少し先の未来を教えてくれる、先進的な生活者たち
SEEDATAは、2015年に博報堂の社内ベンチャーとして生まれた「イノベーション創出支援組織」で、新規事業開発や商品開発支援などを行っている。そこからスピンアウトする形で2020年に生まれたのがSDGだ。
同社では、近未来の生活者動向を予測するために、先進的な消費者グループ=「トライブ(TRIBE)」を独自のアプローチで発見・定義。性や年代ではなく、共通した価値観で人々をセグメントして、着想の源もしくは初期顧客の想定として活用している。
「独特な価値観を持つトライブを観察・分析することで、商品やサービスの開発に示唆を与えるインサイトを得ることができます」(林氏)
トライブとは、マスユーザーの多くが抱えている潜在ニーズや課題を、既に何らかの方法で解決している先進的な生活者のこと。
マスユーザーは現状の生活に疑問を持っていない、もしくは疑問が顕在化してこないため世の中に対する不満を抱きにくい。反対にトライブは、現状の生活に対して「もっとこうしたい」という欲求と哲学を持っている。そしてその欲求を積極的に解決することで、より豊かな生活を実現している。
彼らには独自の哲学や明確な行動理由があるので、価値観を浮き彫りにしやすい。一見それは個人的な嗜好のようだが、そのインサイトには、多くの人にも当てはまる気づきがある。だからこそ数年後には他の人にも共通した考え方や行動が波及して、同じ考えをもつ人が少し増えると予想される。
しかし考え方が先進的すぎるがゆえ、現時点ではかなりエクストリームに見えたり、奇怪な行動に見えたりする。ただ、エクストリームユーザーでも先進的でないものはトライブとは呼ばない。
「生活者は、それぞれ違うコンテクストの中で生活をしているので、具体的な行動は各人によって変わる可能性が高いと思います。ですが、多くの人が共通して持つであろう価値観については、トライブを対象にした調査でアプローチすることが可能だと考えています」(林氏)
マスユーザーがぼんやり感じているけれど言語化できていない不満にも、トライブは敏感だ。そのためトライブをよく観察することで、マスポテンシャルのあるアイデアを発想することが可能になる。
トライブの行動から新しい価値観を見出す
林氏はトライブの例として、まず「ドクターシューマー」を紹介する。ドクターシューマーは、完全栄養食品やサプリメントを摂取して、普段の生活の中でかなり科学的に体調管理をしている人たちのことだ。彼らは完全栄養食品やサプリメントを、日常生活の中で細かく摂取する。その理由を尋ねてみると、下記のような回答が得られたという。
忙しい会社員などをイメージしてみてほしい。1日中、生産性高く仕事をしたいと考えていて、昼食時にパソコンの前で食事することもわずらわしいような人物。栄養は摂取したいが、満腹まで食べると眠くなる。その解決案として、1日の食事を8食に分け、プロテインシェイクのような完全栄養食で摂取しているのだ。
これをトレンド分析に応用して、SDGでは「これからは栄養補給と時間短縮のみにフォーカスした“義務食”と、食事体験全体を重視した“娯楽食”に二極化するのでは」と分析。「既にある捉え方とも思えますが、未来のコンビニが提供するべき娯楽食とは? であったり、未来のレストランが提供する義務食とは? など、この捉え方をもとにしてアイデアを想像したり、発展させていくことができます」(林氏)と語る。