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フェリシモ「クラスター&トライブ戦略」に学ぶ、マーケティングDXの取り組み方

 本記事では、フェリシモでRPA活用を推進する吉川氏と、マーケティングオートメーション(以下、MA)の運用保守を担当する大澤氏、そして、同社のマーケティングDXを支援するブレインパッドの近藤氏にインタビュー。コロナ禍の中、成長を見せるフェリシモが掲げる「クラスター&トライブ戦略」、そして同社が展開するマーケティング戦略の詳細が明らかになった。

フェリシモ成長のカギを握る「クラスター&トライブ戦略」とは

MarkeZine編集部(以下、MZ):御社は現在クラスター&トライブ戦略を掲げていますが、クラスター&トライブ戦略がどのようなものか、そしてなぜクラスター&トライブ戦略を掲げているのか教えてください。

株式会社フェリシモ 経営企画室 広報部 部長 兼 MC基盤統括グループ 業務基盤G Gリーダー
吉川 貴志氏

吉川:クラスター&トライブ戦略は、フェリシモが目指す「ともにしあわせになるしあわせ」というコアバリューのもと、「ニッチではあるが確実にファン」である人に寄り添いながら商品やサービスを提案する戦略です。

 フェリシモは以前はカタログを中心にビジネスを展開してきましたが、生活者の嗜好性が細かくなってきていることに合わせて、細分化したコミュニケーションを大切にした活動へ移ってきました。デジタルマーケティングの浸透によってお客様に寄り添った施策が行える環境が整ってきたことも、この戦略の後押しになっています。

MZ:では、クラスター&トライブ戦略のもと、どのようなマーケティングを展開してきたのか教えてください。

吉川:クラスター&トライブ戦略では単にニッチなものを提案するだけではなく、独自性のある新しい価値提案を行っています。各個人の喜びの源になるニーズをしっかりと切り取って、そこからマーケティングを展開しています。

 クラスターを設計する上で重視しているのは「フラッグ」を立てることです。「ともにしあわせになるしあわせ」のコアバリューのもと「こんな社会を作りたい」というフラッグを立てた上で、クラスターを築いていく。顧客に対して、一緒になって未来作りに参加する機会を提案していきたいと考えています。

近藤:フェリシモ様は、クラスター&トライブ戦略を目指す過程で、デジタルマーケティング戦略においても段階的に進化を遂げていると感じています。パーソナライズ施策は、大きく以下の4段階に分けられると思います。

【第1形態】デモグラフィック×購買データ=「A」→レコメンド(機械学習化)

【第2形態】「A」×行動データ=「B」→パーソナライズ(デジマの進化)

【第3形態】「B」×嗜好データ=「C」→パーソナライズ(マーケターのこだわり)

【第4形態】「C」×共感=「D」→パーソナライズ(企業と社会との接合)

 最初は「デモグラフィック情報」と「購買情報」を掛け合わせたレコメンドを実施し、その後「行動データ」を掛け合わせたパーソナライズに移行してきました。

 さらに、クラスター&トライブ戦略によって「商品嗜好性」を基点にマーケターの思い・こだわりを組み込んだパーソナライズを行えるようになりました。そして現在は、「こんな社会でありたい」というフラッグを立てて、共感を生むパーソナライズを行っていくという新たな取り組みをされていますね。

 この裏には、データクレンジングを含めた「データサイエンス」が必要となってくるので、今後より一層「CDPで蓄積するデータの価値」が高まってくると思います。

株式会社ブレインパッド マーケティング本部 本部長
近藤 嘉恒氏

CDPを「ECコンテンツ&メールDM」のパーソナライズに応用

MZ:フェリシモではブレインパッドのCDP(カスタマーデータプラットフォーム)「Rtoaster(アールトースター)」とRPA「Brain Robo(ブレインロボ)」の活用を進めているとのことですが、どのように活用を進めているのか教えてください。

株式会社フェリシモ MC基盤統括グループ WEB基盤グループ 係長
大澤 美里氏

大澤:Rtoasterに関しては、基本的にEC上に掲載しているコンテンツとメールDMのパーソナライズに活用しています。商品データ、顧客データ、顧客ごとのお買い物ステータスなどを組み合わせて、ECサイトであればおすすめ商品やキャンペーンバナーの差し込み、メールDMに関しては条件に合わせたクーポンバナーやカタログ紹介、おすすめ商品の差し込みに利用しています。

