企業の「顧客視点」に消費者たちは疑問
新型コロナウイルスの感染拡大がビジネス界にもたらした大きな変化といえば、急速なデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進だろう。ではDXとは、具体的に何か?
この疑問に対し、Tealium Japanの小泉潤一氏は、次のように説明する。
「令和元年7月に経産省が発表した『「DX推進指標」とそのガイダンス』によると、DXとは、『データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』と記されています」(小泉氏)
つまりポイントとなるのは「顧客視点」で、これを起点として事業をデジタル変革していくことがDXというわけだ。
そこで問題となるのが「顧客視点」の実現だ。小泉氏は「変革に当たって重要な鍵が、カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上です」と語る。顧客視点で、顧客体験をよりリッチで満足度の高いものにしていく必要がある。そのために、デジタルやデータの活用は必須だという。
もちろん企業側も、顧客理解やCX向上に向けて手をこまねいているわけではない。カスタマージャーニーマップを描き、データを活用してより良い提案につなげようと努力したり、メッセージを定期的に送ったり、さまざまな取り組みを進めている。
しかし、こうした企業努力が顧客に受け入れられているとは限らない。小泉氏は「最大の課題は、カスタマージャーニーの設計が企業目線になっていることです」と指摘する。
本来カスタマージャーニーとは顧客が決めるべきもので、企業はそのジャーニーの中に「自らを組み込む」と表現したほうが位置付けとしては適切だ。そのためには、顧客の状況を知る必要がある。
一方で、米フォレスター社の調査によると「広告活用のために行動をトラッキングしていることに不快感を覚える」消費者は63%。消費者は企業に対して不信感をつのらせている。
企業がデータを活用して顧客にアプローチしても顧客の不快感につながったり、見当違いのターゲティングで顧客側が迷惑がったりと、「顧客と企業は視点さえ合っていない」のが一般的な状態だ。
企業はより顧客視点に立ったデータ活用を求められている反面、Web閲覧履歴や購買履歴といった個人情報の取り扱いが年々厳しさを増している。欧州のGDPRや米カリフォルニア州のCCPA施行、主要WebブラウザによるサードパーティCookieの排除など、顧客の「個」をターゲティングするやり方そのものが、大きく変化しようとしている。
こうした状況において企業側も、個人情報の取得に当たっては、当事者の同意を得るためにCMP(Consent Management Platform:同意管理プラットフォーム)を実装する例が日本でも増えている。しかし、これも消費者の同意通りに動いていないケースが65%あることが報告されているなど、依然として課題は多い。
既存のデジタルマーケティングが通用しなくなる
なぜCMPで、こうした個人情報の収集・活用・管理規制対応がうまくいかないのか。タグマネジメントツールや、リアルタイムCDPのリーダー企業として、長年この課題に取り組んできているTealiumは、CMPが機能不全に陥る原因を次のように考える。
主な要因として第1に、Cookie情報の正確な分類ができていないこと。第2に、Cookieとタグの関係性を把握していないこと。その結果として、タグ発火ルールとタグマネジメントの連携ができていない事態が起きているという。
仮にこうした前提がしっかりできていても、CMPとタグマネジメントツールの連携には時間がかかるうえ、CMPサービスによっては1種類のタグマネジメントシステムとしか連携できないといったケースもある。例えばCMPがGTM(Google Tag Manager)と連携しているケースでは、Google社製品には対応しているが、そのほかのYahoo! やAdobeのプラットフォームには対応できない。
またプライバシー保護の観点ではブラウザによるサードパーティクッキーの利用制限も大きなインパクトを与えている。Cookie規制の波は年々高くなっており、2022年にはGoogle Chromeが、サードパーティCookieの利用を制限することを表明している。これによりWebブラウザトラフィックの86%に影響が出るといわれている。
近い将来、デジタルマーケティング担当者が進めてきた「ユーザー行動の把握」や「ドメインをまたいだユーザー行動の把握」「広告やペイドメディアのROIの把握」といったことができなくなる可能性も高い。
行動が追えずアトリビューションが取れないためWeb広告の見た目上のROASが下がり、結果的に広告出稿予算が削減されるリスクが生まれる。本来広告経由で取れていた売上が減少する事態にもなりかねない。
そこで現在、ドメインに別名を割り当てる「CNAME(シーネーム)」機能を使用することで、サードパーティCookieをファーストパーティCookie化する手法や、Webコンテンツやサービスを利用するに当たり、メールアドレスの登録やサインアップ等による個人情報収集を前提条件とする事例などが登場している。
しかし、前者は今後、規制の対象となる可能性が高かったり、後者もユーザーフレンドリーの観点で課題があったりするなど、根本的な解決には至っていない。
そこで小泉氏がこれからのCX向上に向けて訴えるのは、「ファーストパーティデータ戦略をきちんと考えること」だ。
今こそ必要な「ファーストパーティデータ戦略」とは?
