分析課題は20年前から変わっていない?
ブレインパッドは2004年に創業し、ビッグデータを活用したサービスで企業の経営改善を支援する企業だ。膨大なデータを扱うデータ分析の専門集団として伊藤忠、ヤフー、電通など、日本のトップ企業と協業してDXを推進する他、企業のデータ活用を根本から支える取り組みを実施している。
プロダクトビジネス本部長を務める東氏は、「ビジネスデータの分析課題は20年前から変わっていない」と語る。予測分析ツールやMA(マーケティングオートメーション)ツールなど様々なツールを導入して分析するには、スキルや経験だけでなく、データやビジネスも含め全てを知る人材が必要だ。
しかし企業内では、組織の刷新やトレーニングを積んだ担当者の異動や転職によってゼロからスタートになってしまう。また、データ分析・活用に関してアウトソースする企業も多く、社内に知見が蓄積できていないケースも見られる。
そのため市場は、高額で属人的なツールを避けオープンソースを主体にし、日々のデータから実行する施策を自動化する等の方向へ流れている。「組織的な課題の解消には、育成した社員をずっと根付かせるか、プロセスを属人化せず自動化していくかのどちらかでしょう」と東氏は主張した。
短期間で必要なツールを連携させていくことが重要
米国では、ユーザー企業が極力カスタマイズせずにパッケージを組み合わせて、システムをスピーディーに立ち上げている。10ヵ月かけていたシステム構築をやめ、必要なツールを組み合わせて2ヵ月で取り組みをスタートするのだ。ツールの組み合わせはユーザー側の責任のため、主体的に行う必要がある。したがってユーザー側もスキルアップが必須だ。
さらに、以前はデータベースを作りBIで時間をかけてデータを見える化していたのも、API連携でDaaS(Desktop as a Service)を使うと2週間で展開できてしまう。このように、テクノロジーが社会や人々の行動を大きく変えていっている。
短期間でマーケティング施策を打って結果を出したいとき、システム開発をゼロから行う時間はない。DX推進では一歩先を行く海外のツールも取り入れ、アジャイル開発で様々な施策が模索され、その結果を用いて次のフェーズへ進んでいる。
こうした中、ベンダー企業は受託開発型のビジネスをやめてユーザー企業が主体となれるようコーチング支援をする伴走型にしないとDXの実現は難しい。2020年に経済産業省が発表した「DXレポート2」は、ユーザー企業とベンダー企業の共創による、業務のデジタル化が必要と提唱している。
さらに米国 ITおよび通信分野に関する調査・分析を行うIDC社は、2014年にSocial、Mobile、Analytics(ビッグデータ分析)、Cloudで構成された第3のプラットフォームが企業のICTを大きく変革すると指摘した。
IT試算のデータでは、2020年に世界で消費・生成されるデータ容量は59zettabits(590億TB)。IoT、テキスト、画像、音声、動画など非構造化データが80~90%を占める。企業が発生させるデータは10%程度で、残りの90%は消費者発であった。これだけのデータは社内のデータベースに蓄積できないので、クラウド、共通基盤、共創基盤、SaaS、DaaSの活用が必要となってくる。こうした中、東氏は「企業は社内データより一般消費者のデータをどう活用するかが非常に重要です」と語った。
CDPで顧客アプローチもパーソナライズも自在に
消費行動がデジタルシフトする中で、マーケティングに関するあらゆるテクノロジーを包含するマーケティングテクノロジー(MarTech)。中でもCDP(Customer Data Platform)は、バラバラに管理され分断されていた消費者情報が統合できるのが特徴だ。顧客へのアプローチの一元化や、高度なパーソナライズオファーの提示、高度なデータ分析が1ヵ所で行える。
このように同じデータソースで、SMSを使ったマーケティングとAIなどを使った高度な拡張分析ができるのだ。しかし、単に社内に散らばるデータを1ヵ所に集めてBIで見える化するだけであればCDPである必要はない。ニーズを把握して、どういったツールが必要なのかを見極める力が求められる。
