広告だけでなく、より根本にあるユーザー体験から見直し
コンバージョンAPI(以下、CAPI)は、Facebook社によるCookieレス時代に対応した広告計測・最適化ソリューションです。本記事では「楽天トラベル」の事例から、実装の効果とポイントをお伝えします。
取材にお答えいただく方
楽天グループ 藤巻勇飛氏
同社 曳地厚紀氏
同社 Zhang Chenyao(チョウ シンギョウ)氏
Facebook Japan 横溝智久氏
――はじめに、「楽天トラベル」の事業概要と、昨今のCookie規制への対応についてお聞かせいただけますか。
藤巻:当社が運営する旅行予約サービス「楽天トラベル」は、「旅行を通して人々の生活を豊かにする」というミッションを掲げ、サービスを提供しています。そのミッションのもとに、オンラインで最適な旅行体験をどう届けるかという話があり、さらにそれを実現する手段として広告があります。
そんな考えを持っているので、広告ありき、Cookie対策ありきではなく、「プライバシーに配慮しながら、いかにユーザーに良い体験を提供するか」というより根本的なところから、見直しを進めてきました。
一つの方向性としては、「楽天市場」をはじめ多数のサービスを展開し、楽天経済圏(エコシステム)を形成している楽天グループの強みを活かして、経済圏の中で各サービスのユーザーに相互にアプローチする取り組みを進めています。会員ステータスによってオファーの内容を変えるといった対応も、これに当たります。
一方でFacebookさんをはじめ代表的なプラットフォーマーとも、新しいアプローチを見つけるために、前々から話し合いをしてきました。そして導入を決めたのが、今回のCAPIです。
――なるほど。対策を取らなかった場合に起こりうる状況については、どのように予想していましたか。
Zhang:Cookie規制が強化されることで各種計測やターゲティング、自動入札最適化が制限され、それによって投資効果が正しく把握できなくなると予想できます。その反面、新しい手法やテストを取り入れられればビジネスチャンスにもなり得る。だからこそ、いち早く試してみたいと思いました。
曳地:私はデータサイエンスの観点で事業にかかわっているのですが、動き出しが早いほどデータが蓄積され、予測モデルを作りやすくなると考えました。規制によりCookieから得られる情報に欠損が生じる中で正値を見つけないといけなくなるので、今のうちからデータを溜めて、学習させておく備えは必要です。
CAPIで「守り」と「攻め」両方の施策を展開
――複数ある選択肢の中から、CAPIの導入を決めた理由を教えてください。
Zhang:更なるCookie規制強化によるデータの欠損対策という側面はもちろんのこと、それに加えて今まで計測できていなかったところを補完し、より正確に投資効果を把握できるだろうとの見通しが立ったことから、導入を決めました。また、提供されているオプションの中で実現性が最も高そうだったことも理由の一つです。
曳地:より精度の高いコンバージョンを得られることが、導入のモチベーションになりました。旅行予約はどうしても一定数キャンセルが発生してしまいますが、CAPIを活用することで、キャンセルを加味したコンバージョンを広告配信プラットフォームに送ることが可能になります。いま運用に向けて準備をしているところですが、データの精度を上げてより精緻な広告配信を目指せることが魅力でした。
――CAPIの特徴について、Facebook Japanの横溝さんから改めてご説明いただけますか。
横溝:お二人にお話いただいた通り、CAPIにはこれまでの広告効果を維持する「守りの施策」の側面と、より効果を上げようとする「攻めの施策」の側面があると考えています。
Cookie規制強化によって、従来計測・最適化に使われてきたFacebookピクセルが十分に機能しなくなることが予想されています。CAPIは、これにより生じたデータの欠損や、そもそも取れていなかったコンバージョン情報の欠損を補完することができ、守りの施策として機能します。
そして攻めの施策として導入する場合は、Facebookピクセルで取れていたものよりもファネルのさらに深い部分におけるコンバージョン情報をサーバーに送信することで、さらなる最適化を実現できます。
――今までの方法を置き換えるだけでなく、改善も見込めるのですね。
横溝:はい。たとえばBtoB業種を例に挙げると、Web上でできるのは資料請求までといったケースでは、ピクセルで計測できるのもそこまでです。しかし、実際にはそのあとで営業担当者からのフォローアップ電話、契約といったプロセスが続いていきます。このようなケースにおいて、ピクセルではフォローアップ電話がつながらない利用者の資料請求もコンバージョンとして計測されてしまうため、それで配信を最適化してもフォローアップ通話率があまり良くない、ということが起きてしまうことがあります。
一方、CAPIを使うと、コンバージョン情報としてフォローアップ通話イベントを送ることで、そのイベントに最適化するという仕組みを構築できます。先ほど曳地さんがお話しされたアイデアも、同様の考え方で実装しようとしているものです。
CAPIとFacebookピクセルの違いをより詳しく知りたい方は、こちらの記事をチェック!
