアクションを、プロジェクト関係者がそれぞれ実行していく。なお、日々の結果は、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどを用い、関係者全員に「見える化」することも大切だ。
施策を実施したら、(5)の「分析・改善」を行おう。「施策を実行して終わり」ではない。もともとの目的をどこまで達成できたのか、開始前と開始後のギャップがどれだけ埋まったのかを数字や資料で明確にすべきだ。その結果、その施策を「継続する」「見直す」「打ち切る」といった判断を下し、また次のマーケティング仮説に向かう。これが、マーケティングの基本的な流れである。
このように説明すると難しそうに感じるかもしれないが、決してそんなことはない。ここからは、それぞれのステップについて詳細に見ていくことにしよう。
02 3C分析で世の中を「見える化」する
「世の中」と言うと何を指すのか難しいが、わかりやすく「3C」というフレームワークで整理するのが3C分析だ。3つのC、つまり「市場・顧客(Customer)」「自社(Company)」「競合(Competitor)」というかたまりで世の中を区分する手法である(図2)。
(1)市場・顧客
まずは、自社の事業において、どのような市場・顧客がいるのか、またその市場・顧客の価値観やニーズはどのように変化しているのか、数値や時系列で把握していく。見るべき項目としては、地域(居住、勤務・通学先)、年齢、性別、職業、年収、学歴、家族構成(世帯)などの統計項目から、趣味、趣向のようなパーソナルなライフスタイルの情報まで含んだほうがよい。
競合
同業他社、もしくは異業種からの進出企業なども含めて、自社と競合する事業を把握する。財務諸表や市場シェアとともに、各社の方針や施策まで整理する。可能なら、その施策がどれだけ市場・顧客に響いているのかまでつかんでおくとよい。
自社
自社が持つ「ヒト、モノ、カネ、情報」の4つの要素で整理するとわかりやすい。また、市場・顧客のニーズや、競合との競争など、自社が市場においてどれだけ評価されているのか、市場シェアやリサーチ情報などで把握しよう。
このように、3つの「C」で考えることで、自社を取り巻く環境を把握しやすくなるのである。
03 SWOT分析で自社の強み、弱みを知る
3C分析の他に、世の中を把握するもう1つの切り口として覚えてほしいのが「SWOT分析」だ。SWOT分析とは、自社内部から見た「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」、外部における「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」を客観的に把握し、どのように市場で戦っていくかを導き出すものだ(図3)。
内部の「強み」「弱み」
今後の成長や未来を考えたときに、自社の資源(人材、生産設備、店舗網、技術開発力、資金、会員組織など)の「強み、弱み」を書き出してみよう。現在の強みは将来への取り組みのボトルネックになることもあるし、逆に弱みが、投資やチャレンジのきっかけになることもある。これは、3Cの「自社(Company)」を、さらに時系列で見直す作業でもある。
外部の「機会」「脅威」
今後の市場の中で、人口分布や消費者の傾向、世の中の技術環境などの変化によって、「チャンスが生まれるもの」「脅威となるもの」を書き出してみる。外部の要因は自分たちだけではなかなか変えられないものだが、事前に整理・把握しておくことで、対応案を準備したり、リスク対応を正確に行ったりすること可能になる。これは、3Cの「競合(Competitor)」「市場・顧客(Customer)」の時系列の変化に注目する作業でもある。
3C分析の「市場・顧客」「競合」「自社」の把握に加え、このSWOT分析を行うことで、将来の市場やニーズについての「課題とリスク」が明確になり、次の戦略に落とし込みやすくなるのである。
04 STPで「ギャップ」を埋める戦略を立てる
環境分析によって世の中の変化を理解し、自分たちの立ち位置を把握したら、いよいよマーケティングのコア部分となる「戦略」を立案していく。環境分析を行うと、「なりたい姿(目的・目標)」と「現状の姿」とのギャップが洗い出されるはずだ。
