名刺管理サービス国内シェアトップになるまでの道のり
スピーカーの柳生大智氏は、2016年に新卒でSansanへ入社。現在は、Sansan事業のSMB領域とともに、新規事業「あらゆる請求書をオンラインで受け取る Bill One」のマーケティングを担当している。
はじめに同氏は、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」のアップデートとして、今年6月にリリースした「オンライン名刺」を紹介。コロナ禍でオンライン商談が増え、従来のような名刺交換は難しくなった。「オンライン名刺」は、専用のURLを通して、「Sansan」「Eight」ユーザーに限らず、すべてのビジネスパーソンと名刺が交換できるサービスだ。
2007年にサービス提供を開始した「Sansan」は、法人向け名刺管理サービスとして83%のシェアを誇り、利用企業は約6,000社にのぼる(※)。「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを掲げる同社は、創業期と拡大期をどのような戦略と戦術で乗り越え、ビジネス成長を遂げてきたのか。本セッションでは、同社の成長プロセスを振り返るとともに、創業期・拡大期のデータ戦略が語られた。
※クラウド名刺管理サービス「Sansan」を利用している契約数。
※出典:調査研究レポート「名刺管理サービスの市場とSFA/CRM関連ビジネス2020」(2020年1月 シード・プランニング調査)
創業期はリード獲得、拡大期は企業単位の営業戦略に注力
まず柳生氏は、ビジネスの創業期と拡大期を次のように定義した。
創業期とは、1つのプロダクトを軸としたビジネスに注力する時期だ。Sansanの場合は、創業から2016年頃までがその時期にあたり、従業員規模は200名未満、セールスの数は5名から20名ほどだった。名刺管理の啓蒙と認知拡大を中心に、新規の導入企業の営業に注力していた。
そして拡大期とは、複数のプロダクトを持ち、マーケティングチームだけでなく、インサイドセールスやカスタマーサクセスと、フロント部門の分化が進む時期だ。この頃のSansanの従業員規模は、200名以上だったという。
「創業期は、PDCAを回してセールス・マーケティングのファネルを精緻化し、とにかくリードを集めるフェーズです。そして、拡大期は顧客データや契約データなどを企業単位に集約し、最適化することが求められます」と柳生氏は話す。
現在のSansanは、まさに拡大期。マーケティング、インサイドセールス、セールス、カスタマーサクセスがそれぞれ数十人規模に拡大し、エンタープライズ企業へのアプローチを強化している。また、「Sansan」のオプション機能や先述した「Bill One」をリリースするなど、アップセルや新規事業の領域にも踏み込んでいる。
創業期のリード獲得を阻む「データ不備」
続いて、創業期の課題と対応策が紹介された。
創業期の注力ポイントを「リード獲得」と語る柳生氏。福田康隆氏の書籍『THE MODEL』を例に挙げ、「リードを獲得し、商談、受注につなげるファネルの構造を作り、それぞれのフェーズで得られる数字や転換率をきちんと科学していく。創業期は、このモデルの構築、運用が重要です」と話した。
こうしたマーケティング・セールスファネルを構築していく上で課題となるのが、データ管理だ。当時のSansanでも、リードや商談データが集まらない、または欠けているケースが珍しくなかったそうだ。データに不備があっては、せっかくの営業計画やモデルも、うまく作用しない。
データ管理の難しさは、運用面にある。セールス活動のプロセスにデータ入力が含まれていない、データが更新されないなど、属人的な運用には限界がやってくるのだ。また、「コロナ禍ではオンライン商談が増え、対面者以外の顧客情報が得られにくくなった」と、柳生氏は指摘する。さらに、商談を記録し、進捗をトラックするパイプラインマネジメントそのものに問題があるケースも多い。
様々なタッチポイントのデータ集約を可能にした「Sansan」
これら創業期の課題を、Sansanではどのように乗り越えたのか。柳生氏によると、ポイントは「データ入力負荷の軽減」そして「パイプライン管理のためのルール整備」の2点だ。