エンジニアとの協働で、高度なデータ連携環境を構築
――では、導入が決定してから運用開始までの様子をお聞かせください。
曳地:マーケティングチームのエンジニアとインフラチームが共同で進め、要件定義からはじまり、開発、テスト、本番実装を経て運用を開始しました。 コロナ禍の影響で予約数の増減幅が通常時と比べものにならないほど大きく、過少・過大評価を避けるため、適切なテスト実施時期を選ぶのに苦労しました。逆にその他の工程は、順調に進んだ印象です。
当社にはマーケティングの知識を持ちつつエンジニアとしての役割を担う「マーケティングエンジニア」がいるのですが、実装にあたっては彼らの存在が大きかったです。大きなインフラが必要になったときに、どの部署とのやり取りが必要でどんな工数がかかるのか、そしてフィジビリティ(実現可能性)を見極められるスキルセットが備わっており、今回も、進行を円滑にする大事な役割を担ってくれていました。
横溝:「楽天トラベル」さんの場合は、マーケターとエンジニアが深く連携し、データ送付の環境をしっかりと構築いただいたことが、後程お話しする高い成果につながっていました。
というのも、CAPIの仕様では、広告主側でオプトインの取られたユーザーのアクションデータを、1時間以内に送信していただいた方が良いのですが、導入を決めた時点では24時間に1回しか連携できていない状態で、開きがあったのです。それを「楽天トラベル」さんのインフラチームが中心となって対応してくださり、実装時にはほぼリアルタイムに送付できる状態まで改善されていました。
導入によって“漏れていたCV”の計測が可能に
――今回の取り組みによって、どのような結果が出ていますか。今後に活かせる示唆や発見があれば、合わせてお話しください。
Zhang:CAPI導入後、計測できた予約流通数(キャンセルが反映される前の流通総額)が約1割増加しました。想定通り今まで漏れていたコンバージョンが計測されたと見られます。投資効率の改善に役立っていることもわかっており、将来的にCookieレスの時代が到来したときの対応の方向性が見えてきました。この知見を活かすことで、他の媒体の対策にもつながると思います。
藤巻:今回の成果が良い事例となって、「楽天トラベル」以外の当社事業への展開にも貢献できると考えています。
ただし冒頭でもお伝えしましたが、CAPIの導入が目的化してはいけません。大事なのは導入によって何を達成したいか、どんな顧客体験を提供したいかという考えがあってこその手法です。今後他で展開する場合も「なぜそれをするのか」を、常に考えていきたいと思います。
――Facebook社としては、今回の結果をどのように見ていますか。
横溝:これだけの改善が見られたというのは、CAPIの導入を進めてきた当社としてとても嬉しいです。
そして先ほどデータ送信のタイミングが高い成果につながったとお話ししましたが、もう一つの要因は、サーバーに送信するデータ量をできる限り増やしていただいたことです。当社では、これが成果のさらなる底上げにつながったと分析しています。
「送信するデータ量」によって、CV計測数に17%もの差が
――データ量と成果の関係について、詳しく教えていただけますか。
横溝:CAPIでコンバージョン情報を送信する際には、利用者のプライバシー保護の観点から、広告主様側でオプトインの取られた情報のみを送信いただいております。その際に、可能な限り送信いただくデータ量を増やすほどシステムが学習し、より最適化の精度が高まります。
そのためデータ量を増やすべく、我々もサポートに入りながら検討を進めていったのですが、非常に前向きに取り組んでいただいたおかげで、かなりデータを増やすことができました。
今回データを増やした場合と、増やさない場合のA/Bテストを実施したのですが、最終的に増やした場合のCV計測数は17%増、CPAは15%削減とかなり差が開く結果でした。
アッパーファネルでの活用が次のミッション
――Cookie規制への対応はこの先も継続されることと思います。今後の展望や、今回のお取り組みを踏まえた学びについてお話しください。
藤巻:Cookie規制のみならず、今後もアドテクでは新しいテクノロジーや思想が生まれると思います。めまぐるしく変化していく時代において、顧客体験を最大化させていくために重要なのは、我々が必要な変化に適応していくことです。今後も前例のない課題に対して積極的に取り組んでいくことによって、社内の学習のスピードも早めていきます。
曳地:今回の取り組みを通じて、Cookieレス時代が到来した後も今あるデータを使って正確な予測をしていけると確信しました。
ですがCAPIを実装したらそれで終わり、ということではなく、今後もユーザーが最も安心できる形で広告配信できるよう、新しいソリューションの模索と実践を継続していきたいです
Zhang:これまで私が所属するチームでは、Facebookでの広告配信をロウワーファネル向けのものとして活用してきました。ですがこれからは視点を変えてブランドチームと連携しながら、アッパーファネルにおいても有効に使っていきたいと考えています。
横溝:当社では、プライバシーとパーソナライズされた広告は必ずしも対立しないと考えています。どちらも両立させた上で、広告主様と利用者に価値提供できる取り組みを続けていきます。
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