そのギャップをどのように埋め、なりたい姿にたどりつくのか、そのための作戦が「戦略」である。
ここでは誰もが使いやすいSTP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の考え方で整理してみよう(図4)。
セグメンテーション(Segmentation)
まず、市場・顧客をいくつかの「かたまり」に分けていく。つまり「市場の細分化」だ。統計項目的な分け方もあるが、趣味嗜好やライフスタイルのような、「心理的な部分」で分けるほうが、戦略に落とし込みやすい。
ターゲティング(Targeting)
セグメンテーションで分けた「かたまり」ごとに、自分たちのターゲットとなりそうな人がどれだけいるのかを整理・把握する。その際には「現在の状況」だけではなく、SWOT分析などでわかった「将来の可能性・成長性」も含めて考えるとよい。費用対効果を考え、有望な顧客ターゲットの多い「特定のセグメント」に絞り込んで集中することもあれば、広く「複数のセグメント」を対象に、「各セグメント内の有望な顧客ターゲット」を狙うこともあるだろう。
ポジショニング(Positioning)
最後に、顧客ターゲットが「自分たちの商品・サービス」を選んでくれるよう、市場での立ち位置を明確にする。例えば「専門性の高いハイエンド商品」という立ち位置に絞ったり、逆に「普及型の安価な商品」という立ち位置にすることもあるだろう。
立ち位置の取り方によって、競合と差別化したり、特定の顧客ターゲットを取り込んだりすることが可能になる。このときのポイントは、「顧客はどのような判断基準で購入に至るのか」という仮説をしっかりと立てることだ。価格や機能面でなく、「心理面」にもできる限り注目しよう。
なお、「STP」の3つの項目は密接につながっているので、個別に見るのではなく、つながりを考えながら同時に整理するのがお勧めだ。
戦略立案時の注意点
戦略が固まったら、いよいよ具体的な戦術(施策)に落とし込むことになるが、ここで注意してほしいことがある。
それは、企業のどの階層においても、「戦略」と「戦術(施策)」が常にセットで説明されなければならないということだ。
全国に支社や事業部を持つ企業であれば、「経営層の戦略と戦術」「本社事業部の戦略と戦術」「支社・地域事業部の戦略と戦術」のように、階層ごとに戦略と戦術を整えなければならない。
あるいは、「営業部」「販促部」「広告宣伝部」のようにヨコ通しでマーケティング施策を実施するときも同様だ。全体の「なりたい姿(目的・目標)」を見据え、各チーム間でそれぞれ整合性を取りながら、戦略・戦術を作ることが重要である(図5)。
もし共通のなりたい姿(目的・目標)に対して、各階層に戦略と戦術がなければ、達成することは難しくなる。なぜなら、立案・実行フェイズにおいては、常に状況が変化するからだ。
その変化に対して、迅速に、かつ臨機応変に対応するためには、各々の階層・部門が、その階層に準じた戦略と戦術を考えておく必要があるのだ。「上の人は戦略立案だけ」「現場の人は戦術(施策)だけ」という考え方では、スピード感を増す今の世の中には対応できないのである。
05 「4P」+「4C」で顧客視点に立った施策を立てる
「顧客視点」の製品・価格・流通・販促
市場環境を分析し、戦略を立てたら、その戦略を実現するための施策を考える必要がある。ぜひ取り入れてほしいのが「4P」と「4C」というフレームワークを掛け合わせて考えることだ(図6)。
4Pとは「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「販促(Promotion)」のことで、「企業視点」でマーケティング施策を考えるフレームワークである。
一方4Cは、「顧客にとっての価値(Customer Value)」「顧客が負担するコスト(Cost)」「顧客の利便性(Convenience)」「顧客とのコミュニケーション(Communication)」のことで、こちらは「顧客視点」に立って施策を考えるフレームワークである。
もともと企業視点だった4つの「P」に、顧客視点である4つの「C」を足すことで、「その製品は顧客のどんな課題を解決するか?」「顧客ニーズを満たしたときの適正価格は?」「買いたいと思ったときに顧客が選びやすい販売チャネルは?」「顧客ターゲットとコミュニケーションできるプロモーションは?」というように、4Pにおける「製品・価格・流通・販促」の施策を顧客視点で考えることができるようになる(図7)。
