オンラインシフトの加速によりEC市場は競争激化
新型コロナウイルスの流行によって、リアル店舗に代わる消費の場としてEC需要が高まっていることは明白だろう。では実際にどれほどの変化が起こっているのか。
2020年7月に経済産業省が公開した調査結果によると、2019年の国内のEC市場規模は約19.4兆円、EC化率は6.76%。しかし、コロナ禍の影響でこの数値が急伸し2020年は10%に届いたと予測されていると、Similarweb Japan(以下、Similarweb社)でカスタマーサクセス部門の統括を務める平良 亮氏は状況を説明する。
よりオンラインにシフトしている様子は、Similarweb社が実施した独自調査からも見て取れる。「ECとショッピング」のカテゴリーのなかで、2019年と2020年の合計Web訪問数を比較したところ、2019年には234億だったトラフィック量が、2020年で262億と、約12%上昇した。
特に、ペット関連商品の訪問数伸び率が高く、なんと2019年度から81%増となった。ホーム&ガーデニングや食料・飲料品の割合、ファイナンスが後に続いたが、その背景は巣ごもり需要によるものだと想定できる。
「年々EC化は進んでいましたが、2020年はEC事業者にとって追い風が側面があったといえます」(平良氏)
乱立するECサイトから自社を選んでもらうには?
2020年は市場が伸長した年である反面、ECサイトが乱立したことで消費者に自社のECサイトを選んでもらうことが困難になった年でもあった。この課題をどうしていくべきか?
購買者のジャーニーをすべての段階で最適化していく必要がある。そのためにデジタルインテリジェンスソリューション「Similarweb」が有効だと平良氏はいう。
Similarwebはトラフィックの増強を支援するツールだ。世界中のあらゆるWebサイトやアプリの行動データを使用し、独自の手法で算出した指標によって競合他社やオンライン上のトレンドをリアルタイムに分析可能できる。
具体的に、Similarwebは次の4つの価値を提供するという。
- SEOやPPC広告の戦略をレベルアップ
- 消費者ニーズの把握
- クロスショッピングの状況を明らかに
- ファネルを最適化しコンバージョンへ
1.SEOやPPC広告の戦略をレベルアップ
競合や大手リテールサイトに質の良いトラフィックをもたらしている流入キーワードの分析や、広告、アフィリエイト、マーケティングチャネルを把握可能。過去24カ月のトラフィック量やトラフィックシェア状況なども確認できる。そのため、SEOやPPC広告の戦略を強化できる。
2.消費者ニーズの把握
自社ECや競合サイト上で売れ行きが好調な商品を特定したり、サイト内検索を分析して引き合いの強い商品やブランドを見つけたりできる。見られる指標は、アイテム数、売上金額、閲覧数の指標など。自社ECのデータだけではわからない広い視野からの、戦略立案や商品企画を実現する。
3.クロスショッピングの状況を明らかに
サイトの訪問者が他のどのサイトでクロスショッピングしているかを把握したり、認知から購買にいたるまでのジャーニー全体を追跡したりできる。サイト訪問数から自社に対する貢献度も計測可能だ。自社ECサイトのみを利用しているユーザーが多いほど、ロイヤリティユーザーの割合が高いといえる。
4.ファネルを最適化しコンバージョンへ
マーケティングチャネルや商材全体で、競合のコンバージョンレートの把握ができる。サイト訪問数とコンバージョンされた訪問数をもとにコンバージョン率を算出。同じユーザーが月にコンバージョンする数で定着度も確認できる。
「このような形で各モールやECサイト分析をすることで、競合やマーケット全体の状況がどうなっているかを分析することが可能です」(平良氏)
Similarwebで振り返る2020年ファッション業界
平良氏は続いて、Similarwebのデータを実際に用いてファッション業界のEC事情について深堀して見せた。
業界全体では、新型コロナウィルス感染拡大の影響で店舗閉鎖、時短営業、人出減少という厳しい状況に置かれている。通常ならば商戦期である12月の売上も、帝国データバンクのアパレル上場企業を対象とした調査(2020年12月分)によると、約8割の企業が前年を下回った。
しかしながらECだけの売上で見ると、前年と比べ軒並みパフォーマンスが向上している。店舗へ行けない分、顧客がオンラインに移行していると予想できる。
Similarwebでも、アパレル系ECサイト売上上位100社の2年間のトラフィック推移(2019年1月~2020年12月)を見ると、トラフィック量が1.2倍に伸びていることを確認できる。
特にモバイルからの流入が1.23倍と大きく伸びたが、デスクトップは1.03倍とほぼ横ばいであった。
100サイトのトラフィックシェアをグラフ化してみると、ZOZO、ユニクロなどの上位10サイトがシェアを落としている一方で、他のサイトがシェアを伸ばしているのがわかる。
その原因を平良氏は、次のように分析する。
「上位サイトをそれぞれ分析してみたところ、トラフィック自体は落としていませんでした。つまり、下位サイトの伸び率が高かったです。そこでSimilarwebを使って見てみると、上位10サイト外のGUが急速にシェアを伸ばしていることがわかりました。そのため上位のシェアがシュリンクしたと考えられます」(平良氏)
