形骸化したルールなら、破っても誰も困らない
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高橋飛翔(以下、高橋): 双雲さんは個展での「あらゆる作品がまんべんなく売れた」という体験を通じ、アーティストとして自由な活動ができると確信を得られた半面、人の心が求めるものが多様ということで、難しさを感じたんじゃないですか?
武田双雲さん(以下、武田):人の感動ポイントはそれぞれだってわかっていたつもりでしたが、今回の結果は想像以上でしたね。そこで思ったのが、調査をして相手の立場に立つことはすばらしいけれど、それでわかったつもりになるのはもったいない要素でもあるなって。
みんなが求めるものを探して提供することも大切だけど、同時に、これがあれば絶対に相手が喜ぶだろうというものも発明していかないといけない。だからアーティストは発明家であることも重要で、人の話は聞きつつ、それを超えていくようなチャレンジをし続ける必要があると感じますね。
武田 双雲(たけだ・そううん)
1975年、熊本県生まれ。書道家の母の影響で、大学卒業後約3年勤めたNTTを退職して書道家に転身。
NHK大河ドラマ「天地人」をはじめ、数々の映画やドラマ、イベントの題字、商品ロゴなどを揮毫するほか、個性的な個展や書道パフォーマンスなど、独自性の高い創作活動で話題に。書道の域を超えて現代アーティストとしても活躍中。
高橋:とはいえ書道って、トメやハネなどルールがあるじゃないですか。色も黒一色ですし。その中でどうやってオリジナリティを出していこうと考えられたんですか?
武田:ルールや常識を守ることはすごく重要ですが、そもそも形骸化して意味のないルールなら、破っても意外と大丈夫というか(笑)。社会共通のルールだからってみんな守っているけれど、破っても誰も困らないどころか、むしろ得しないみたいな臨界点ギリギリのところを常に探っている気がします。
そうやって怒られるラインの直前までちょっとずつチャレンジしながらも、一歩引いて状況を見るということも必要で、そのバランスをクライアントによって使い分けている感じですね。
商売人になるとアートは書けない
高橋:前提になっているルールほど、「それは誰が決めたの?」という発想をしていかないといけないんですね。なんだか起業家としてのシンパシーも感じるお話です(笑)。
ただそうなると、前例がないものにどうやって価格を設定するのでしょうか?
武田:たとえば、たくさんの人を喜ばせた作品は価値が上がるだろうし、説得力のある人たちが僕の作品を買ったら、「あの人が買うのなら」と価格に反映されることもある。多分そんな感じで、みんなが思う「武田双雲の価値」が決まっていくのかなと。その積み重ねで依頼元やオファーの内容も変わっていったし、自然とその時々の価格の平均値が決まっていきましたね。
高橋:リアルな需要と供給によって価格が決まるんですね! 企業活動で商品・サービスを販売する場合とはまったく違ったダイナミズムがありますね。
武田:自分で自分の価格を付けるのって結構難しくて。だって、作り手が数字に気を取られると、一画いくらかなって損益分岐点を考えながら書くわけでしょ? 一画書くごとに「5万円」「10万円」とか考えながら書くの、嫌じゃないですか(笑)。売れることも意識して書かないといけなくなるし、商売人になるとアートは書けないですね。
マーケあり!ポイント
・双雲さんは、「関係者の立場に立ち、喜んでもらえるものを作る」という発想からさらに一歩進み、相手の立場に立つだけでは到達できない、想像を超えるレベルのものを作り上げようとする発明家的なアプローチにチャレンジしています。その過程においては、意味のないルールは破ることも辞さず、常にルールの臨界点を模索しながら作品を手がけられていました。その姿勢は、ある種起業家的ですらあります。