またCDP、DMP、DataLakeなどデータ基盤の発展とともに、ウェブトラッキング、メール、APIを中心とするMAの活用も進んだ。BtoB向け、BtoC向け、大規模なデータハンドリングなど、それそれ役割が明確に分かれている。そしてDWHに蓄積された顧客マスタ、購買履歴データなど、過去の莫大なデータを一貫して施策に活かす場合はキャンペーンマネジメントが採用されている。
近年、外資系ベンダーの大型M&Aによりツールの統合が進み、MAとキャンペーンマネジメントの統合も進んでいる。ベンダー各社の役割分担や得意不得意を理解し、自社のニーズを考えて、ツール選定をすることが重要だ。
アナリティクスツールを選ぶときのポイント
アナリティクスについて「(顧客から)分析ツールを使いこなせず、ツールが悪いのかデータが悪いのかもわからないと相談を受けます」と東氏。まずは分析対象を3つに分類することでデータ保持の仕方が変わると解説した。また、その考えた分析対象に対して何をするかといった分析のタイプを知る必要があると続けた。
こうして、どのデータに対してどの分析手法を選択するかを考え、ようやく次のステップに進むことができるのだ。
良い定義づけが分析の精度を上げる
ニーズが確定し、手元のデータと社内スキルを鑑みて、最終的にフィットするツールを選定する訳だが、ソリューションにはBIごとに特徴がある。
たとえば管理レポートや帳票にまとめる、エンドユーザーが自由な観点で簡単にいろんな角度でデータを見たい場合、100項目ぐらいから有効なルールやパターンを見つけてデータから要因解析したい場合など、それらはAIの力を借りて拡張分析を行っていくこととなる。
Pythonやオープンソースで統計解析を使って予測モデルを作る方法、他にはデータ基盤、機械学習の全自動化やツール自体の開発など方法やツールは様々ある。ただ、ツールを買ったら戦略を考えてくれる訳ではない。
ツールは、データを入力すると入力した通り解析する。異なる予測推測値を出してくれることもあるが、「そこは使い方の問題」だと東氏は言った。
正確なデータを導き出すには、良い課題を定義し、良い仮説を立てるノウハウが必要だ。ゼロから構築することは大変だが、専門業種、業界のコンサル会社やベンダー各社は、データと業界、ニーズで予測値と施策、その結果がおおよそ想定できる。
「このツールを買ったら全部できますというのは、たいてい何もできません。だからこそ良い課題を定義する概念を持ち、それに対し適切なアドバイスができるパートナー選びが重要なのです」(東氏)
自走を前提としたツールの活用で真のDXを目指す
ブレインパッドは、ニーズ・データ・目的に沿ったソリューション、システムを提案し、あらゆるフェーズでのデータ活用を支援している。中でも「Rtoaster(アールトースター)」は、データの収集・統合・分析・可視化・アクションまでをワンストップで提供している。企業のデータドリブンなマーケティング活動の効率化・成果創出を実現するトータルソリューションだ。
イスラエル発祥のバス&ボディケアコスメブランドSABONは、店舗接客の感覚を大切にし、消費者の趣味を理解した商品やサービスの提供を模索していた。そんな中、店舗接客時に「お客様は商品の『香り』を軸に商品を購入する傾向がある」というニーズをつかむことができた。
この施策の精度を高めるため、顧客の購買起因となる要因の「香り」を特定しパーソナライズを実施。Eコマースサイトの商品詳細ページでも「香り」に基づいたレコメンドパターンを明示的に行った。その結果、単なるおすすめよりも30%高いクリック率を獲得することに成功した。
さらにトップページをリニューアルし、以前と比べ41%もCVRを向上したという。また、顧客が初訪問でロイヤルティが高くない場合は、SABONの売れ筋商品のランキングを提示することで、閲覧やコンバージョンが30%上がった。
またアパレルメーカーのバロックジャパンリミテッドは、バラバラだったツールの一本化を実施した。Rtoasterで運用体制、費用の最適化を実現し、会員別にパーソナライズが可能なデータ基盤を構築。ブランド横断施策のため店舗とECのデータ基盤を整備し、他部門を巻き込んだ施策とコミュニケーションのため共通言語の整備を行った。
「DXはただツールを導入するのではなく、自走を前提としたとITやデータの活用が求められます。データのプロフェッショナルとともにツールを連携させ、施策のパーソナライズと自動化を実現させていくことが成功のカギとなります」と東氏は同セッションを締めくくった。