一対一で顧客と向き合う「カスタマーサクセス」は限界に
一方で、ハイタッチ型の「おもてなし」的なカスタマーサクセスに限界を感じているケースも出てきていると感じます。
一対一で顧客と向き合うハイタッチ型のカスタマーサクセスはどうしても労働集約的なモデルになりやすく、顧客数の増加とともに「リソースの充当が難しくなる」「コストに見合わなくなる」などの課題が出てきます。
そこで現在は、一対一ではない、スケールできる手法で顧客の成功を支援する取り組みに関心が集まりつつあります。テックタッチ、つまり直接顧客と話すのではなく、メールやウェビナー、オンラインコミュニティなどのチャネルを使ってカスタマーを支援する手法に関心が高まっているのは、このような背景から来ているものでしょう。
また同時に、プロダクトがある程度のマーケットシェアを獲得していくと、新規獲得よりも既存顧客からの収入のほうがボリュームとして大きくなるということが起きてきます。サブスクリプション・ビジネスでは、売上の優に半分以上(50~70%とも70~80%とも言われます)が既存顧客からの売上であると言われています。新規顧客を獲得するよりも既存顧客からの売上を増やすほうが効率が良いため、リソースの配分をより既存顧客に移す必要が出てくるわけです。
そして、このような背景から登場したのが、カスタマーサクセスをスケールさせ、売上拡大につなげる「カスタマーマーケティング」という考え方です。
既存の顧客にもマーケティング施策を実施する
「カスタマーマーケティング」という言葉は、2018年にSaaStrのFounderであるJason Lemkin氏が提唱し始めたもので、「購入後の顧客を対象としたマーケティング」であると言われています。私は、SUCCESS LABの記事で紹介されていたことをきっかけにこの言葉を知り、当時大変な衝撃を受けました。Jason Lemkin氏の記事では、イベントやウェビナー、キャンペーンなどの具体的なカスタマーマーケティング施策のフレームワークが整理されるとともに、リニューアルやアップセルによる売上の10%をカスタマーマーケティングに投資するべきだと述べられています。
従来のマーケティングが潜在顧客に対してデマンドを喚起し、商談化・新規顧客獲得をゴールに様々な施策を展開するのと同様に、既存の顧客に対してもマーケティング施策を実施し、リードを管理してアップセルやクロスセルの機会を創出して既存顧客からの売上拡大につなげよう、というのがカスタマーマーケティングの考え方です。
いわば、これまでのセールスサイクルにおいて、マーケティング/セールスの体制で新規顧客・新規案件を獲得することを目指していたように、ポスト・セールスのサイクルにもカスタマーマーケティング/CSM(カスタマーサクセスマネージャー)という役割を置いて、既存顧客からの売り上げ拡大を目指しましょうということです。

ですが、私は本質的には「カスタマーマーケティングの対象は既存顧客に留まるものではない」と考えています。「カスタマーサクセス」は会社における一部の機能ではなく会社の経営上優先すべき課題として全社が取り組むべきものですが、同様に、潜在顧客も含めたマーケティング全体のゴールに「カスタマーサクセス」を置き、マーケティングの方法でカスタマーサクセスを実現すること。つまり、既存のマーケティング機能そのものを「カスタマーサクセス」オリエンティッドなものにアップデートすることが、カスタマーマーケティングの本質であると考えています。
ゆえに、カスタマーマーケティングという言葉は本来はカスタマー“サクセス”マーケティングであるべきだと思っています。