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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングの本質を探る

会社によって異なるマーケティングの定義/課題と解決策

筆者がGoogleでとった解決策とは?

 そのような状況でまずできることは、ブランドの再定義を目的に持ちつつそれをおおっぴらにせずに、売上に近いユーザー獲得の広告宣伝とローカルコンテンツとのパートナーシップを活用し、まずは短期的な実績を残すということだ。これは外資系のグローバル企業で、本社がブランドに関する権限を強く持っている場合にはなるが、ブランドはローカルに根付いたほうが、ユーザーへの親和性が高まるのは言うまでもないだろう。そしてそれはグローバルや他部署の人にもわかりやすく、効果が見えやすい。また、ユーザー獲得としての広告宣伝やパートナーシップを実施することで、他部署の人にもマーケティング活動が直接的に売上につながると示すことができる。

 筆者がGoogleにいた時は、知りたい情報がシンプルに得られるという価値だけではなく、その情報の先に「もっと知りたくなる新たな発見」があるという価値に再定義し、提供することにした。ただ、それを新たな形でプロダクトチームを巻き込んで作ることは難しかったため、ローカルパートナーとしてユニクロや吉野家、スシローなどの企業とパートナーシップを組み、そこに「新たな発見」を作ってもらった。

 具体的には、前回解説した「検索をしたくなる瞬間を捉える」べく、パートナー企業のCMの後に連続してGoogleのCMを放映した。たとえば吉野家の新メニューのCMの後に、GoogleのCMが入り「近くの吉野家」と検索すると、近くの吉野家とそこまでの道や所要時間、営業時間だけでなく、新メニューの画像が見られるということを訴求したり、「近くのスシロー」と検索すると、そこでしか見られないスシローでの秘密の食べ方動画を見られるようにしてもらった。こうすることで、ローカルパートナーシップをうまく使い、短期的な実績を残しつつ、再定義の方向性をグローバルにも理解してもらうことができる。

 私がGoogleを去った今でもある程度その流れは続いているようで、今では検索結果でローカルパートナーのキャンペーン情報を見られるなど、検索した先にある発見をより多彩に楽しめるようである。

 スマホのGoogle Pixelも同じようにカテゴリー自体を再定義する余地は大いに残されているが、現状では通信キャリアに販売の多くを依存しているので、今後に期待したいところだ。(ちなみに、キャリアに依存していることは日本の販売/流通体系上そうならざるを得ないのだが、それにかまけて本質を忘れてしまうと、市場の創造はできないし、継続的な成長はない)。

アドビで目指している再定義とそのための活動

 現職のアドビでは、クリエイティブツールが提供できる価値を、ただ単に「クリエイティブ表現を多彩に作る」だけでなく、「誰でも自信をもって自己表現できるきっかけを与えてくれるもの」と再定義するために、できるだけ多くの人が自己表現できる場面をローカルパートナーと共に創出している

 特にクリエイティブな活動やカテゴリーが好きな層に対して、何かを創作したくなる瞬間をローカルパートナーと組んで創出し、様々なコンテストを実施している。「野性爆弾 くっきー!」を始めとした吉本興業の芸人やHiphopアーティスト「KOHH」、また「左ききのエレン」や『映像研には手を出すな!』といった漫画やアニメ、サンリオキャラクター、はたまたeスポーツとのパートナーシップなどは、まさにこの活動の一環である。

「左ききのエレン」とコラボレーションしたオリジナル漫画を公開
「左ききのエレン」とコラボレーションしたオリジナル漫画を公開

 また、デスクトップ中心だったクリエイティブ活動をモバイル領域に広げるため、携帯OEMや通信キャリアと組むのもその一つだ。より検討から購買に近い瞬間を捉えるため、これからクリエイティブ活動を仕事にしようとしているフリーランスの人たちや副業にしようとしている人たちに対して、「ランサーズ」や「クラウドワークス」などのクラウドソーシングサービス、また「Kaizen Platform」といった動画制作プラットフォームと組んでトレーニングなどで協業したり、広告展開を実施したりすることも含まれる。もちろんまだまだ道半ばではある。

 ローカルコンテンツを活用したパートナーシップや広告展開は、グローバル本社も否定できないローカルに根ざした活動であり、そこからローカルで成果を残し、徐々にローカルの権限を獲得することが重要である。小さなことと思われるかもしれないが、狭義のマーケティングとして定義され、かつブランド自体をグローバルで管理されている企業で働いている人には、共感されるのではないだろうか。

 ちなみに、パートナーシップはお互いがメリットを感じる必要があり、時にはこちらの目的に100%そぐわなかったり、内容によってはすぐに結果につながらないこともある。しかしながら、パートナーシップのおもしろさは、すぐに結果となりにくい案件が、後からより大きな案件へとつながることが多々あるということだ。すぐに判断せず、少しでも芽が見えるのであれば、試してみることが重要である。それに関してはまた違う機会でお話ししたい。

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デジタルマーケティングの定義も見直してみよう

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この記事の著者

里村 明洋(サトムラ アキヒロ)

アドビ株式会社マーケティング本部 常務執行役員/シニアディレクター。兵庫県尼崎市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新卒でP&Gに入社。営業からマーケティングまでP&Gとしては異色のキャリアを築き、日本とシンガポールにて営業から営業戦略やブランド戦略、コンセプトや広告開発などに従事。Googleに転...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/05/10 08:00 https://markezine.jp/article/detail/35844

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