“部分最適“でツールを選ぶ時代は終わる
次に、「プラットフォーム」「ネットワーク」「マーケットプレース」の変化について。いずれも日本の企業が開発するソフトウェアやアプリの弱点ともいえ、ユーザー企業のマーケティング担当者の活動の幅が狭まってしまったり、外資企業にシェアを奪われたりするところの原因となるところだ。

プラットフォームの特徴は事業活動を拡張するソフトウェアの土台となるもので、これらは拡張性が鍵となる。マーケティングやセールスを代表する“プラットフォーム”といえば、SalesforceやHubSpotなど、土台を中心にそれこそ“No code”の連携などができることも特徴にある。
ネットワークの特徴は、接続性や共有作業などの相互交流が発生し、ネットワーク外部性(製品やサービスの価値が利用者数に依存していること)やメトカーフの法則(ネットワーク通信の価値は接続されているシステムのユーザ数の二乗に比例する)などが鍵となる。代表的なものとして、エンゲージメントが発生するマーケティングツールが該当し、FacebookやTwitter、Slackなどがその代表格と言え、“誰かが利用しているから自分も使う”というような利用開始の特徴がある。
マーケットプレースの特徴は、ソフトウェア開発者と利用者のマッチングを行う場のことで、需要と供給のバランスをとることが鍵となる。たとえば、Google広告や、クラウドソーシングなどが代表的なサービスだ。
ブリンカー氏は、「10年後のマーケティングテクノロジー企業はこれらの3つを混ぜ合わせた状態で、プラットフォームを自社プロダクト、ネットワークを自社のコミュニティ、マーケットプレースを(マネタイズが発生する)市場として持ち合わせることが普通になるであろう」と予測を述べる。
つまり、BtoBのマーケティング担当者は、活動に合わせた“部分最適”の視点でツールを選ぶ時代ではなくなってきたということができるのではないだろうか。少なくとも、ツール連携視点を持つことを前提として単機能ツールを選定すること視点は必須で、周辺のプラットフォームまでを考慮して中長期的な戦略を立てることがさらに重要となるということは間違いない。また、逆も然りで、マーケティングツール企業など担当者や事業開発責任者であればその視点も欠かすことはできない。
データは“オペレーション”により価値が変わる
3つめは「アプリ市場の大爆発」である。2011年にMarTechが調査を開始した頃、マーケティングテクノロジーと呼ぶことのできる企業数は150企業未満であった。2020年の段階でその数は8,000企業にも到達し、5,233%もの成長率を記録。さらにIDCの調査によると、2023年までにアプリやソフトウェアの総数をひっくるめると、その数は5億になると言われている。

その大きな原動力になっているのが世界中の開発者数の急増だ。2017年時点で1,500万人と言われる開発者数が2030年までに世界中で4,500万人にまで増加すると言われており、この開発力の増加がアプリの総数の増加と、“No code”でデジタルの大衆化を押し進める大きな起因となると言われている。
4つめは「ビックデータからビックオペレーション」への変化だ。ブリンカー氏は「データを石油と例えるのは少し違うのではないか」と言及した上で「データは“油塗料”と例えるほうが正確であろう」と強調する。油塗料は$2のものもあれば$200のものもあり、その使い方によってはダビンチ絵画のように450億円の値段にもなりうる、というのだ。
ご存知の通り、通信情報量を含めデータの流通量が今後も爆発的に増加することは間違いなく、2025年までにはデータの扱い量が3倍になることが予測されており、このデータ流通量の継続的な増加によりマーケティング業務で行う分析やオペレーションにも大きな影響が出ると予想されている。しかしながら、IDCのリサーチによると、44%の企業がデータの活用をまったく行っておらず、行っている56%の企業のうち半数以上がデータを集めていてもほとんどを活用していないと回答しているという。

X軸:データの活用 Y軸:データの加工
ブリンカー氏は「データの価値を引き出すにはプロセス立てることが大切であり、上図のようにデータから価値を引き出すには、まずはX軸とY軸のエリアから意識することが必要」と述べる。わかりやすく言えば、生データを貯蓄し利害関係者に周知(レポート)、分析し、同時にデータの加工も進めるところから始めることが必要であると伝えている。
また、マーケティングテクノロジー企業が高度な分析を行うためには、特にこの両軸を行う必要があり、ソフトウェア開発やITなどのオペレーションチームと、マーケティング、セールスやカスタマーサービスに関わるオペレーションが同時にビックデータ同士の関係性の解釈し、自動化することが鍵になる。

筆者のクライアントはすべてBtoBのSaaS企業なのだが、この“データの活用”の周知する段階までで止まっている企業がほとんどである。先進的なマーケティングを行っている企業でも、データに基づいた決断(decisioned)まで到達している企業はかなり少ないと感じている。また、“データの加工”に関しても、データの加工(proceddes data)まで到達してる企業もほとんどない。
元々、ペルソナやカスタマージャーニーの様なデータ設計の根幹となる様な戦略を持たずにマーケティング活動を行っている企業が多い中、シナリオがなければデータの活用方法も整備されていないので当然であろうとは感じる。また、特に米国では一般的になってきている専門職であるマーケティングオペレーションという職種が日本企業ではまったく存在していない。これらの職種の新設も今後日本企業の間で必要になってくるであろう。