ファーストパーティデータ戦略は次の3点から構成される。
・顧客視点で提案するためのパーソナライゼーションの実現
・情報収集・管理に関する透明性の担保による、顧客との信頼関係向上
・顧客データの所有権を明確にし、顧客自身が許可したデータのみ使用
この戦略を踏まえたうえで、具体的にどのようにターゲティングやデータ活用を進めていくのか。「個の特定」によるターゲティングだけで考えるべきではないと小泉氏はいう。
「例えば特定のコンテンツやロケーションを踏まえたコンテクスチュアルなターゲティングの比率は高くなるでしょうし、Googleが進めている群衆ターゲティングを実現するFloC(Federated Learning of Cohorts)技術など、これまでとは別の文脈でのターゲティングが今後も増えていくと思われます」(小泉氏)。
では、One to Oneはどうなっていくのか。ターゲティングにおいて、個を特定するIDは非常に重要なコンポーネントであり、このIDをどのように収集するかも、戦略においてポイントとなる部分だ。
小泉氏は、新しいターゲティングのやり方と、IDを使ったターゲティングを戦略的に組み合わせて顧客理解やCXの向上に役立てると共に、「顧客との固有の関係値に基づいて収集した自社固有の資産であるファーストパーティデータそのものを差別化して活用する手立ても考える必要がある」と主張する。
具体策としては、ゼロパーティデータ(顧客に能動的に働きかけ同意を得て収集したファーストパーティデータ)と、顧客のサービス利用に応じて受動的にデータ量が増加するファーストパーティデータを掛け合わせていくことが有効だ。または自社サーバーでファーストパーティCookieを発行する手段を取るといったことが挙げられる。
ファーストパーティデータ戦略において重要なのは、顧客がプライバシー情報を企業に提供する代わりにどのようなメリットが得られるかを明確にし、顧客のカスタマージャーニーにおいて「価値交換」を実現することだ。
法規制の観点からCMPでCookie取得同意を取る例は多いが、その同意によって、ユーザー側にどのようなメリットが得られるのか説明している例は少ない。これに対し、「この収集したデータをどう活用し、それがCX改善にどうつながるかを明示することで、信頼関係を作っていくことができます」と小泉氏はいう。
加えて、企業の体制作りも必要だ。多くの企業では、ファーストパーティデータは企業内に散在しており、統合されていない。業務内容も目標も異なる部門にデータがあることで、それぞれの業務に応じてデータの抽出・加工・連携といった似たような作業が重複して行われており、極めて非効率な状態になっている。また、部門ごとに個別最適な業務施策を行う結果、全体整合性のない施策を同じ顧客に対して行ってしまっている。つまり、顧客のニーズに関わらず、各部門の都合でのアプローチになってしまっているのが多くの企業における実態だといえる。
このようなチャネル中心のデータ組織から顧客中心のデータ組織へ改善するために、ファーストパーティデータを含む全ての顧客データを一元管理するCDPの導入は非常に有効だ。
部門横断の取り組みのためマネジメントの強いコミットが必要ではあるが、上記の考えのもと実際にCDPを導入する企業も増えてきている。
CDPは収集したデータを活用できてこそ
もちろん、CDPを導入したからといって、CXがすぐに向上するわけではないし、DXが進むわけでもない。新しい基盤を導入するのであれば、当然コストもかかる。
このような企業の悩みに対し「Tealiumでは解決策として、単にデータを1カ所に収集・統合するだけでなく、複数の顧客IDを使ってデータを紐付けして統合的な顧客データモデルを構築し、その結果をさまざまなチャネルで活用できるようにするリアルタイムCDP『Tealium Customer Data Hub』を提供しています」と小泉氏は説明する。
「TealiumのCDP最大の特徴は収集したデータを活用できるようにすることにフォーカスしていることです」と小泉氏。これを顧客データオーケストレーションと呼び重要視しているという。
