従来のセグメント方法は“リアル”を反映しているのか?
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに朴さんがGoogleで担当している業務について、教えて下さい。
朴:Googleのコンシューマー マーケット インサイトというチームでマーケティングリサーチマネージャーを務めています。主に担当しているのは、生活者の情報探索行動やインターネット上の消費行動を紐解くリサーチプロジェクトです。加えて、YouTubeやGoogle検索などGoogleのプロダクトの利用動向に関する調査や、マーケティングにおいてあるべきローカライゼーション(地域化)を研究するプロジェクトにも携わっています。
MZ:この記事では生活者のITに対する向き合い方を調査した結果を解説していただきますが、そもそもこの調査を実施された背景からお聞かせいただけますか?
朴:コロナ禍の影響を受け、我々の生活には積極的にITを使わざるを得ない場面が多々出てきました。今回の調査は、生活に大きな変化があった今現在、どれくらい生活の中でITが利用されているのか、その需要が今後どうなっていくのかを明らかにするために企画しました。
これに加えて、実はもうひとつ、重要な目的がありました。私自身、これまでに様々な生活者リサーチを行ってきましたが、マーケティングにおける従来の調査設計やセグメンテーションに疑問を持ち始めていたのです。今日までのマーケティング業界の代表的な手法として、性別や年齢、所得、学歴などのデモグラフィックデータに準拠する方法がありますが、実際の生活者に会ってみると、そう単純に分類できるものではない。果たして、従来のセグメンテーションの在り方が現実を忠実に反映しているのだろうか? という疑問を抱いていたのです。
MZ:なるほど。根本の部分から問い直す狙いがあったんですね。
朴:たとえば、ひとつの技術が社会に普及していく過程を説明する理論として、イノベーションの普及論というものがあります。この理論では、新しい技術を取り入れる順番で集団を分類しますが、現代のITに対して、この理論を当てはめることができるでしょうか?
SNSの利用意向、ネット上の消費行動、データプライバシーに関する問題などいずれにおいても、生活者一人ひとりの価値観や考え方によって取捨選択される時代です。利用していないから、ITに関するリテラシーが低い・遅れているということではなく、利用しないという選択肢やその意思も尊重されるべきである。Googleとしても、生活者のITとの関わり方における現実と多様性に寄り添いたいという思いがあり、今回のプロジェクトが始まりました。
7つのクラスタの特性を読み解く6つの因子
MZ:続いて、調査概要について教えて下さい。
朴:Googleでは、2021年6月より「日常生活のデジタル化における生活者意識行動調査」を定期的に実施しています。今回はこの初回の調査結果を分析し、生活者を「ITとの向き合い方」で分類することを試みました。まず行ったのは、因子の設定です。設問への回答を多様な角度から分析し、分類するクラスタの特性を読み解くための因子を次のように定めました。
因子1:ITに自信がある
ITへの関心が高く、積極的に使っており、新技術にも明るい。ITの活用に自分なりに自信をもっている。
因子2:匿名でいたい
実生活からSNSなどのインターネット上まで、プライベートな生活を周りの人や事業者に知られたくないと思っている。各種サービスも極力匿名で利用する。
因子3:ITによって生活が便利になっている
検索、EC、SNS、デジタルデバイスなどのITを取り入れることで、自らの生活が便利になっている実感を持っている。
因子4:ITによって社会が発展している
ITに関して、様々な視点から議論があることは認識しているが、ITが社会に良い影響を与えるという期待をもっており、そうした好影響を重視している。
因子5:便利と引き換えに個人情報を提供してもいい
ITの利便性を享受するためには、サービス提供者に個人情報を渡す必要があるなど、トレードオフを理解しており、そのことに納得している。
因子6:情報をコントロールできないと不安
自身の情報をコントロールできるサービスなら抵抗が薄いが、特に公共空間での監視カメラなど、無関係な第三者に把握され、コントロールできなくなることを懸念している。
これらの6つの因子を用いて特徴のある集団を抽出し、7つのクラスタに分類しました。