マーケティングの観点から注目すべきポイントは?
MZ:今回の調査全体を通して、朴さんが注目したポイントを挙げていただけますか?
朴:それぞれ非常に特徴が強い7つのクラスタを発見できたことは、大きな成果だったと考えています。というのも、年齢・性別・所得などのデモグラフィックデータをクラスタごとに見てみると、多少の偏りはあるものの、全体の中に7つのクラスタが一定の割合で存在していることがわかったのです。デモグラフィックデータを用い、20~40代の有職者、30~40代子有りなどの切り口でも分析をしましたが、いずれにおいても7つのクラスタが一定の割合で存在することを確認できました。
たとえば、マーケティング業界ではミレニアル世代やZ世代のIT利用行動を分析することが多々ありますよね。ですが、今回の調査では、ミレニアル世代やZ世代が取るとされている行動は、その世代の人たちに限られないということが明らかになっています。従来のデモグラフィックデータに準拠した生活者行動の理解は、実は局所的な分析に留まっていると言えます。
そして、ここでご紹介しているのは初回の調査結果を分析した結果ですが、定期的に異なるサンプルで調査を行い分析を繰り返しても、この7つのクラスタが再現されるのです。よって、非常に汎用性の高いクラスタを発見できたと自負しています。
MZ:マーケティング業界では、つい流行の先端を見てしまう傾向があるので注意が必要ですね。
朴:そうですね。どうしてもマーケティングでは、ITを積極的に使っている人や前向きな人が目立ちがちですが、そのような行動をしている生活者は全体の一部であることを認識しておくべきだと思います。私自身、今回の調査を通して、当たり前だと思っている事柄を問い直すことの難しさと重要性に気づきました。
ECによって買い物が便利になった、SNSやメッセンジャーによってコミュニケーションが取りやすくなったなど、自分達にとって当たり前であることに対して疑問を持って調査を設計するのは、実は難しかったのです。最初は、これで有効な結果が得られるのか? と不安もありましたが、ふたを開けてみると想定以上にITに対する態度は分かれていました。基本的な部分から疑って調査を設計できた点は、今回の調査の重要なポイントだったと考えています。
生活者の多様性を受け入れ、より個を重視したアプローチを
MZ:調査で生活者のITとの向き合い方が実に多様であることがわかったわけですが、マーケターはこの多様性をどう受け入れて、コミュニケーションを図ればよいでしょうか?
朴:今回の調査は、生活者をいくつかの集団に分けることを目的にしていたわけではありません。生活者一人ひとりのITに対する態度を分析し、その結果として7つのクラスタが見えてきたという思考の順序であったことをまずここで強調しておきたいと思います。
その上で、今申し上げたような、生活者をいくつかの集団に分けてラベルをつけるという手法は、これまでマーケティング業界で多々用いられてきました。この手法は、インターネット以前のメディア環境で、マーケターの視点から生活者を効率よく理解する際には有効だったと思います。
しかし、デジタルマーケテイングにおいては、一人ひとりに合わせたアプローチが可能です。これまで無意識的に従来のマーケティングの考え方に固執してしまっていた、生活者のリアルにより添えていなかった可能性があるという事実について、今一度考えてみるべきではないでしょうか。
MZ:何とも、耳が痛いお言葉です……。
朴:ただ、この7つのクラスタのすべての人を満足させることを考えるのは、現時点でのマーケティングでは非常に難しいと思います。ひとつの施策でアプローチできているクラスタだけでなく、アプローチできていないクラスタも一定数いることにも目を向けて、取り残している・寄り添えていない生活者がいないかを振り返る際に、今回の調査結果を活用・応用していただければと思います。