従来のようなプロダクトアウトの企業の視点ではなく顧客の視点に寄り添ったとき、どんな施策が顧客満足度の向上につながるのか?この4つの視点で整理しながら、社内外の組織体制作りや課題管理表、スケジュール表などに落とし込んでいくことが大切だ。
06 施策を実行したら「見える化」する
環境分析、戦略立案さらに具体的な施策立案まで落とし込んだら、あとはその施策を実行に移すだけである。
施策を実行したら、期間を決めて定期的に検証することが大切だ。正しく検証するためには、施策の結果を「見える化」し、関係者の誰もが同じ結果を確認できるようにしておくことが重要となる。
単品の販促施策であれば、「3日目、5日目、7日目、10日目」のように細かく追うのもよいだろう。複数の販促施策を長期にわたって行っているキャンペーンであれば、「10日目、15日目、30日目、45日目」のように、少し長めの期間で見るのもよい。この検証期間も事前に決めておくべきだ。
情報を共有してPDCAを回そう
このように、「見える化」するにあたっては、どの項目をどのような区分で扱うかも事前に決めておくべきだ。
「項目」とは、「売上」「利益」「販売数」「客数」「予約数」「問い合わせ件数」「ネット閲覧数」などのこと。一方「区分」とは、「日別・週別」のような期間に加え、「県別・地域別」「部門別・ジャンル別」「チャネル別」などの分類の仕方のことだ。
このように項目や区分を決定したら、EXCELなどの決まったフォーマットで帳票を準備し、定期的(毎日・毎週)にメール添付で関係者に共有するとよいだろう(図8)。
また、多少高額になるが、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールと呼ばれる、各帳票の元データをネット上に更新・保管し、様々な切り口で分析できるソフトウェアもある。
施策結果の良し悪しにかかわらず、一定のタイミングで関係者全員にデータを共有し続けることが大切だ。
こうして日々の施策の結果を「見える化」したら、関係者が自分なりの仮説検証を行い、会議の場などの場を設けてその意見を集約する。改善すべき点が定まったら、次の施策に反映するわけだ。
施策の実施後はもちろん、実施中も、この「情報共有」を「PDCA」を意識して行うことが重要である。
07 継続・見直し・打ち切りの意思決定を行う
施策の実施後は、必ず開始前のプランに基づいて「検証作業」を行い、その後の意思決定をしなければならない。
その結論は「(1)継続」「(2)見直して継続」「(3)打ち切り」の3つに分けられる。
施策結果が好調な場合は「(1)継続」を決定することになる。
一方、検証の結果、改善点が見つかった場合は、「(2)見直して継続」を選択する。この場合、軽微な改善はすぐに行い、大きな改善は改善タイミングを前もって決めてから改善するのがポイントだ。
思ったような効果が出ず、この先の見込みも薄いときは、「(3)打ち切り」を決定する。施策を打ち切る場合は、販売チャネル上での混乱がないように、準備と情報共有が必要だ。そのうえで、「止める日付」を決定しよう。
施策の実施中も日々数値を見える化し、共有しておけば、各担当・各部署が、それぞれ(1)~(3)の意見とその根拠を持ち合わせているはずだ。その意見をぶつけ合い、最終的な意思決定を行おう。
「体裁」や「体面」にこだわるのは絶対NG!
このとき大切なのは、市場・顧客は常に変化していくので、「計画通り実施しても、全てがうまくいくわけではない」ということを「前提」として分析し、その後の対応を議論することだ。部署のプライドや、「予算を取ったからには成果を出さないと」という組織評価を意識してしまうと、顧客の立場に立ったマーケティングができなくなってしまうからだ(図9)。
たとえ(3)の打ち切りになったとしても、前もって立てた仮説に対して、数値や事象を正確に追って分析し、判断したのであれば、それはその後の活動のための貴重な経験値になる。
こうして人や企業、組織が学んで成長することは、時には戦略と施策が成功すること以上に重要なことだ。だからこそ、施策後の評価をしっかり行うことが大切になるのだ。