 メール運用ではHTMLの準備を、これまでは制作会社にお願いして進めていたんです。Rtoasterの機能を活かして運用するスタイルに切り替えたことで業務の内製化ができるようになりました。これによって、自分たちのペースで業務を進められることができ、スピード感も速く、制作費も抑えることができるようになりました。メールに差し込むバナーだけでなく、デジタルカタログのデータを商品データとしてRtoasterに連携して活用しています。

近藤:やはり「マーケターの運用負荷の解消」はツール活用を考える上では重要ですよね。もちろんROIやKPIの改善が最も大切ですが、そのために大きな運用負荷がかかってしまっては持続可能性は低い。最近のデジタルマーケティングは、目的が異なる「複数のツールを運用」することが多いです。その際「コンテンツを2重に登録しなければならない」という運用課題は密かにマーケターを悩ませています。

 フェリシモ様では、RtoasterをCDP・パーソナライズツールとしてだけではなく、CMS(コンテンツマネジメントシステム)として応用して活用されています。顧客データだけでなく、コンテンツやバナー、商品情報やキャンペーン掲載情報などをRtoasterに投入することで、「コンテンツ配信業務をコントロール」しています。

 この運用は我々も想定してなかったので、フェリシモ様に教えていただいたおもしろい新たな機能活用法だなと思いました。

部署を越境した業務プロセス改善にも着手

MZ:RPA「Brain Robo」の活用についてはいかがでしょうか。

吉川:Brain Roboに関しては、業務プロセスの改善と効率化を目的に活用しています。弊社では複数のITシステムが多数存在し、システム間の連携を人の手で行うなど「日常的な業務が煩雑化する」という課題が頻出していました。これにより、業務の属人化が進み、システム同士の連携も難しい状態でした。

 システム導入によってある特定の業務自体が単純化されても、システムへの情報入力のためのファイル形式変換やシステム間の連携などの業務を行うのは結局“人”でした。弊社の社員がその単純作業をやり続けることが果たして正しい姿なのか。思い悩むことが多くありました。

 そこで、属人化した業務をRPAが代替できるようなオペレーションを構築すべく、全社横断型プロジェクトチームを発足し、ブレインパッドさんとも協力しながら、様々な業務の効率化、自動化を進めてきました。たとえば、商品データの自動登録、カタログやWEBサイトの自動校正、販売実績データやお客さまアンケートの自動集計の手助けなど様々なシーンの業務をRPAによって自動化できています。

RPA導入がもたらしたメリット

MZ:近藤さんにうかがいますが、RPAの導入はマーケターにとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

近藤:吉川さんの話にもありましたが、マーケティングDXを推進する上で欠かせないCX(顧客体験)とEX(従業員体験)の両方を向上させる“きっかけ”ができる点です。DXを推進する際はCXを改善することに目が行きがちですが、フェリシモ様は社内プロセスの改革を通じてEXにも着手されました。様々な属人業務をデジタルの力で代替し、業務負荷の低減で生み出した時間を「顧客に寄り添う施策アイデア」のワークに充てています。

 また、マーケター個人の「仕組み構造力」が鍛錬されるなと思います。RPAの導入では、「デジタルとヒトが担うべき役割の分別」を行うため、自身の業務自体を俯瞰して設計する「仕組み構造力」が養われます。

 デジマツールが複雑に絡む時代に、仕組み構造力を持っていることは、マーケターとして非常に価値が高い。今後、この能力の有無がキャリアパスの中で差別化となる時代が来るのではないかとも感じています。

年間数千時間の業務時間を削減

MZ:RtoasterとBrain Roboの活用とクラスター&トライブ戦略によって、得られた成果を教えてください。

大澤:コロナ禍の巣ごもり需要も相まって売り上げ自体も好調です。「巣ごもり需要」の課題解決というよりも、コロナ前から実施していたクラスター&トライブ戦略の実施が成果につながっているのだと実感しています。

 物販サイトによくある「購買しやすさの追求」の運用ではなく、お客様の嗜好に沿った「特集コンテンツ」を読みものとして組み入れています。買い控えする顧客に対する割引オファーではなく、メディアとしてファンになってもらい、興味のあるコンテンツに純粋に反応し、訪れてくださった顧客からの購買が増えたことが成果だと感じています。

 まさしくこれは「ダイレクトマーケティングの総合力」が実っていると思います。それを日々実現するための運用基盤として、RtoasterとBrain Roboが支えてくれています。

