自社のマーケティングの定義を確認してみよう
本連載の第1回でマーケティングの定義について取り上げ、それが会社によって異なること、大きく分けると広告宣伝という【狭義のマーケティング】、市場創造=ビジネスそのものという【広義のマーケティング】があることをお伝えした。今回は、自社が狭義のマーケティングを前提としていて、本連載で解説してきたような活動ができない場合、どのような突破口があるか、筆者の体験を踏まえて解説していく。
自社のマーケティングの定義がどちらかわからない時は、判断する簡単な方法が一つある。一概には言えないが、その会社のマーケティング部署の人たちをマーケティングマネージャーと呼んでいるのか、ブランドマネージャーと呼んでいるのかということだ。要は広告宣伝だけをマネージしているのか、ブランドそのものの経営をマネージしているのかの違いで、特にIT業界では顕著である。
なお、IT業界ではプロダクトマネージャーと呼ばれる職種があり、消費財業界などでいうブランドマネージャーの役割の多くを担っている場合が多い。ただし傾向として、ブランドマネージャーが市場や消費者に相対することを常としているのに対し、プロダクトマネージャーはプロダクトの機能などに相対することが多い。プロダクトだけを見ていると、市場を創造すること、つまり今の市場やカテゴリーの理解、またターゲットユーザーの無意識の理解を怠りがちになる。そのため、自分の主観にあるユーザーイメージや自分の周りにいるユーザー(ほとんどの場合がかなりテクノロジー領域に強い人達)の意見だけで判断して、プロダクトドリブンなマーケティングに陥ってしまうことがある。
余談ではあるが、筆者が知る限り最高のプロダクトマネージャーは、スティーブ・ジョブズだったのではないかと思う。これは想像でしかないが、彼は市場やカテゴリーの理解、そしてユーザーの無意識の理解に焦点を当て、カテゴリーの再定義、ブランドの再定義をプロダクト開発と共に行ってきた、“ブランドマネージャーでありプロダクトマネージャーであった人物”なのではないかと思う。
“狭義のマーケティング”が採用される事情
自社が【広義のマーケティング】をマーケティングとして定義していた場合は、本連載で紹介してきた取り組みは実現可能である。しかし、【狭義のマーケティング】を採用しており、特にそれが大企業で組織がある程度固定されている場合、どうすれば成果を上げることができるのか。筆者自身がIT業界に飛び込み感じたのは、まさにこの【狭義のマーケティング】がマーケティングとして定義されている企業が多いということである。ここからは、その経験から感じたことと解決策を述べていきたい。
まず、マーケティングの定義を刷新できるのであれば、もちろんそうしたほうが大きな成果を継続的に残しやすい。しかし大企業になればなるほど、今までやってきたプロセスやプロジェクトの管理方法、マーケティング施策の評価指標などがあり、また営業など他部署にも修羅場をくぐり抜けてきた強者がいて、簡単に組織を変えることはできない。またグローバル企業であれば、ブランドのことはグローバル本社で管理されていることが多く、再定義など簡単にはしようがない。
たとえばGoogle(あくまで筆者自身の経験に基づく意見として捉えてもらいたい)。Googleはブランドに関しては基本グローバル本社が管理しているし、ビジネス自体は、すでに自然に日常生活で使われるプロダクト、具体的には検索というプラットフォーム(今ではAndroidというOSプラットフォームやYouTubeという動画プラットフォームも)を持っていることがビジネスを決めていて、マーケティングの影響力を出すことは簡単ではない。
ほとんどのビジネスが「すでに消費者が手に持っているものにGoogleが入り込んでいる」という状況下で作られており、その状況に対してローカルの、それもマーケティング部署が影響を与えることは容易ではない。たとえばiPhoneのデフォルトで設定されているブラウザーSafariは、デフォルト検索がGoogleであり、Androidは言わずもがな。知らず知らずのうちに日常生活にブランドが入り込んでいる。
つまり、日本のGoogleのマーケティングに求められているのは、広告宣伝の狭義なマーケティングであり、そのため、Googleが消費者に展開しているマーケティングはビジネスに直接的な影響を及ぼすことが少ない。P&Lにあまり直結しないマーケティング予算の設定で、ROIが短期、中長期ともに考えられにくくなっている。