無意識を理解することから始めよう
本記事のテーマである「どこで伝えるか」とは、伝える場所と瞬間(モーメント)のことである。これを考えるのに有効なのがマインドジャーニーだ。ちなみに文章中に「インサイト」という言葉が出てくるが、ここでは「無意識」をマーケティングに活用できるレベルに具体化したものを、「インサイト」と呼んでいる。
場所や瞬間(モーメント)と聞くと、ユーザージャーニー、カスタマージャーニーのことを思い浮かべる方もいるかもしれない。これらは、ユーザーがどのような経路をたどって購買に至るかを考えるものだが、ここから始めると「人々の無意識に入り込み行動を促す」ということを置き去りにしかねない。本連載で繰り返し述べてきたように、人の無意識を理解することからスタートし、無意識にアプローチすることが本質であり、それには今回紹介するマインドジャーニーが役に立つ。
なお、AIDMAやAISAS、AISCEASといった定型化されたやり方では、本質的な人の無意識を理解することは、まったくもってできない。なぜなら、これらは消費者をこちらが思ったような型にはめて動かそうとする考え方になりがちだからだ。消費者の無意識や購買に至るまでのプロセスはカテゴリーやブランドによって違い、定型化されたやり方は無意識を理解しようとする思考すらストップさせる(たとえば、お菓子のような、知った瞬間に購買に至るブランドやカテゴリーさえある)。
マインドジャーニーで無意識の中にあるバリアを明らかにする
では、どうすればよいか。答えはやはりユーザーの無意識をいかに理解するかになるのだが、ここでは特に理解した無意識をカテゴリーやブランドごとに独自に体系立てることが重要になる。その手法を説明しよう。
まず、消費者のカテゴリーに対する無意識を理解していく過程で、消費者の中にあるカテゴリーやブランドへの違和感やそのカテゴリーやブランドを知ること、使うこと、買うことへのバリアをすべて書き出しておく。しっかりと理解しようとしていれば、おそらく100以上は出てくるだろう。すると、バリアの中に共通するものがあることに気づくはずだ。その中でも、特にターゲット消費者の多くが感じていると思われるものをグループ化する。
次にバリアのグループを並べ、優先順位をつける。優先順位の基準は「そのバリアを取り除けば、消費者はそのブランドの使用か購買に近づくのか、もしくはそれがあってもなくてもそこまで行動は大きくは変わらないのか」という一点である。あってもなくても消費者の行動がさほど変わらないバリアと、存在するといつまでたっても消費者が使用、もしくは購買しないバリアに分ける。前者は無視してもよいが、後者こそが無意識に存在しているキーとなるバリアであり、解消のために投資を集中しなくてはいけないものとなる。
ここまでできれば、あとはバリアを消費者のマインドに発生する順番(たとえば商品を知る前に使うことはないので、知ることに対するバリアは、使うバリアよりも先にくる)に並べることで、マインドジャーニーができる。
ちなみに、マインドジャーニーのステップは多くて4つぐらいまでである(できれば3つ程度が望ましい)。逆に5つも6つもステップがある場合は、キーとなるバリアとインサイトが把握できていないということであり、そのままでは投資が分散してしまう。
ここで気をつけたいのは、メディアとコミュニケーションの関係性である。基本的にコミュニケーションはすべて、フェーズごとに存在しているバリアを乗り越えるために存在し、そうすることで「使いたい、または買いたい」と思ってもらう必要がある。そのためには、メディアを起点として、たとえば「そもそも知らない」というバリアがあった場合、単純にTVを使って認知させるとなるのではなく、何を知らなくて、何を知れば使いたい・買いたいとなるのか、またそれはなぜなのかといった、バリアの裏側にある強いインサイトを明らかにし、それらを乗り越えるためのコミュニケーションの目的を設定する必要がある。インサイトが弱ければ、使いたいまたは買いたいと思ってもらうことにはつながらないので、強いインサイトを発掘することが重要となる。