カテゴリーの再定義は差別化とは異なる
カテゴリーの再定義を行うにあたっては、前回述べた「そのカテゴリーにユーザーが何を重視し、何を期待しているか」を理解し、分析したユーザーインサイトから、ユーザーが試したくなるようなブランドのチャレンジ/課題の設定を行う。その課題は、ユーザーの無意識にある、カテゴリーの中で重視している点をキープしつつ、その期待をシフトさせたりリフレッシュさせ、時には裏切るものではなくてはならない。そして、一過性でなく、購買サイクルに応じてユーザーに使い続けてもらうためのものでなくてはならない。
注意したいのが、ブランドによるカテゴリーの再定義は差別化とは異なることである。差別化はニッチになり間違ったアクションを起こしてしまいやすい。他社製品との違いを強調するあまり、結果的にユーザーがカテゴリーに対して重視する価値が落ちてしまうこともある。
カテゴリーの再定義とは、ユーザーが元のカテゴリーで重視していることから大きく離れず、期待をシフトさせることを指す。それでは再定義にならないではないかという方もいるかもしれないが、重要なのは、ブランドの独自性(特にベネフィット)である。独自性と差別化の違いは、「あるブランドが言うと信じられるが、別のブランドが言うと信じられない」と考えるとわかりやすい。
たとえば「洗濯の問題を科学で解決するアリエール」は信じられるが、「洗濯の問題を科学で解決するコープ洗剤」には、違和感があるのではないだろうか。汚れを落とすという機能は同じであっても、科学的なアプローチで汚れを落とすというベネフィットはアリエールのものであり、コープ洗剤に期待するベネフィットは科学ではないからだ。
独自性とは、唯一無二であり、もし他社のブランドに置き換えると違和感が出るようなブランドの特徴である。またそれは、短期的には機能的便益を上手く使って伸ばしつつ、それが積もって中長期的にブランド全体で蓄積される。加えて、独自であるからこそ、カテゴリーで重視されていることをキープしつつ、今まであった期待をシフトさせることができ、新たな価値をカテゴリーに創出させることができる。また、第1回で話した通り、情緒的なベネフィットが機能的なベネフィットに重なって独自性が増し、再定義の成功確率が上がることが多い。タオルのベネフィットを「やわらかさ」と言うのでなく、「1日中快感を感じるやわらかさ」と言うように。
カテゴリーの再定義、4つの事例
ここでもう少しわかりやすくするために、筆者が経験したカテゴリーの再定義の具体例を4つ紹介しよう。
事例1:洗濯洗剤の「ボールド」
洗濯洗剤のボールドは、柔軟剤入りの洗剤として発売され一世を風靡したが、大きくカテゴリーを再定義した時期がある。それは、外国人の主婦が出てくるキャンペーンを実施した時だ。簡単に説明すると、隣にやってきた外国人の主婦が洗濯した服から、今までに感じたことのない、いい香りや柔らかさを隣人が感じ、快感的な香りと柔らかさが洗剤で実現されていることを知って驚く、というキャンペーンである。
当時、筆者は消費者・市場戦略本部のマネージャーとしてキャンペーンに関わっていた。ボールドのターゲットユーザーは洗濯に香りや柔らかさを欲しつつ、日々の変わりない淡々とした生活にも少しの楽しみが欲しい層だった。もともと「日々のお洗濯に少しの楽しみ」を提供しようとしていたボールドは、カテゴリーでターゲットユーザーに重視されている「汚れをきれいに落とす」ことはもちろんキープしつつ、ターゲットユーザーが期待していた「いい香りや柔らかさと、それらによるお洗濯での少し楽しみ」を、「洗濯は実は日常に快感を提供してくれるもの」とリフレッシュさせて、カテゴリーを再定義した。ボールドで洗った衣類が擦れると、弾けて香ってくるマイクロカプセルが含まれるという技術開発、パッケージ刷新も含めて、再定義されたブランドに合わせた包括的なキャンペーンを実施。結果は大成功だった。