具体的に他のCDPと何が違うのか? Tealium Customer Data Hubでは収集した明細形式のデータからユーザー単位のデータモデルである「顧客プロファイル」を構築し保持する。データの集計、計算、条件比較等のルールを内包した顧客評価のためのデータ項目をあらかじめ定義できるようになっており、顧客のアクションに従ってリアルタイムに顧客プロファイルが自動更新され、ルールに合致するステータスになると施策実行のトリガーが引かれる。
データを明細形式で保持し、必要に応じてSQLやバッチ処理による集計が必要な他社のCDPとの大きな違いだ。
この顧客プロファイルは匿名ユーザーが既知の顧客になるまでの継続的な把握や、クロスデバイスでのデータ統合も可能だ。
また一度プロファイルを作成できれば、仮にセッションが切れて未ログイン状態になっても、ファーストパーティCookieが残っている状態のうちにユーザーが再ログインすれば、時系列に途切れることなく行動履歴を追うこともできる。
こうして蓄積した顧客プロファイルからGUIベースでオーディエンス(セグメント)条件などを設定できるため、マーケターは特定の層に当てたキャンペーンの実行や、効果検証結果に応じたキャンペーンのチューニングをスムーズに行える。さらにMAツールなど200を超える事前定義済みのAPI接続機能と、1,000以上のツールとJavaScriptを使った連携が用意されている。
「例えば、オフラインでの顧客購買実績データを含めた顧客プロファイルのステータスに従ってweb広告のタグの実行制御を行うことも可能です」(小泉氏)
リアルタイム・自動更新だからこそ実現するCX
TealiumのCDPの特徴は顧客プロファイルが自動かつリアルタイムに更新されることだ。
例えば、ECサイトでカート放棄をしたユーザーの顧客プロファイルには「カート放棄」バッジが付与され、カート放棄オーディエンスに振り分けられ、広告を打つ・バナーを変えるといった施策実行のトリガーが引かれ、各ツールへの指示が出る。この一連の流れが一貫して自動でリアルタイムに実施される。
モバイルアプリとの連携や位置情報ソリューションとも連携できるので、「リアル店舗の近くを歩いているユーザーに、顧客プロファイルに応じた提案」といった施策が可能だ。また顧客の行動によってバッジが変更されるため、態度変容を捉えたコミュニケーションができる。金融商品などの検討期間が長く、成約までに顧客のステータスが様々に変わる場合でも的外れなメッセージングを避けられる。
広告最適化も日本で多いユースケースだ。「広告からの流入が4回あったら以降は広告を配信しない」といったフリークエンシーコントロールは珍しくないが、多くの場合は媒体ごとの設定だ。Tealiumの場合は人に紐付けるため、どの媒体からの流入であろうが4回を超えたら全ての媒体の広告配信を停止することができる。また、メール経由で流入したユーザーはロイヤリティが高いので、以降の広告は止めるといった判断も可能だ。
さらに機械学習による予測を踏まえた精緻なターゲティングも増えているという。
顧客の意向に沿ったデータ活用を実現
Tealium Customer Data Hubの特徴はもう1つある。それは、プラットフォーム自体にCMP機能を持っており、顧客が同意した設定に従って自動的にデータ活用範囲が定められることだ。
顧客は無理なターゲティングをされたり、しつこいメッセージに悩まされることなく、同意した取り決めに基づいて、適切なコミュニケーションが進められるという。この点が評価され、GDPRが施行された欧州で展開する日系企業によるTealium Customer Data Hub導入が進んでいるという。
今後、プライバシー侵害に対する規制や、Cookieなどの自然発生的な行動データの活用に対する制限が強くなる中で、いかに質の高いファーストパーティデータを収集し、顧客の意向に沿った活用ができるかが注目されている。
その実現に向け、組織体制の見直しから新たなプラットフォームの導入まで、企業が今後取り組むべき課題は多いだろう。試行錯誤を続ける企業にとって、Tealiumは解決の糸口を提示できるパートナーといるかもしれない。