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MarkeZine Day 2020 Autumn(AD)

コロナ禍で増えるモバイル・アプリ利用 マーケティングに効果的に活用する3つのポイントとは?

 新型コロナウイルスの影響から、生活者のライフスタイルや消費行動が大きく変化した2020年。では、モバイルやアプリの利用にはどのような変化が起きたのだろうか? 9月2日に開催された「MarkeZine Day 2020 Autumn」に、モバイルアプリプラットフォーム「MGRe(メグリ)」を提供するランチェスター代表の田代健太郎氏と、App Annie日本法人の代表取締役を経て、この7月にWell Directionを設立したばかりの向井俊介氏が登壇。コロナ禍において生活者のモバイル・アプリ利用がどう変わったのか、企業は今後どんなマーケティングを行っていくべきかが語られた。

コロナ禍でアプリダウンロード数25%増、利用時間も伸長

 新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染拡大の影響を受け、在宅ワークやステイホームが推奨されるなど、生活者のライフスタイルや消費行動に変化が起きている。では、モバイル・アプリの利用にはどのような変化が起きているのだろうか。App Annie Japanが公開した「2020年上半期 モバイル市場へのコロナウイルスの影響と消費者行動の変化」によると、2020年上半期は2019年下半期と比べ、アプリのダウンロード数が25%増に、モバイル広告が70%増という結果が出ている。また2020年4月1日のモバイル利用時間平均は4.3時間。これは、向井氏によると2019年の平均3時間から大幅に伸びているという。

当日の投影資料より(以下、同)
当日の投影資料より(以下、同)

 「モバイルの利用時間が大幅に伸びたことは、スマホをチャネルとして生活者とコミュニケーションを取りたい企業にとっては追い風とも取れます。一方で、多くの企業がこの領域に乗り出してきた結果として伸びたという観点で考えると、競争が激化しているとも捉えられます。企業は競争力をさらに上げていかないと、なかなか生活者に選んでもらえないという状況がコロナ禍でより顕著になったように思います」(向井氏)

 向井氏によると、日本の生活者がスマホで課金する総額は年間1兆3,000億円にもなるという。これは主にゲーム、動画、コミック、投げ銭に対するもので、企業の広告収益やECの売り上げは含まれない。特に緊急事態宣言が発令された今年4月には、収益上位10社の合計だけでも1ヵ月で300億円を売り上げたという。もちろん、ステイホームで家の中で楽しめるコンテンツの需要が高まった影響が大きいだろう。

 また在宅ワークとなり、自宅で食事をする機会が増えたことによって料理のマーケットが盛り上がるなど、好機となった業界もある。今が攻め時だと考えた企業により、たとえば食料品メーカーの広告投下量は増えているという。

 「企業からすると、スマホを通して生活者との接点が増えたということになりますし、生活者からするとスマホで見るものの選択肢が増えたということになります。読まれるメディアが増えたことにより、広告の投下量が全体的に押し上がったのだと思います」(向井氏)

Well Direction, Inc. CEO 向井俊介氏
Well Direction, Inc. CEO 向井俊介氏

アプリ利用は一時的に減ったものの、EC売上は増加

 生活者のモバイル利用時間が増えていることが見えてきた。では、コロナ禍における「アプリ活用」にはどのような変化があったのだろうか。

 ランチェスターが提供するモバイルアプリプラットフォーム「MGRe(メグリ)」は、アプリの導入から運用、施策改善までワンストップでアプリマーケティングを支援するプラットフォームだ。既存アプリのリプレイスから新規導入まで、リテール業界での実績が多いことが特徴である。この「MGRe」利用企業における、今年3月と4月の顧客行動を比較すると、会員証ページのアクセスやMAU(月間利用者数)が減ったものの、ECへのアクセスは55%も増加したという。

 「我々のクライアント企業は店舗を持つ小売店が多いです。緊急事態宣言が発令されて顧客が店舗へ行けなくなると、アプリの会員証を開く理由がなくなるため、最大54%のアクセス減となりました。ただ、購買行動が止まるわけではないので、アプリ内でのECのアクセスや売り上げは増えた企業が多かったです」(田代氏)