吉川:Brain Roboに関しては、2019年3月~2020年2月で属人的な業務時間を計3,300時間削減、2020年3月~2021年2月で計7,600時間削減と、業務プロセスの効率化に非常に役立ちました。一度作ったロボットは翌年度以降も「継続&安定」して動き続けてくれるので、効果が年々累積できています。

 また何より、このコロナ禍で「非常時における事業継続の重要性」を改めて感じました。2020年4月から6月の緊急事態宣言の際は、スタッフの在宅勤務を余儀なくされました。

 ですが、アカウントIDごとにキャラクター化した社内ロボット「フェリシモこびと隊」による業務シナリオの自働化のおかげで、リモートワーク下でもいつもと変わらず安定した業務の自動運用が実現できました。

 当たり前ですが、「ECはいつでもどこでも購入」できますが、その運用を担うのは地道にいつも積み重ねている「フィジカル業務」です。お客様がご自身の暮らしで必要とされる商品をお届けするためのサービスを安定して提供し続けること、このような不測の事態が起きても持続可能な状態で事業を続ける大切さをRPAの自動運用の存在で改めて実感しました。

近藤:日頃の業務改善を多忙にかまけて煙たがらずに、喫緊課題として捉え直して向き合うことの重要性、すなわち「不測事態の未然対応」の大切さを、このタイミングだからこそ気付かされますね。フェリシモ様がコロナ禍でも成果を出せた秘訣がわかり、とても参考になりました。

ECリニューアルでさらなるパーソナライズを

MZ:最後に皆さんから今後の展望をお話しください。

大澤:2022年の春「EC基盤のリプレイス」を予定しております。目下、さらなる高みを目指した施策を検討していますが、そこではさらにRtoasterをフル活用していく方針です。

 マーケターとして、「商品担当の現場からの期待」と「消費者からの期待」の2つの期待に応えていく中で、日常の「EC運用」で多忙に追われてしまいがちです。ですが、RtoasterやBrain Roboによって、日常の繰り返し業務の自動化ができることで、キモチの負担を下げてもらっているので、新たな取り組みにいろいろ挑戦していきたいです。

 そのために、RPAに関しては「保守運用の整理」が目下の課題です。私以外にもロボット作成ができるスタッフを育成中なので、さらにスケールさせてRPAによる業務効率化を推進し、社内の皆さんのお手伝いができればと思っています。

吉川:RPAに関する推進役として、基本的な活用の仕方や効果を得るための進め方を、皆さんによりわかりやすく理解できるようにして、安定的な運用を目指したいです。

 ツールはあくまでツールであり、結局は「人」がそれを「何のため」に、「どのように」使うのか、にかかっています。そのアイデアを出し続けることがいちばんクリエイティブなことで、そこから生まれた新しい価値を生み出すための活用を推進します。そしてそのことが、お客様の豊かでしあわせな暮らしにつながっていくことを強く願っています。

近藤:クラスター&トライブ戦略は、「顧客を深く知る」ために非常に有用な戦略である一方、多様な設計と検証が必要となるため、「施策の肥大化=業務負荷の高まり」が一番懸念していたところだったので、「これが滞りなく回ること」が実現できたのは、ブレインパッドにとって、何よりも成果です。

 Rtoasterは多様な機能群で構成されているので、適用箇所が増えれば増えるほど効力を発揮するツールです。あらゆるところでパーソナライズ施策が設計され、フェリシモ様の顧客が「いつもワクワク」したキモチでECを眺めていただける、そんな体験をデータサイエンスの力で作っていけたらと思っています。現在、新たなアルゴリズムの実証検証も一緒に取り組んでいますので、それを一日も早く実用化できたらと思っています。

 また、DXが昨今のトレンドになっていますが、フェリシモ様には“デジタル化の在り方”をあらゆる角度から学ばせていただいてます。「ヒトにしかできない業務」へのこだわりや、「ヒトらしい温かみのある取り組み」を、吉川さんたちと議論を重ねて、EC業務のみならず、「社内全体のDX」として進めるお手伝いをしていけたらと思っています。

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この記事の著者

MarkeZine編集部(マーケジンヘンシュウブ)

デジタルを中心とした広告/マーケティングの最新動向を発信する専門メディアの編集部です。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2021/06/14 10:00 https://markezine.jp/article/detail/36286