加速するユーザー層の拡大
ここ数年で変わったこととは、一体何でしょうか? もちろん新型コロナウイルスの影響も無視はできません。しかし筆者は、新型コロナウイルスは変化を加速させてはいるものの、本質的な変化は別のところにあると考えています。それは「ユーザー層の拡大」です。
高齢者層のインターネット利用が加速/前提の再考が必要に
例えば、2020年7月に三井住友カードが公開したレポートでは、高齢者層によるネット利用が増えていることが見て取れます。これは新型コロナウイルスがなければ起こらなかったことではなく「本来はもっと時間がかかるはずだった変化が、この1年間で一気に進んだ」と見るのが妥当でしょう。
ユーザー層が広がると、オンライン上の体験設計を一律で済ませることは難しくなります。弊社が取り組んだ施策でもその変化を表す事例がありますので、ご紹介しましょう。
上の図は、通称「ハンバーガーメニュー」と呼ばれる三本線のアイコンに吹き出し型のポップアップを表示して「クリックすると商品一覧が開く」ことを伝えています。読者の皆さんは「そんなことはわかってるよ!」と感じることでしょう。
ただ「ハンバーガーメニューを一度もクリックしたことがないユーザー」を対象にこのポップアップを表示する・しないのABテストを実施したところ、表示したグループは表示しなかったグループと比較してCVRが25%向上しました(CVは購入)。
この結果はお客さまにも驚かれたのですが、ユーザーの幅が広がることで、これまでは体験改善の仮説立案の段階で考慮されていなかったような前提もあらためて見直す必要がある、ということを象徴する例といえます。マーケターの皆さんにとって当たり前のことが当たり前ではないユーザーにとって、不案内な体験のままでは問題を自己解決できず、結果Webサイトを離脱してしまうのです。
受動的な体験に慣れている若年層/体験設計のカギは「手間を省く」こと
一方で「デジタルネイティブ」と呼ばれる若い世代も、従来マーケターが当たり前としていたような行動を取らないことが多々あります。
私的な例で恐縮ですが、筆者には小学校高学年の娘が2人います。3歳くらいからスマートフォンに触れているのですが、彼女たちにとっての「ネットサーフィン」とは、YouTubeやTikTokがレコメンドしてくるコンテンツを受動的に選択するという行為にほぼ集約されてしまっています。
こうしたユーザーは、問題を自己解決しようと思えばできるのですが、面倒を嫌うため主体的に「探す」という行動は取りません。Webサイト内できちんと説明されていても、手間がかかりそうだったり、ぱっと見で理解ができなかったりすると、嫌になって離脱してしまいます。
こうしたユーザーに対しては「目的のものを探す手間をいかに省けるか」という体験設計を意識する必要があります。
ユーザーに合わせた最適な体験を複数想定/パーソナライズをより広義に捉える
ユーザー層が変われば、当然仮説の立て方や検証の方法も変わってきます。ここでは極端な例を挙げましたが、Webサイトを訪れるユーザーの多様性が高まるにつれ、1つの仮説だけで検証を進めても、まったく当てはまらないユーザー層が出てきてしまうということがどんどん起こりやすくなっていきます。
今後は、性質の違うユーザー層を複数想定し、それぞれに応じた最適な体験が何かを考えた上で仮説と検証のサイクルを回していくことが大事になります。広く言えば「パーソナライズ」と呼ばれる取り組みに相当しますが、パーソナライズをより広義に捉えることが重要です。