 緊急事態宣言発令時はアプリ利用者は20%減となったが、翌5月からは回復傾向となり、6月以降はコロナ禍以前よりも増加する結果になった。ECでの売上も伸びていったという。

 「アプリの中にある機能は、会員証だけではありません。以前よりいろいろな仕組みを備え施策を行ってきた企業は、コロナ禍の中でもMGReを活用して改善を繰り返し、アプリの中でできることをどんどんアップデートしていきました」(田代氏)

 では、コロナ禍以前より売り上げを増やした企業はどのような施策を行ってきたのだろうか。次から事例とともに紹介していく。

有益なコンテンツで顧客の心を掴む

 MGReを活用してアプリを改善し、ECでの売り上げを伸ばしていった企業の一つが、アパレルメーカーの「オンワードホールディングス」だ。

 「オンワードは店舗を多数閉店というニュースがありましたが、コロナがあってもなくても、アパレル業界は店舗からECへと移行していく流れになったのではないかと思います。緊急事態宣言の発令時にはアプリの利用や売り上げも一旦落ちましたが、その後ECのアクセスが非常に増え、売り上げも伸びています」(田代氏)

株式会社ランチェスター 代表取締役 田代健太郎氏
株式会社ランチェスター 代表取締役 田代健太郎氏

 オンワードが力を入れたのは、コーデ(コーディネート)を紹介するコンテンツだ。店舗スタッフやブランド社員によるコーデを発信していくことで、顧客がオンラインでも自分の好みに合うか、体型に合いそうかといった判断をする手助けとなった。

 とはいえ、アパレル企業がコーデを紹介するコンテンツを提供するのはよくあることだ。その中でもオンワードが成果を上げているのは、なぜなのだろうか。

 「売り上げを伸ばしている企業のポイントは、ブランディングやキャンペーンを社内できちんと考え、短期間でうまく発信できている点ではないかと思います。様々な企業のアプリのデータを見ていて、伸びるポイントでは何をやっていたのかチェックすると、そうしたオリジナルの企画をプッシュ通知で知らせています。特にオンワードは生え抜きの方が多いので、組織全体で一丸となって、様々なアイデアを取り入れながらデジタル活用をしています。最初はコーデの投稿も少なかったのですが、組織的に評価やKPIなども含め、これが自分たちの仕事であるという意識をうまく醸成していきました」(田代氏)

アプリはロイヤリティを高めるコミュニケーションの場へ

 MGReを活用したもう一つの事例として、「東急ハンズ」がある。こちらも「ヒントマガジン」という読み物コンテンツでアクセスを伸ばしていった。

 「単に買い物をするとポイントが貯まったり、セールのお知らせが届いたりというだけのアプリでは、販促ツールにしかなりません。顧客にとって有益なコンテンツを用意し、アプリでコミュニケーションを取り、データを見ながらコンテンツをより良くしていくとコロナ禍でもアクセスが増えていきます」(田代氏)

 また、東急ハンズではアプリを通してライブコマースにも取り組んでいる。ライブコマースでは顧客が見逃してしまわないよう告知をすることが大事になる。そのために、決まった曜日・時間に定期的に開催することで常連客がつくようにするという工夫をしている企業もある。

 コスメブランド「THREE」の事例でもECでの売り上げ、アクセス数ともにコロナ禍以前以上に伸びている。

 「THREEは非常にエンゲージメントの高い顧客が多いので、そうした会員限定でオンラインのワークショップをやるなど、非常に顧客を大事にしています。非常に細かくセグメントを作ってコミュニケーションを取っているので、数字がボンボン跳ね上がるというよりは、エンゲージメントがどんどん上がっていく。そうするとアプリの滞在も長くなり、コンテンツの閲覧数もどんどん増えていきます」(田代氏)

 ここまで紹介した3つの事例のポイントをまとめると、売上やアクセスが伸びている企業は、(1)顧客に有益なコンテンツを持ち、(2)それをキャンペーンやプッシュ通知をうまく組み合わせて大きく集客し、(3)アクセスしてきた顧客が離脱しないような仕掛けをしているところだと言える。