データ入力負荷の軽減は、「Sansan」を活用して解決したという柳生氏。名刺に加え、様々なタッチポイントから得られた顧客データを、「Sansan」に集約し、データベースを構築した。
名刺のスキャンデータや、Webフォームなどのオンラインを経由する顧客データは、API連携を用いて「Sansan」への集約が可能だ。また、データ入力負荷の軽減には冒頭で紹介された「オンライン名刺」も役立つ。「オンライン名刺」では、オンライン上で気軽に名刺交換ができることに加え、「インサイドセールスと顧客」「カスタマーサクセスとユーザー」など、オンライン上のさまざまなつながりを可視化できるという。
ルール整備の観点では、セールスフォース・ドットコムのメソッドを参考に、商談の見極めから受注まで、7段階にわけたパイプライン管理を実施。データ入力の負荷は若干増えるが、商談の確度を正確に把握できるようになるという。
この2つの対策で、創業期を乗り越えたSansanは、約3,000社の導入実績を得た。
企業単位の情報管理が不可欠な拡大期
拡大期は、より精度の高いデータ整備がカギとなる。Sansanでは当初、以下のようなデータ蓄積環境を構築していた。
上図は、情報が集約され、フェーズごとの担当者も明確で、スムーズに営業活動が進むように見える。しかし、この方法では企業単位でのリードや状況が把握しづらかったという。
「拡大期は、組織の拡大にあわせてプロダクトが増え、アップセルやクロスセルも検討できるようになります。すると、個人ではなく、企業単位で営業戦略を立てるABMを推進する必要が出てくるのです」(柳生氏)
特に拡大期にアプローチを強めたいエンタープライズ企業ほど、担当者や部署が多く、複数のセールスが異なる部署へ提案するケースもあるだろう。企業とのスムーズなコミュニケーションや社内の情報共有のために、企業単位の情報管理は不可欠だ。
「BtoBビジネスのお客様は、個人ではなく企業単位で考え、深い理解のもとマーケティングやセールスをしなければならない」と柳生氏。だが、事業が拡大フェーズにある企業では、データの重複や格納場所の未整備に悩まされることも少なくない。
企業単位のデータから見えてきた新たな施策・戦略
では、企業単位のデータ集約はどのように実現できるのだろうか。柳生氏は、「Sansan」の拡張機能「Sansan Data Hub」の活用を挙げる。これは、あらゆる顧客データに法人番号を付与することで、法人単位に集約されたデータベースを構築するものだ。
使い方はシンプルな2ステップ。はじめに、自社にある顧客データを「Sansan Data Hub」にアップロードすると、法人番号を付与したデータがエクスポートできる(ステップ1)。その後、同じ法人番号を持つデータ同士が自動処理で関連付けられる(ステップ2)。Sansanではこの「Sansan Data Hub」を中心に「Salesforce(※)」やマルケトとの間でシステム連携を実装しており、データが自動的に会社単位に集まるように運用している。
※SalesforceはSalesforce.com,Inc.の商標であり、同社の許可のもと使用しています。
実際にSansanでは、獲得済みリードの75%を企業単位で集約できた。その結果、理想的なABMも実現でき、前年比で商談数が64%アップしたという。
企業単位に集約したデータは、マーケティング、セールスだけでなく、戦略立案にも利用できる。その一例が、データから受注確率を導き、ターゲット企業を見つける施策だ。
Sansanでは、機械学習自動化プラットフォーム「DataRobot」を導入し、集約した各データを用いて機械学習を行い、企業をスコアリング。データの特徴量が受注へどのくらい寄与するかを分析し、受注確度が高い企業を抽出している。これにより、営業活動の効率化に加え、マーケティング部門でも、注力業界に対する活用事例の作成やプロモーション施策が実行できる。柳生氏は「企業単位にデータを集約できると、新たな施策・戦略の可能性が広がります」と話す。
Sansanの創業期・拡大期の戦略と戦術の共通点は、使い慣れた「Sansan」の機能をフル活用し、「データを整え、整えたデータで何をするか」を明確に実行してきたところにある。「自社に取り入れられそうなところがあれば、ぜひ参考にしてほしいです」と柳生氏はまとめ、セッションを締めくくった。