今後10年で起こりうる、5つの変化
筆者は米国のマーケティング、セールス、サービスのテクノロジーベンダーのマーケティング責任者をしていた。現在は株式会社LEAPT(レプト)にてBtoB企業のマーケティング支援、特にBtoB SaaS企業に対しての支援を行っている。その観点から、米国のマーケティングや営業、SaaSイベントに出席することが多く、MarTechにも毎年参加している。本レポートでは、Chair of MarTech スコット・ブリンカー氏が基調講演で語った内容を中心に、今後のマーテックがどのように変わっていくのかをお伝えしたい。
「ハロー、ハロー、ハロー」とお馴染みの挨拶で幕を開けたMarTech Virtul Fall 2020。基調講演を行うスコット・ブリンカー氏は、MarTechカンファレンスのトップでもあり、同時に米国HubSpot社のVP of ecosystemで、マーケティングテクノロジーについて世界で最も知見と先見性がある専門家の一人である。
今回の基調講演では、このコロナ禍で急加速したデジタルトランスフォーメーションの変化に合わせて「Martech 2030 : 5 Trends in Marketing Techonology for the Decade Ahead(MarTech 2030 : 今後10年に起こりうる5つのマーケティングテクノロジートレンド)」と題してスタートした。
このスライドのイラストの示すところは2つ。一つは、未来のマーテックは雲(クラウド)の中にある世界であるということ。もう一つはウォータースライダーのように皆が楽しめる世界であるということ。マーテックの進化は通常「組織的変化」よりも「技術的変化」のほうが早く起こるのだが、新型コロナウイルスによってテクノロジーの変化と組織的な変化が同時に起きており、組織的変化が過去に例がないほど早まっている、とブリンカー氏は強調する。
たとえば米国SaaS企業のTwilioが行った調査では、97%の企業が新型コロナの影響でデジタルトランスフォーメーションが加速し、平均で6年ほどデジタルコミュニケーションが早まった、とのこと。またマッキンゼーの調査が行ったEコマースに関するレポートでも、直近過去3ヵ月の浸透量が過去10年分を超えた、という調査結果が発表されている。
ブリンカー氏はこの圧倒的な変化に対して「マーケターとオペレーションは四苦八苦していることは間違いないであろう」としたうえで、この想定外の変化と共に、マーケターが頭に入れておくべき、今後10年先で考えられる変化を5つにまとめた。
【マーケターが頭に入れておくべき、今後10年で起こるであろう5つの変化】
1、“No code”シチズンクリエイターの台頭
2、プラットフォーム、ネットワーク、マーケットプレース
3、アプリ市場の大爆発
4、ビックデータからビックオペレーションへ
5、人間とマシーンの調和
まずは、1の“No code”デベロッパーの話から始めるにあたり、ブリンカー氏はGitHubの共同創業者であるクリス・ワンストラス氏の言葉をかりて以下のように強調した。
“The future of coding is no coding at all”
(コーディングの未来は、まったくコードを書かないことだ)
これが意味することはなんであろうか。
“No code”ツールに慣れておくことでアドバンテージが作れる
ブリンカー氏の過去のブログ”Democratizing martech : distributing power from IT to marketing technologists to everone” によると“テクノロジーの民衆化”には5つの段階があり、初期の最も専門性が必要される時期を抜けた中期以降を“シチズンクリエイター”が活躍する期間と位置させ、テクノロジー由来の生産率が最も高まり始める期間としている。
この“シチズンクリエイター”というのは、コーディングをせずにソフトウェアやアプリを組み合わせ、特定業務用にソフトウェアをカスタムするような人たちのことを指し、たとえばネイティブ連携していないマーケティングテクノロジー同士をZaiper(コードを書くことなくツール間の連携を可能にするコネクターアプリ)のようなツールで繋ぐ人たちを指す。
Zapierのようなツールに加え、米国(英語圏)ではコードを必要としないアプリやソフトウェアが急増傾向にあり、マーケティング担当者が日々使うような「コンテンツやUIデザイン」「データベース構築」「オートメーションやワークフロー構築」に関わるツールで“No code”ツールが100種類以上存在する。
特に“Jobs to be done(JTBD:ジョブ理論)”、つまり“機能ではなく成果を重視するタイプのツール”は、“No code”である必要が高く、以下の様なツールが台頭し始めている。
日本の企業にお勤めの方でもツールに詳しいマーケティング担当者であれば、上記のツール群のいくつかを目にしたことがあるかもしれない。もしもないのであれば、興味のあるツールを触りマーケティング活動の改善を行うことをお勧めする。
また、2020年現在“JTBD”のツールに、ランディングページ制作のような“Low-end use cases(複雑性の低い利用目的)”は既に存在しており、ブリンカー氏は将来的にはECサイトの制作をコード不要で行うような“High-end use cases(複雑性の高い利用目的)”も実現するであろうと強調する。
日本の企業でも“ペライチ”のようなツールを用いてウェブサイトやランディングページを制作する企業が増えてきている。5~10年前では、コーディングに詳しくない人であれば企業向けのウェブサイトをカスタムで制作することはほぼ不可能に近かった。このように、急速にデベロッパーが増加し、“シチズンクリエイター”が増加することによって、デジタルマーケティングは企業のマーケティング担当者一人一人にとって身近な存在になっていくことは間違いなく、早い時期から“No code”ツールに慣れ親しむだけで大きなアドバンテージが作れるのではないかと思う。