アフターコロナのマーケティングはどうすれば良いのか

 最後に、コロナ禍・アフターコロナにはどのようなマーケティング活動をしていくべきかが語られた。

 「実は特別なことをする必要はありません。先述した事例も、コロナのために特別な仕組みを作ったというわけではなく、平時からデータを貯めて、様々なPDCAを回すことで顧客理解に努めてきた企業です。コロナ以前からきちんと備えてきた企業が、コロナ以降もうまく顧客にフィットさせながらやってきた結果です」(田代氏)

 コロナによりリアルなスペースに集うのが難しい昨今、オンライン上の接点は今まで以上に大事になってきている。その際、ECやソーシャルメディア、広告などで繋がっているだけでは、顧客が誰なのか、どれが同一人物なのか、何らかのコミュニケーション後にどういう行動を取ったのかといったことはわからない。そうしたバラバラの顧客接点を統合し、データを取っていくことで有益なデータ活用が可能になる

 また、オフラインでの体験もデータ化して統合できると、顧客理解がさらに進むだろう。たとえば、ECが主な販売ルートになっていく中で、店舗はロイヤリティの高い顧客に対して、時間を区切っておもてなしをするといった“特別な体験をする場所”という役割を果たすようになるかもしれない。そうしたデータも今まで以上に重要になってくるだろう。MGReを活用するとそうしたデータ統合し、顧客を一人ひとり認識してコミュニケーションしていくことが可能になる。

 「我々のクライアントは小売りが中心なので、どうしても買ってもらう前、買ってもらう最中にコミュニケーションが寄りがちですが、一番大事なのは購入後のフォローアップです。商品やサービスを使っている時間が、一番長いブランド体験になりますので」(田代氏)

データを統合して顧客を理解する

 MGReでは、アプリをハブとして双方向でのコミュニケーションを取っていくことで、顧客の理解を進めることができる。理解が浅いと、企業からの一方向的なコミュニケーションになりがちだ。データを取得してPDCAを回し、より良いコンテンツを作り、コミュニケーションを深めていくことで、顧客のエンゲージメントは上がっていく。その結果として、自社のビジネスに繋がっていくのだ。

 これまでに紹介したポイントをまとめると、アプリ導入後に必要なのは以下の3つだと言える。

(1)顧客が求めるコンテンツを作り、きちんと届ける
(2)データをもとに顧客の嗜好性を理解し、コンテンツを磨き上げる
(3)継続したコミュニケーションで顧客のエンゲージメントを高める

 最後に向井氏が、MGReについてこんな質問を投げかけた。

 「MGReはアプリを作りたいと思っている企業向けに、リーズナブルに早くアプリが作れるプラットフォームだということはわかりました。しかし、同様のサービスは他にもたくさんあります。MGReがそれらと違う強みはどこですか?」(向井氏)

 田代氏は、その強みをこう語り締め括った。

 「我々は単純にアプリがあればいいと思っているわけではなく、あくまで一つの手段だと考えています。顧客体験を作っていく上で一番重要なのは、きちんと顧客一人ひとりを認識できる仕組みにすることです。MGReでは、それぞれIDを登録して、そのIDを元にすべての行動をデータ化することができます。単純に、新しいメディアとしてアプリを導入しましょうというものではなく、アプリを中心に顧客の理解を深めて、体験を良くしていきましょうというのが大きなコンセプトであり、他との違いです」(田代氏)

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この記事の著者

平田 順子(ヒラタ ジュンコ)

フリーランスのライター・編集者。大学生時代より雑誌連載をスタートし、音楽誌やカルチャー誌などで執筆。2000年に書籍『ナゴムの話』(太田出版刊)を上梓。音楽誌『FLOOR net』編集部勤務ののちWeb制作を学び、2005年よりWebデザイン・マーケティング誌『Web Designing』の編集を行う。2008年よ...

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MarkeZine(マーケジン)
2020/10/09 11:00 https://markezine.jp/article/detail/34303