では、このようなデータを使って具体的にどのような施策を打っているのか。事例としてユナイテッドアローズ 第二事業本部デジタルマーケティング部 部長の柚木園 顕豪氏がSimilarwebの導入から活用、成果を語った。
導入から約半年で成果、ユナイテッドアローズの事例
柚木園氏は服と雑貨アイテムを取り扱う「green label relaxing」、「THE STATION STORE UNITED ARROWS LTD.」をはじめとしたブランド事業、オンラインストアの運営とWebマーケティングを管轄している。
Similarwebを導入して約半年となるが、導入前は自社で運用しているECサイトの売上シェア拡大が大きな課題だった。
「緊急事態宣言によってECでの売上アップが喫緊の課題に変化しました。それに伴い、Webトラフィックの競合比較での可視化が必要だと考えたのです。Similarwebを選んだ理由は、業界や競合を含めて総合的に自社と比較分析できる点です。他のツールも検討しましたが、SEO対策に関しても一緒にパッケージ化されていて、全方位的にカバーしていることも最終的な決め手となりました」(柚木園氏)
導入後は柚木園氏を全体統括とした4人体制のチームで活用を開始。日常業務にSimilarwebを組み込むために、「誰が」「いつ(頻度)」「ビジネス目標/KPI」「どんなデータを抽出してアクションを行っていくか」を明確にしたワークフローを設定し、早くからパフォーマンスを向上させていったことが良い成果につながったという。
自社分析だけでは見えない「相対的な視点」が戦略に不可欠
では柚木園氏は実際にどのような分析を行い、その結果どうアクションしてきたのだろうか。講演では3つの事例が紹介された。
1つ目は、「最適なチャネルの把握とチャネルごとの最適化」だ。
競合比較分析を行ったところ、他社と比べて自社のディスプレイ広告の投下量が明らかに足りないこと、SNSからの流入比率も少ないことが判明した。
「それまでに多少なりとも競合分析をしていたのですが、Similarwebを使って確認したところ、他社が想定より大幅に広告出稿していた事実に驚きました。今はそれをもとに自社の投下量の判断ができるようになりました」(柚木園氏)
2つ目は「ユーザーの流入キーワードと自社サイト内の使用ワードの乖離」だ。
たとえば、自社のサイトでよく使っていた「スタイリング」というワードが一般ユーザーには使われておらず、代わりに「コーデ」というワードを使っていることが、流入キーワードから読み取れた。そこで、変更可能なものから修正対応していった。
同様に商品名においても、ユーザーが検索するワードと乖離していてショッピングの際に検索で表示されない事態が起きていた。その修正にも現在取り組んでいるところだという。
3つ目は、「ユーザーのサイト訪問動機、求めるものの発見」だ。
ユナイテッドアローズでは自社ECのほか、外部のショッピングモールにも出店している。それぞれを分析するとサイトごとに特色や流入キーワードが異なっていることがわかった。各サイトのユーザーがそれぞれ何を求めて訪問しているのか、異なるニーズに合わせてどのような商品を揃えるべきかが見えてきた。現在、各サイトのニーズに合わせた対応を始めているところだという。
データ分析の習慣化とスピード化でさらなる成長狙う
活用の結果、導入からわずか半年ほどで確実な成果が出ていると次の数字を柚木園氏は示した。
- 売上・トラフィック共に135%の伸び
- ディスプレイ広告とSNSのトラフィックの伸長
- データ分析の習慣化
「今後さらなる成長を目指す心づもりでおりますが、現時点で売上とトラフィックが135%増加しました。さらに、ディスプレイ広告やSNSトラフィックも大きく伸長しています。これは、SimilarWebによってインサイトを得て対策した結果だと考えています」(柚木園氏)
また、取り組みを進めていく上で一番重要だと感じたのはデータ分析の習慣化だと柚木園氏は考える。
「早いスピードでPDCAを回し調整していくことで、ツール導入による改善の実感をすぐに得られました。この習慣化とスピード化の継続が大切だと思います」(柚木園氏)
加えて、競合分析によって自分たちを相対的に見られるようになった点も大きな変化だと柚木園氏は話す。Similarwebの導入により身についたスピード感で今後はトラフィックのシェアの上位を占めるオーガニックの流入とダイレクトの流入への対策を進めていく予定だという。
これを受け平良氏は、「自社の分析で見えてくるものもありますが、競合分析によって相対評価がいかに大事かを実感される導入企業は多いです。自社・競合・業界全体で分析、ベンチマークしてはじめて見えてくるインサイトが多数あるので、引き続きデータを抽出していただきたい」と語り講演を締めくくった。
購買形態においても急速なデジタルシフトが進む現在、適切なデータを収集し相対的な分析・対策ができているか否かが企業にとってこれからの成長を左右する。文章にすると当たり前に見えるが、行動に移せている企業の数はどれほどだろうか。
これを機に、自社のECはどうなっているのか改めて考えてみるのもいいかもしれない。