「価格差別」を行うことで収益は拡大する
ほとんどの市場において顧客が完全に同質ということは滅多になく、ニーズをいくつかに区分することができるでしょう。それらの異なるニーズはそれぞれのPayableを持っているため、価格も異なるものを提示するというのが価格差別と呼ばれる戦略です。
差別という言葉にたじろぎますが、特にネガティブな意味はありません。ニーズを見分けて価格を出し分ける、くらいに覚えれば大丈夫です。価格差別に取り組むことで、単一の価格で販売するときに比べて、より多くの収益を得ることができます。その理由をグラフで説明します。

前述の通り、売上は[販売数×価格]で決まります。左のグラフでは単一の価格によって販売数が決まり、その掛け算の面積で売上が表されます。しかし、より高い価格でも購入するつもりだった顧客からは価格の機会損失があり、より安ければ購入した潜在顧客に対しては数量の機会損失が生じています(グラフの三角形の部分)。これに対し、右のグラフでは3段階の価格を設定しており、それぞれから収益を得ることができています。その面積の合計は単一価格のときよりも大きなものとなっています。この差が、価格差別のもたらすインパクトです。
具体的な例を挙げましょう。サプリメントや洗濯用洗剤などは、大容量のものほど割安に設定されている場合があります。一人暮らしには大きすぎますが、ファミリーで買うなら大容量のほうがお得です。コンビニで少量を買う場合と、ホームセンターでまとめ買いをするときの価格も差がついています。BtoBの取引でもボリュームディスカウントと呼ばれる割引は一般的で、これも価格差別の一種です。予め商品やサービスのバージョンや量ごとに違う価格をつけておくことで、買い手に自分にあったものを選んでもらうことができます。
映画館やテーマパークで、「学割」や「子供料金」が設定されているのも価格差別の一種です。また、鉄道の運賃も、毎日乗車する人に向けては定期券で、ときどき乗る人はきっぷ、観光客に向けては1日券など、同じ交通サービスでもニーズによって異なる価格が設定されています。これらは、区別しやすい買い手の属性で価格差別を行っている例です。
価格差別自体は、経済学の世界では20世紀前半から提唱されてきたものでした。しかし、個別に価格を変えて提示することができる環境や、コスト、難易度の高さから、一部の業界等での限定的な活用に留まっていました。
それが、近年ではプライステックと呼ばれるツールの登場によって、多くの業界や商品でも取り組めるものになってきました。その一つであるダイナミックプライシングについて次回は紹介したいと思います。