罪悪感のない消費を目指す「リリーフショッパー」
林氏はさらに例を挙げる。2つめは「リリーフショッパー」である。このトライブは、たとえば家族全体の1ヵ月のゴミをゴミ袋1袋分くらいに抑えるなど、極端に意識高く環境問題に向き合ってライフスタイルを作っている人々だ。
SDGは、このトライブから「2030年の消費者は環境に対して悪影響を与えず罪悪感のない消費を目指す」と予測する。

昔のエコは金銭的実利とセットになっていた。太陽光発電も電気自動車も自然環境への配慮はさることながら「お金が浮く」から取り組む人も多かった。
林氏は「おそらく今後は金銭的実利があるから環境に優しい商品を選ぶという考え方から、一人の消費者として責任感が生まれ、多少お金や手間がかかっても環境保護に貢献するような行動を選ぶといった考え方を持つ人が増えていくと考えられます」と話す。

生活のため、消費をやめることは現実的に考えて難しい。しかし大量消費には限界を感じている。だからなるべく新しい商品を買わず、故障のタイミングをむしろアップグレードへのチャンスと捉えて対応する。パソコンなど経年劣化するものでさえ、修理や更新ができる「アップグレータリティ」を重視し、古くなった部分だけを新しいものに入れ替えて長く使っていく考え方だ。
事例として、アパレルメーカーのパタゴニアが挙げられた。同社は自社製品を修理したり、消費者から回収・リサイクルして販売したりしている。「おもしろいのは、リサイクルの結果、デザインが独創的でオリジナリティあふれるものになっているところです」と林氏は語る。

これからは「耐久財以外の商品でも、長期間使い続けることができるという特徴が求められるのではないか」と林氏は仮説を立てる。パタゴニアのように、“修理ができる。修理を通じて愛着が湧く”というような視点で考えると、相性のよい製品分野においてはおもしろい発想が生まれるかもしれない。

病気になる前からケアしたい「プレプリベンダー」
3つめは「プレプリベンター」。SDGの「2030年の生活者は、毎日、楽しみながら予防行動を取るようになる」という予測を実践するトライブだ。

このトライブは、個人に合う予防行動「My Prevention」の欲求を持ち、30~40代のうちから病気の予防行動に励み、老化や将来の病気に備えている。予防にお金をかけるほうが効率的で、病気の治療費よりもコストが抑えられるという考えだ。もちろん自分のためもいい。だから虫歯がなくても歯医者にも行き、定期検査もする。腸内フローラに関心を持ち、腸内環境を整えることで免疫力の向上をはかるなど、いいと思う方法はいろいろと試している。
スマホやIoTデバイスなども活用し、自分の生活にあうウェアラブルデバイスで日常的に歩いた歩数や心拍数などを測定して日々の数値を管理したり、デバイスからのフィードバックを受けて行動を変えたりする。
医療技術の発展で、今は遺伝子情報から個人の病気リスクがわかる。「長期的には、自分の体質やライフスタイルに合うようカスタマイズされた予防行動を生活に取り入れるようになる人が増えていくのではないでしょうか」(林氏)
商品やサービス開発に活かす視点でいうと、アメリカでは既に予防に特化した月額制の病院がある。また菌活に着目し、コーヒーのかわりに菌類が豊富に入る飲料もでてきている。
このインサイトを基に、「最適な予防行動を楽しんで継続できる一人ひとりの健康に即した○○とは?」という視点からも、新たなアイデアが生まれそうだ。

最後に林氏はまとめとして、「トライブというと専門用語のように聞こえて意味が分かりにくいですが、自社業界の外で注目を集めている商品や人気のサービスの情報を目にしたら、それらの商品やサービスを熱烈に支持をしている人は誰なのか? その人たちはどんな価値観を持っているのか? と想像してみると、顧客の変化や機会に気づくことができるのではないでしょうか」と述べ、講演を終えた。
